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セカイデ イチバン
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しおりを挟む「……すごい、氷川さん勝っちゃった」
「ま、実際スポーツカーに乗ってる人間の方がスキルが高いのは当然だわな。椿の腕もかなりだけど。今度カート乗りに行くか?」
テレビの方を見たままびっくりしている樹理の背後から、いつの間にやら戻ってきていた速人が酒をちびちび舐めながらものすごい落ち込みっぷりの椿を慰めてやっているらしい。
「あ、哉、お前アレまだ持ってんだよな? 乗らねぇならくれ」
「あんなの貰ってどうすんのよ。実質ツーシーターだし」
「え? 往診とか?」
「近所のジジババん家なんかチャリで十分でしょうが。却下却下。うかつに駐禁なんか取られちゃったら稼ぎがパーじゃないの。知ってる? あの車、カブリオレじゃないクローズドタイプですら雨の日に乗ったら雨漏りするのよ?」
「んなアホな」
「知らないのー? んで、本社に『雨漏りしたぞ』ってクレームの電話かけたら受付嬢に『わが社の車を雨の日に乗るなんて非常識です!』って叱られるのよ?」
「……どんなギャグネタですか……」
ほろ酔い気分らしい理右湖が楽しそうに話すのを、速人が呆れた様子でツッコミを入れる。
「哉くんの車は大丈夫なの?」
「……それは昔の話。それに、俺の車とは違う」
「え。雨漏りマジなの?」
「馬ついてるじゃないのっ 違うの?」
ほぼ同時に、速人と理右湖が切り返す。
コントローラを桜に渡して、戻ってきた哉が椅子に座りながら、それでも気に入って買った車のことだからか淡々と説明を続ける。
「俺のはドイツ車。あれはイタリア車。もともと、イタリアは雨が少ないから長時間風雨にさらされることを想定してない。それに、塗装も甘いから濡らしたらサビ易くなる。向こうで乗ってる人間はそれをわかってるから、受付嬢に非常識だと罵られる。知らないのは『高級車』の触れ込みで買った日本人くらい」
「いや、雨降りを想定しないイタリア人の感覚がわからん。ワイパーは一応ついてんだろ? それって雨の日OKってことじゃねぇのかよ」
「初期のころのあの車のワイパーは飾りだ。雨が降ったら動かなくなることもあったらしいけど、今は欧州車でも日本の気候に対応してきているから、そんなに故障もしない。クローズドタイプならもちろん雨漏りもしないし、濡れてもワイパーも動く」
今度はチーズをピラミッド型に積み上げながら、哉が事もなげに言う。
「趣味で昔の持ってるヤツ、車検はどうすんだよ」
「濡らさなければワイパーモータが動くから問題ない。通る」
「意味がねぇ……ってか詳しいな」
「……………」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
受付嬢に怒られる云々は昔のネタです。事実かどうかは私も知らぬのです。
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