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学園☆天国
1 side夏清
しおりを挟む予告通りはじめからがっつり別作品の主人公視点です。いろんな人の視点にコロコロ変わるのはいつも通りですが、これまでの三人称視点ではなく一人称視点になるのでちょっと雰囲気が変わるかも。
もともと書いていた時は別の話を先に書いてあげていたのですが、時系列的にこちらが先なので順番を入れ替えました。
短編を6つはさんで最終章の予定です。よろしくお付き合いください。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
うわあああああ。暑っ
って言うか、六月半ば過ぎが夏になっちゃったのはいつからなのかしら。子供のころはもっと、六月は涼しかったような気がする。って言うか、梅雨ってどこに行ったのかしら。
弱冷房の車両でさえ、都心は乗ってる人が多くて不快度ゲージが上がってたのに、目的の駅に降り立った瞬間まとわり付いてくる日本の夏の、ねっとり湿り気を帯びた大気。さらに改札を抜けて炎天下。半そでから伸びた腕を容赦なくじりじり、ゆっくりと焼きにかかる太陽。
「眩し……」
右手をひさしにして目を細めれば、やっと車がすれ違えるくらいの、なんと石畳の道。その狭い路地の向こうに、見上げても足りないくらい高い塀。しかも、レンガ造りの上に矢じり型の突起が連なっている。塀の反対側、歩道のあるこちら側にはやたらお上品なた佇まいの低層マンションやビル。その一階には漏れなくおしゃれなカフェ、雑貨店、そして花屋。景色全体がまったり女の子色をしているような雰囲気。
「……着てくるもの、間違ったかも」
おそらく同じ行き先を目指す途切れがちの人並みは、微妙にハイソだ。斜め前を歩いている女性が着ているワンピース、そんなのどこで売ってるのか私には分からないよ。
高校の学校祭と聞いていたので、いたって普通の……いやちょっと派手目のオレンジの地に英字プリントのTシャツと、いつものジーンズ。こんなそこらのコンビニにふらりと行くような格好をしたような人が見当たらないのが余計に不安。ってか、おそらくこの人たちはコンビニに行くにもそれなりの格好をしてそうと言うか、そもそもコンビニなんか行くのか?
「だから言っただろ、スカートにしろって」
「………」
その長身を生かして日よけになってくれている先生が、斜め上からあきれたような言葉を降らせる。
「だって。あのズルズルしたのは電車ではちょっと動きにくいし……」
出かける先が都内を突き抜けるので、今日は車じゃなくて電車で移動。ウチから約二時間。あの長くてテロンとした生地で出来たスカートは、階段の上り下りがつらいし、ちょっとした風で足に絡むから歩きづらいのよ。
「赤いのは? 去年の今頃だろ、買ったの」
うん、まあ。私が持てるスカートって、制服以外だと赤いワンピースとあのヒラヒラの、二枚だけ。まあ、季節的にもあの赤いヤツがピッタリなんだけど。なんだけどっ
「………いの」
「え?」
他人に聞かれるのはちょっと恥ずかしいので、ちょっと先を行く案内してくれてる初対面の人物の背中を見て声のトーンを下げてつぶやいた言葉は届かなかったらしい。少し身をかがめて近づいてきた先生の耳元に、囁く。
「だからー……ちょっとキツくて」
「なんで? そんなに太ってないだろ」
「………ウエストとかはいいのっ! ってかまだ余裕! だけどそのっ……む、むね……っていうか、まあ」
「ああ、そう」
先生が身をかがめたまま、その視線を一点に固定。慌てて両手で胸元を隠す。いや、別に見えてるわけじゃないんだけども。
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