262 / 326
OUT OF DAYS
3
しおりを挟むすみません、同じ話を上げていました。教えてくださった方、ありがとうございます。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「えーっとな、大じい様の役職なんやったっけ。ええから早よしゃべり」
「はっ ハイ! 瀬崎デス!!」
若干声を裏返しつつ、和に促されて瀬崎が声を上げる。受話器を耳に当てたまま、直立不動でとにかく返事は『ハイ!』のみ。その姿を見て増本が、緊急時の対応の仕方についてもうちょっと鍛えておけばよかったと縦皺のついた額をほぐすように指を動かしている。
『おうおう、瀬能か』
「……セザキ、です」
『まあ、名前はどうでもよいわ』
内心どうでも良くないだろうと突っ込みながらも、さすがに口には出さずに瀬崎はじっと相手の次の言葉を待つ。
『ああ、先にクギ刺しとくがの、目の前に居(お)る阿呆にこれから言うことを喋ったら地の果ての支社に送るからの、気を付け』
「はぁ」
ちらりと目の前に座っている和を見やると、興味津々の輝いた目で瀬崎を見つめている。電話を切った瞬間からあの関西弁でまくし立てられたら、どうやってかわしたらいいのだろう。
『哉だがの、ちぃと前に父親と付き合うとる女のことでなんぞ諍いがあったようでなァ……アレが自分の父親に真っ向から逆ろうたわ。長生きはするもんだのぅ』
「ハァ!?」
同じセリフなのに別のものに聞こえるほど素っ頓狂な声を上げた瀬崎に、和と同様その電話を窺っていた室内の面々がびくりと後ろに身を引く。
「え。ちょっ……マジ……じゃなくて、本当に?」
『おうおう、『まじ』じゃ『まじ』一遍片付いたらしいんじゃがまた何ぞあったようでのぅ あの哉がの、仕事なんぞ放り出してええと思ったらしいわ。ホンマにしょうのないひ孫だわい。とりあえずワシがこっち側を丸め込む間待っとれ。篠田も暫く出んからお前らで何とか持ちこたえとけ言うとったらしいぞ』
「へっ!? し、室長も来ないって……どういう……」
『ではな。喋るなよ』
ちん。
「……………」
「なぁなぁ 大じい様、なんて? 何言うてた?」
ツーツーと響く受話器を、暫く手放せないまま立ち尽くしていた瀬崎が、和の問いかけにびくりと反応した。
「え。……っと」
じっと見据える瞳が八つ。
じりっと背中に汗が噴出す感覚を覚えながら瀬崎が口を開く。
「……親子喧嘩、だ、そうです」
嘘は言っていない。嘘は。
「は?」
瀬崎以外の全員が、その答えに同じ言葉……というよりは、息のようなものを吐いた音がした。
0
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
Fly high 〜勘違いから始まる恋〜
吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。
ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。
奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。
なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる