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ランドルフからの要請
しおりを挟むランドルフからの急ぎの要請に、国王はすぐさまオーランドを呼び出した。
「オーランドよ! 例の特効薬が大量に必要になった。隣国内で病が蔓延しているらしい……。もしランドルフらに何事かあれば、さらなる混乱は必至。なんとしてでも無事に戻さねばならん……!! 急ぎ用意せよっ」
王命を受け、オーランドはすぐさま薬の増産に取りかかった。王立薬学院に在籍する全研究員とすでに引退した者を呼び出し、メギネラを主とした材料を国中からかき集めた。
それを聞きつけ、ミリィもオーランドのもとへとかけつけた。
「オーランド様!! 私も手伝いますっ。リーファ会やモーリア侯爵夫人たちにも協力を仰ぎましょう! 知識がなくとも薬の製造以外の補助程度ならばできますし、それに皆さんの食事などのお手伝いもできますから!!」
ミリィの声がけに、王立薬学院にはたくさんの人間が集まった。
「オーランド様っ!! 追加のメギネラですっ。それからこちらの班の皆さんは一度休憩を取ってくださいっ。こちらに食事を用意してありますっ!!」
「わかった! それからミリィ、急ぎでこれをすりつぶしてくれっ!!」
「はいっ!!」
全員が脇目もふらずに懸命に薬の生産を続けた。けれど目標とする数にはなかなか届かない。無理もない。なにせ一国の民全員に行き渡るほど大量の薬が、一時に必要になったのだから。
オーランドも焦っていた。爆発的な感染力はすでによく知っている上、治療が遅れれば遅れるほど治癒にも時間がかかる。特効薬の効果は絶大とはいえ、せめて他の代用薬で時間稼ぎができればいいのだが……、と考えを巡らしていた。
そして必死に生産を続けること三日――。オーランドはついに決断した。
「このままでは、全員に行き渡るだけの特効薬の増産は厳しい。国内にある材料にも限りがあるからな……。となれば、救う手はひとつしかない……!!」
薬を作る手を止め、オーランドがガタンッ、と勢いよく立ち上がった。
「今すぐに隣国へ出立する……! 私が直に患者を診れば代用薬でも治癒可能かどうかの判断もつくし、道中の森でメギネラの採取も可能だからな」
「オーランド様が……隣国へ!? で……ですが、あちらの国では今戦いが……!!」
ミリィの言葉に、オーランドは首を振った。
「私は患者を救うために薬学者になったんだ。そこに薬を必要としている患者がいるのなら、そこが私のいるべき場所だ……! ミリィ、君はここで増産の手伝いを続けてくれ。君がここで頑張ってくれていると思えば、私も心強い」
「オーランド様……。……なら、私も行きます!! 私も……オーランド様とともに隣国へ行きますっ!!」
そう告げたミリィを、友人たちが一斉に引き止めた。
「ミリィ!? あなた何を言っているの? そりゃあなただってオーランド様の助手として薬を作った経験はあるけど、ただの貴族の令嬢なのよっ!?」
「そうよっ!! 戦争が起きている国にわざわざ行かなくても……!! もしも危険な目にあったら……」
「いくらなんでもそれは無茶よっ!! ミリィ!!」
ミリィはぐっと口元を引き締め、首を横に振った。
確かに自分には戦う術はない。けれど、これまでの経験で少しはオーランドの助けにはなれる。自国の民の命も隣国の民の命も同じ命。特効薬と適切な治療さえすればちゃんと助かるはずの命が失われていくのは、あまりに悲しい。
それに――。
「あちらにはランドルフ様がいるんです……。ランドルフ様が隣国で今まさに助けを必要としているのなら……、その手助けをできるのならなんとしてでもかけつけたい。ともに戦いたい。大切な命を、平穏を守るために! 皆、心配かけてごめんなさい……。でも私、助かる命がそこにあるのなら行くわ!」
やわらかく、けれどまっすぐに揺るぎない目でそう微笑む姿は凛として、決意が揺らがないことは誰の目にも明らかだった。オーランドはしばし黙り込み、ミリィをしばし見つめるとあきらめたように口を開いた。
「……覚悟はできているんだな?」
「ええ! 私はオーランド様の助手ですからっ! ともに行きましょう!! 私たちにできる最善を尽くすために!!」
オーランドは不安をのぞかせながらも、どこか喜びを隠しきれない様子でうなずいた。
「……あぁ。わかった。ならばありったけの材料とでき上がった薬を、すぐにかき集めろ。それから軽症患者用の代用薬も……! あとは……」
「はいっ!! すぐに用意しますっ!!」
ミリィとオーランドとは、周囲の不安をよそにテキパキと出立の用意を整えはじめたのだった。
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