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華灯
12 side樹理
しおりを挟む先ほど三島を待ったときよりもさらに長かったと思うが、せいぜい二分ほどだ。事の顛末を見たいのか、用はないから行っていいわよと実冴に言われたにもかかわらず、所在無げにまだいる三島がゆらゆら体を揺すっている。
どのエレベータも昇り降りとも結構な人が乗っているのに、どうもたった一人だった瀬崎がエレベータから飛び出してきた。一度自分の足で躓いてこけかけてその勢いもつけて走ってやってくる。
「うわあ、どうしよう、本物の樹理さんだ」
「あ、ご無沙汰しております」
深々と瀬崎にお辞儀をする樹理に、慌てて瀬崎も頭を下げる。
「あの、どうしてここに? もしかして副社長に呼ばれたとか?」
「いえ、呼ばれたのではなくて……なんていうかその……」
「だましうちね」
「そうですね……じゃなくて。連れてきてもらったんです」
後ろでぼそりとつぶやいた実冴に同意しかけて、樹理が慌てて言い直す。
「あはははは。んじゃ 樹理ちゃんまたねぇ 哉くんによろしく言っといて。三島、ついでだから九階まで案内しなさい」
片手を上げた実冴が逃げそびれた三島を従えてエレベータのほうへ去っていく。
「あ、ご案内します。こっちです」
乗り込んだエレベータの扉が閉まるまで手を振っていた実冴と、その隣で苦虫を潰したような顔をしている三島を見送って、なんだか手間を取らせてしまった受付にも一礼して先に行く瀬崎を追って樹理はその場を後にしたので、その後受付嬢がつぶやいた言葉は樹理に届かなかった。
「なにあれ、反則じゃない。若いし。学生?」
「噂って尾ひれつくから実際たいしたことないんじゃないって思ってたけど……」
「はいはい。いいから笑顔笑顔。受付がシケた顔してちゃだめでしょう」
瀬崎と何か会話を交わしながら役員用のエレベータの到着を待っている樹理をちらちらと眺めながらため息混じりに上を仰ぐ後輩たちを、真ん中の受付嬢がたしなめるように笑いながら言った。
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