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華灯
17 side樹理
しおりを挟む青から紺、そして街並みにかすんだ遥か遠くにオレンジの残滓が消えて空が漆黒に染まる。このビルと同じくらい高いビルの角に、赤い光が瞬いている。
「きれい」
窓ガラスに額をくっつけんばかりに身を近づけて、樹理が眼下を見下ろしている。足がすくむほどの高さなのに、怖さよりも美しさのほうが勝る。
瀬崎が差し入れたものは案の定大半が残っている。
秘書室に持っていこうかと思案していたとき、控えめにドアがノックされ、鈴谷の声がする。
「失礼します」
どうぞと声をかけると、心持ち頭を下げるような姿勢で鈴谷が入ってきた。
「食後にアイスはいかがかなと思って。といっても、食堂の自販機で売ってる系列会社のなんですが。わりとおいしいんですよ」
右手にプラスティックのスプーン、左手にアイスのカップが二つ重ねて乗っている。
「ありがとうございます」
アイスの引力か。窓に張り付いていた樹理がいつの間にか鈴谷のところに行ってアイスを受け取っている。
「食べきれないんだが、そっちは?」
「あ、こっちも余ってるんですよ。よかったら持って帰ってください。今みんな部屋にはいないし。もうすぐ花火が始まるから、見える窓があるところに移動しちゃって」
「篠田も?」
「あ、そう言えば室長の姿はだいぶ前からないです。奥様がお見えみたいで」
それではと部屋を辞する鈴谷が、明かりないほうがきれいにみれますよとドアの横のスイッチを切ってくれた。一礼を残してドアを閉めた鈴谷を見送って、ならば篠田はさらに上の最上階かと天井をちらりと一瞥する。
「氷川さん、イチゴとチョコ……じゃなくてコーヒーですね、どっちがいいですか?」
スタンダードにバニラを選ばない辺りが鈴谷らしい。右手にピンク、左手に茶色のカップを持った樹理が近づいてくる。迷うことなく左手のカップを取る。
「そっちだと、花火が見えないと思うが?」
律儀に応接セットに座ってアイスを食べようとふたを開けている樹理に声をかけるのと同時に、窓の外が一瞬明るく光る。
「やっぱりな。花火は河口の方で上がるから、この部屋からだと窓際じゃないと見づらい」
立って食べるわけには行かないと思ったのだろう、律儀にアイスを置いて立とうとした樹理にそのまま持ってくるよう言って、執務用の肘掛がついた椅子を窓のほうへ回す。
「ありがとうございます」
アイスを持ってやってきて、素直に樹理が椅子に座る。その後ろで執務机に腰掛けて、アイスのふたを開けて、黙って右斜め下で瞬いて消えていく光を見下ろす。
「私、こんな風に花火を見下ろしたの初めてです」
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