幸せのありか

神室さち

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第二章 恋におちたら

30 side樹理

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「じゃあ、そのときに私を見かけて?」

「だって、お姉さま、一人で裏方の仕事を黙々とされてたでしょう?」

「リナも翠も、それからほかの子達も、気になって気になって。どうしてこんなきれいな人が裏方なのかしらって」



 場所はまだ庭のテーブルだ。美礼は仕事があるからと席を立って、少女たちが三人、紅茶の茶碗を片手に座っている。

 三人が話しているのは、三月の始めに行われた中等部三年生たちの高等部見学日のことだ。


 中等部から春に高等部へやってくる生徒を、同じく春には三年になる樹理たちがもてなすのだ。中等部の生徒と直接話をする係りが一番人気なのだが、それは生徒の互選で同級生の中でも美人で社交的な人たちが選ばれる。樹理は誰でもなれる一番地味な裏方に立候補して、そんな誰に見せるでもない裏方など端からやる気のない同級生たちに代わってせっせと働いた。とはいえ、茶菓子とお茶を用意するくらいなのだが。

 地味な役なので、そんなにじっくり観察されていたとは思っても見なかった。

「入学式でも、バラを挿す係とか!! やっぱり一番貧乏くじを引いてるのが見えて、リナ達の面倒を見てくれるのはこの人しかいないと思って」

「高等部になると、ボクもリナもとっても有名人だから、さすがに上級生が放っておいてくれなくなるだろうから、早いうちに保護者を決めておこうかと」


「……今のを聞くと、私、ものすごく損な役を引き受けたように聞こえるんだけど?」


 樹理がそうつぶやくと、二人はそのとおりと高らかに、声を立てて笑っている。

「だって、リナ達が付きまとうようになってから結構当てこすりとかあったと思うんだけど、お姉さま全然そんなこと私たちに言わないでくれたでしょう?」

「そうそう、さすがにみんな、お姉さまになってあげるわよなんて言ってこないけど、ボク達にそう呼ばれたいって顔に書いてあるもんね」

「……あのねぇ じゃあ私に迷惑だとかいやだとか言われたらどうするつもりだったの?」


「えー だって」

 真里菜がニコニコ笑いながら翠に顔を向ける。

「断られるなんて思ってなかったもの。お姉さまなら絶対、迷惑に思っても私たちのこと邪険にしたりしないはずだもん」

 ねーっとうなずきあいながら二人、あっけらかんと笑っている。つまり、人のよさそうなところを買われたということなのか。


「でも、さすがにさっきは」

「あせったわ。おばあ様ったら怖いんだもん。でもよかった。お姉さまがやさしくて」

 にっこりと向けられるのは花のような笑顔だ。


「だから、リナ達もお返しをしようと思うの」

 ずいっと真里菜が笑顔のまま顔を近づけてくる。

「ええ、前からこれだとは思ってたんです」


「な、なにかしら?」

 再び改まった口調の二人の笑顔に思わず体をそらしながら樹理が問う。





「「来月の学園祭のミスコンでは絶対優勝してもらいますから!!」」


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