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愛し君へ
19 side樹理
しおりを挟む哉からは、他愛のないことだと言われているが、時々日本──瀬崎や琉伊や夏清──とやり取りするメールの文章から推察するに、やはり戻ってきてくれと説得を受けているのだろう。
瀬崎の『これでもグチを九割がた自主削除』したと言うメールは、最初の頃はほぼ泣き言で埋まっていた。けれどそこには『哉を会社に戻してくれ』と言う言葉は一回も出てこず、最後は『なんとか頑張ってみます』という前向きなのかどうなのかよくわからない一言で締められていた。
その後も会社での顛末などをなぜか樹理に知らせてくれる。もちろん、哉のところにももう少しきちんとした文章で、メールが届いているそうだ。
琉伊からのメールは、近況と一緒に毎回萌花の写真がついていて、時々、逢が加わっている。
夏清とは、以前から変わらない感じのやり取りが続いていて、ちいが体調を崩すと途切れがちにはなるが、お互い負担にならない間隔を置いて近況を伝えあっている。
船に乗って幾日かすぎた、日本の領海を越えたころ、夏清からかなりテンパった様子のメールが届き、それを読んで、どうやらこの国外逃亡の理由が捏造されていることを知ったが、実際言いふらしたいことではないし、また会った時に話せばいいと哉にも言われ、申し訳ないが黙っておくことにした。
「ほらほら、樹理ちゃん、切って」
ぼんやり考え事をしている間に、順番が回ってきたらしい。牌をとり、不要な牌を切る。思った牌が集まりきらないのは、誰かと被っているせいだろう。
他の牌をそろえる為に今の牌に見切りをつけるか……しかし、そうすると被っている人にとられる可能性がある。どうしたものか。
むぅと牌に意識を向けていると、対面にいた大橋夫人が、欲しかった牌を切ってきた。
「あっ! ポンです」
「あら、樹理ちゃんだったの?」
取られちゃったわーと、さして不満もなさそうに大橋が笑う。
結局、その後の流れで珍しく樹理がロンを告げて勝負がついた。
「最近樹理ちゃんが強くなってきたわねぇ」
『いい見切りができるようになったのね』
自動卓が牌を飲み込んでいくのを見ず、予定回数終えて皆でカフェへ移動した。
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