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あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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芽吹きはじめた未来

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 アズールが前国王を玉座から引きずり下ろして、半月が過ぎた頃。王都は次第に活気を取り戻しつつあった。

「ミリィ! 頼まれてた薬持ってきたぞっ。あとランドルフ様がこれをミリィに届けてくれってさ!!」 
「ありがとうっ! 代わりにこれをオーランド様に渡しておいてねっ。あっ! あとこっちは数日中には皆回復しそうだって伝えてっ」
「あぁ、わかった!! じゃあなっ」

 ミリィはスカートの埃を払い、立ち上がり周囲をぐるりと見渡した。

 当初たくさんの患者たちでぎゅうぎゅうにひしめき合っていたベッドには、最近ではちらほら空きも目立ちはじめていた。特効薬と治療のおかげで、治療中の患者たちにもそれほど重症な者もいない。
 それになんといっても、アズールがこの国の新しい為政者として王の座についたことで、食料も薬も潤沢にまわり始めたことも大きい。
 いまだ国内の物流は滞ったままではあるが、この調子ならば元の活気あるにぎやかな王都の姿を取り戻すのも時間の問題だろう。

 ミリィたちの仕事もすっかり落ち着きつつあった。一息つく間もなく治療と製薬に追われていた日々が嘘のようだ。この国にきてからというものいつもの無愛想っぷりに拍車がかかっていたオーランドの表情も、ようやく和らいできた気がする。

(そろそろこの国での役目もおしまいね。お医者様も皆解放されて、あちこちの町や村で治療が進んでいるっていうし……)

 前国王が無理矢理に自分のそばに集めていた医者たちは、すべて解放された。牢獄に捕らえられていた者もすべて。その医者たちがこの国の患者たちを診ることができるようになり特効薬も行き渡りはじめた今、ミリィたちの出番はない。
 オーランドの特効薬も、弟子となったジングが引き継いでいる。そのうちオーランドがいなくても、薬を供給することができるようになるだろう。

 ミリィはほぅ……と安堵の息を吐き出した。
 そして先ほど届いたばかりのランドルフからの知らせを手に取った。


『婚約者殿

 こちらは順調に、前体制の膿出しが進んでいる。
 アズールも近頃では国王としての威厳が漂いはじめてきたようで、王宮内にも良い風が流れ出したように思う。
 そちらはどうだろうか?
 あなたのことだから毎日患者たちのためにと忙しく走り回っているのだろうが、あまり無理をしないように。

 まもなく帰国の途につく目処も立ちそうだ。国へ戻り次第、各所への挨拶回りやら王宮での祝宴やらで息を付く間もないだろう。その前に、あなたと過ごす時間が持てるよう心から願っている。 


 ランドルフ』

 
 久しぶりの手紙に、ミリィの口元がふわりと緩んだ。
 同じ国の同じ王都にいるにも関わらず、もう二週間近くランドルフと顔を合わせていない。ランドルフはアズールとともに新しい体制作りの準備に追われているし、ミリィはミリィで王都中の患者たちの治療でてんてこ舞いだったから。

 そんな中でも、ランドルフはこうして時折手紙を送ってくれる。おかげでアズールやランドルフが今どれほど一生懸命に頑張っているかも手に取るようにわかるし、治療のやる気にもつながっていた。けれど、どうあったったって寂しさは拭えない。こんなにすぐそばにいるのに、隣国にきて以来ゆっくりと話をする時間を一度も持てずにいたから。

 でももうそんな寂しさも残りわずかだ。この国はアズールという心から国を思う為政者のもとで、新たな一歩を踏み出したのだから。
 きっとアズールならば、この疲れ切った国を平穏で良い国に生まれ変わらせることができるだろう。自分たちも国を立て直すための力になりたいと、民がアズールのもとに結集しはじめていると言うし。
 明るい未来は、もうすぐそこまでやってきていた。くだらない戦争なんかない、皆が平穏に暮らせる明るい未来が。

 ミリィは微笑みを浮かべ、ほぅ……と息を吐き出した。

「やっと終わるのね……。なんだか夢中でもがいている間に過ぎ去った気もするけれど、無事に済んで良かったわ。国に戻ったら今度は……」

 そしてはたと思い出した。ランドルフが言っていた、国へ戻ったらあらためて求婚したいというあの言葉を。

「ランドルフ様が私に求婚……、ってことはつまり、その先にあるのは結婚……よね?? 国へ戻ったら……、ランドルフ様と結婚、するのかしら……。私……」

 どうにも実感がわかない。つかの間の婚約者から正真正銘の婚約者になって、まだそう時間はたっていない。そんな自分がランドルフと結婚するなど、まるで夢のようで。
 花嫁衣装を身にまといランドルフの隣に立つ自分を想像して、ミリィは顔を真っ赤に染めた。

「嫌だわ。私ったら何をひとりで妄想しちゃってるのかしら……! もうっ!!」

 ふと脳裏にはじめた会った日のリーファがよみがえった。あのぱっと光輝くような明るい黄色が――。
 その幸せで明るい希望の光に満ちた妄想は、この上なくミリィの心をときめかせ一日中頬を緩ませ続けたのだった。
 


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