幸せのありか

神室さち

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華灯

5 side樹理

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 その後はそれぞれの学校の話でもりあがり、服の話題のときは、理右湖が思いのほか桜の成長が早いことを嘆いていた。

 車の中は話題と笑いが途切れることがなく、いまいち乗り切れていなかった樹理も自然に笑って相槌が打てるようになり、気がついたら目的地だったらしいとても有名な百貨店の駐車場ゲートをくぐっていたが、出発からはすでに一時間近く経っていた。


 土曜ということもあるのか、駐車場はほぼいっぱい……というより、満車の掲示だ。どうやって車を止めるのだろうと思っていたら、駐車場最上階の入り口付近で黒いスーツの男性が手を振っている。何の躊躇もなくその誘導にしたがって、実冴が車を止める。


「いらっしゃいませ氷川様。お待ちしておりました」

 ぞろぞろと車から降りると、四十代くらいのその男性が最敬礼で実冴に頭を下げている。

「ごめんね急に。早速だけど案内してもらえる?」

 謝っているが態度は偉そうだ。何が入っているのか大きな白い紙袋を渡している。


「あの人は?」

「お母さん担当の外商の人。基本ほしいもの家に持ってきてくれるのが仕事だけど、こうやって来たときもいつもついてくれるよ。車を止めるとこも確保してくれるし」


 誘われるままエレベータの前まで歩きながら近くにいた逢に小さな声で尋ねるとこともなげにさらりと返された。

 まもなくついたエレベータで二階分降りる。みんな慣れた様子で男性について歩いていくが、何度かここを訪れたことのある樹理も、この階は来た事がない。というか、寝具などがメインの階に用がなかった。


「下のディスプレイに展示していたものもこちらに運ばせましたので、どうぞごゆっくりご覧になってください」

 何を買うのだろうと思いながらついていくと、奥の一角が呉服売り場であることがわかった。ますますご縁のない売り場だ。こんな場所があったことさえ樹理は知らなかった。

 きれいな着物や帯がずらずらとかけられている。時代劇の呉服屋のように、丸められた反物も棚の中にたくさん置かれている。


「着物買うんですか?」

「着物は売るほどあるから今のところ買う予定はないわよ。今日はこっち」

 そう言って実冴が指差した先は、仕立て上がりの浴衣がかかった棚だ。桜と椿、そして逢がすでにめぼしいものを取り出してお互い首元にあてている。


「あ、これかわいい、樹理ちゃん来てー」

 水色の生地にピンクと紫のなでしこの柄の浴衣を持って桜が呼んでいる。

「こっちは? かわいいと思うんだけど」

 逢が持っているのは薄い黄色地に薄緑で月とウサギがプリントされている。

「ああ、これ私ほしい」

 赤い地に大小の水玉が白く抜かれた幾何学模様の浴衣を持った椿に、理右湖がまだその柄はアンタには早いとその手から取って棚に返す。きゃあきゃあと自分の着たい柄行を品定めを始めた娘たちに、実冴があきれたように声をかけた。


「あんたたち、今日のメインは樹理ちゃんの選びに来たんでしょうが」

「え? 私の?」

 娘たちを苦笑しながら見ていた理右湖がつぶやいた言葉に、樹理が不思議そうに理右湖を見て問い返す。樹理の顔を見て、おどけたようにしまった、口が滑った……と口元を押さえて笑って実冴に視線を移す。


「そ。樹理ちゃん、お誕生日でしょ、今日」


 理右湖にごめんねというような目を向けられて、実冴が仕方ないなぁというような顔をしながら微笑んだ。


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