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OVER DAYS
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しおりを挟む最初は小さな違和感だった。
何がどうとははっきりとは言えないけれど、何かが確実に変わってきていることは判る。そんな微妙な感覚であり、それを表現することはできない。
例えば、人間の顔のパーツは一ミリもずれたら驚くほど別人になったりするが、そこまでとは言わずとも生き物である以上毎日少しずつ変化しているものだから、地球の地殻変動くらいの速度での変化だからなんとなく、昨日と雰囲気が違う……くらいのものでしかないのだが。
ただ、ある朝突然唐突に、昨日まで取引中止で決定していた協力工場を大幅なリストラと改革を前提としていたが取引継続リストに返り咲かせた。バブルを未だに引きずっているような企業体質で、真っ先に切り捨てたその会社の再生計画を自ら立てて成り行きを見守っていく構えらしい。
初めて私情を挟んだのかと表情を窺っても、無表情に長年の付き合いのある提携会社に取引をやめると告げた時の顔と変わりがない様で、その時は全くその理由が判明しなかった。
執務室で仕事をしている時は全く以前と変らないが、偏りまくった食生活と激務の為にもともと『最低限』だった体調管理もおろそかになり始め、失いつつあった人間らしさが戻ってきた。一時よりも肌の色艶も良くなってきているおかげだ。
強引で独裁的な采配で始まった工業部門の再生計画も、反発を受けながらも、少々遅滞がありつつも、哉の提案したプランに沿って進みつつある。
年末年始は、カレンダー上十三日の連休になっているが、哉にそんなものは関係ない。ここぞとばかりに仕事が詰め込まれている。やっと目処が立ちつつあるのに、ここで人並みに休んでしまえばまたどこかで綻ばないとも限らない。来年の年末は静かに長く休みが取れることを祈り、仕事ばかりの二ヶ月に文句も言わない妻に感謝しつつ、篠田は哉に付き合って出勤だ。ついでに加えると、女性秘書には少し短めで十日ほどの連休があるが、瀬崎は道連れだ。
そんな休日出勤を終えて、いつもより空いている道をマンションへ向けて走る。
いつからか、送り届けた時に彼の部屋の電気がついていることには気付いていたけれど、歓迎できないような変化はなく、寧ろ仕事はしやすくなっているので篠田はその件について社長への報告を留めている。
帰りの車の中、いつも口元を引き結んで己の中に埋没する哉が、時々不意に笑みをこぼす。バックミラー越しにだが、初めて見たときは一瞬握ったハンドルがぶれるほどびっくりしたが、無意識に上がっている口角は、考えの足りない者の発言に辛らつな切り替えしをした後のそれと全く雰囲気が違う。
いつものようにするりと車を降りて、その背中がふっと力を抜くのがわかる。仕事中は一切力を抜かずいつだって気負ってしゃんとしているし、以前は車から降りてもその状態を維持していたのに。
常に緊張状態でフル稼働。以前の哉は家に帰っても仕事のことばかり考えていたに違いない。けれど最近は、そんなピンと張った単調な生活は緩やかに消失して、良い意味で緩むことが出来ているらしい。メリハリがあると言う事は、常時張り詰めているより効率がいいものだ。
仕事においても私生活においてもよい方向へ向かっていると思っていた矢先。
これまでの更生計画の進捗状況の報告会で、それは起こった。
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