幸せのありか

神室さち

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OUT OF DAYS

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「……あ、はい」

 一枚には大阪本社副社長の肩書きで氷川和と言う名が、もう一枚には副社長秘書室長、久木とある。


 名刺を渡されて、瀬崎も慌てて己の名刺を差し出す。続いて増本、鈴谷とも名刺交換を終えた向こうの秘書は、役目は終えたとばかりに和の後ろに控えてしまう。


「えっと、瀬崎君やっけ。あのめっさ有能そうな秘書サンからなんか聞いとる? 聞いてへんの? うわぁ なんやもう、あかんやん。全然わからへんやんけ。わざわざ来たのに骨折り損の草臥(くたび)れ儲けかいな」

「……」

「んー でもなんかヒントないんかなぁ キミらなんか思い当たる節ないか? 些細なことでも気になったことお兄さんに言うてみ?」


 誰も答えないが大きな独り言らしく、周りの無反応さも気にせずにガサガサと勝手に篠田の机を漁っている。

「ん? アレ? なんやコレ。何でこんなもんがこんなトコにあんねん」


 一番大きな引き出しを全開にして、明後日の方を向きながら奥に手を突っ込んで指先の感覚で見つけたらしい名刺大の紙をまじまじと右から左から眺めて、徐(おもむろ)に受話器を取ってどこかに電話を掛けている。

「ホンモンかなぁ コレ」

 コール音を立てているらしい電話を右手で持ち、左手の人差し指と中指の間に挟んだ紙を例(ためす)返しに裏表とヒラヒラさせて、和が呟く。そのままで一分近く経ってさすがにもう受話器を置こうとしたところ、誰かの声が微かに聞こえて、和がすぐさま耳に当てている。


「あ。ホンマに繋がった。もしもーっし。大じい様? ホンモン? ええそうですよ、和ですわ。え? 何でこの番号知っとるかって? いややわぁ ヘビの道はなんとやらって言うやないですか。………白状するからそれだけはカンベンしてくださいお願いします」


 イスの背もたれに身を預けてヘラヘラした喋りだしから一転、和がいきなり標準語で机に平身低頭せんばかりに頭を下げて、現在地とこの電話番号をどこで手に入れたのかを詳(つまび)らかにしている。なんでも、篠田の机の天板の裏、引き出しの天井に貼り付けてあったらしい。


「勝手に掛けたのは謝ります、ごめんなさい。でも本当に教えていただけませんか? 何をって哉のことですよ、哉の。ヤツが出した辞表、なんだかすんなり預かったってことは、大じい様なんか知ってはるんでしょう? えー そこを何とかッ! 今度大阪来はった時、ええ店紹介しますさかい。え? んなトコ行ってなにしはるの……判りました、何とかします。天地神明ビリケンさんに誓って! えー なんで俺はアカンのですかー 替わるんですか? ええですけどー」


「は?」


 今度はやたらニュートラルに関西弁へシフトして行くのを同じようにぽかんと見ていた瀬崎は、受話器が差し出され、条件反射のように受け取ってから今更のようにびっくり素っ頓狂な声を上げた。


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