7 / 8

しおりを挟む
 ハリルは膝をついたまま、はらはらと涙をこぼしながらすがった。

「父上……、なぜ。なぜなのです。同じ息子ではありませんか。私と、リカルド。母親が違うというだけで同じ息子なのに、どうして!リカルドばかりが褒めたたえられ、次期国王に相応しいのはリカルドだと、なぜ皆口を揃えて言うのですっ。私だって……私だって」

 床に頭を何度も打ち付け、その額から血を滲ませながらハリルが嗚咽する。

 ハリルとて父親に認めてもらおうと自分なりに頑張ってはいたのだ。ただその努力や意識の向け方が、大きく歪んでいただけで――。

「ハリルよ。お前にすべての咎があるとは言わぬ。悪いのはお前までも利用しようとしたアルビアであり、またそんな欲を見抜けなかった私の責任だ。だが、お前はアルビアと共謀して何度もリカルドの命を狙い、フローラまで陥れようとした。お前の加担した罪もすべて調べはついているのだ、ハリル。いさぎよく罪を認めて、もう楽になれ」

 国王の声に隠しきれない情がにじんでいたことに、ハリルは気づかない。ただ絶望にその目を伏せ、狂ったように床の上で暴れていた。

「二人を拘束せよ」

 国王の声が告げた。

 それを合図にハリルの元に衛兵がその両腕を抑え込もうとしたのを見たアルビアが、弾かれたように動いた。が、それとリカルドが動いたのは同時だった。

「あぁっ……!!」

 その動きは俊敏だったが、それを見越していたかのような動きでリカルドがそのドレスの裾を踏み、アルビアの暴れる身体を押さえ込む。

 アルビアはハリルが拘束されようとしているのを見て、一人逃げ出そうと駆け出したのだ。
 息子を置いてでも自分だけは助かろうとするその姿に、ハリルは「あぁ……嫌だ……もう何もかも嫌だ……。どうして、どうして……」と何度も何度もうわ言のように繰り返す。

「……アルビア、そしてハリル。二人には極刑を申し渡す。自分たちの罪を最期の時までしかと見つめるが良い」

 そう告げる国王の声に、わずかに苦悩と後悔がのぞいた。

「ああっ……! どうかっ、どうか命だけはっ。あなた、ご慈悲ですから……。それに、ハリルはあなたの血のつながった息子ではありませんか! せめて命だけはっ!」
 
 アルビアの懸命な命乞いに、国王は表情を曇らせ目を閉じる。

 アルビアはともかくとして、ハリルにはやはり血を分けた息子として滲む苦い思いがあった。別に側妃の産んだ子だからという理由でどうとも思っていなかったわけではないのだ。ただやはり、ただ一人心から愛した王妃の忘れ形見で次期国王の器としても申し分のないリカルドと比べて、ハリルに物足りなさを感じそれほど目をかけてこなかったことは事実だった。

 しかし苦悩を感じつつも、それでも国の安定を思えばここは温情をかけるべきではない。それは国王自身、よくわかっていた。それが国を背負うものの役目でもあるのだから。

 連れて行けと口を開こうとした国王の言葉を、リカルドが止めた。

「陛下。確かに国を私利私欲のために利用し、もしかすれば国の未来さえ危うくしかねない重罪を犯したことは確かです。ですが二人の命を絶てば、民はそれで納得するでしょうか」
「……極刑は不適だと申すか」

 もう一人の息子の言葉に、国王は厳しい表情を浮かべて問いかけた。

「私はこれまで多くの国を見て参りました。その中で、必ずしも絶対的な力と支配が良き国を作るのではないことを学びました。消えた命はすぐに忘れ去られましょうが、もし二人の残りの命が今現在もこの国のため費やされていると思えば、きっと民も納得することでしょう。ですからここはあえて極刑ではなく、この国のために生涯その身を使役し捧げるという形で刑に服させるという道もあるかと存じます」

 国王は、しばし苦悩の表情で黙り込んだ。

 衣擦れの音ひとつせず、誰もが事態の成り行きを息をのんで見つめていた。国王の決断を、この国の未来の王の姿を。

 リカルドは、ハリルへと視線を向ける。二人の視線がほんの一瞬だけ交わり、そして離れた。

 ついぞ分かり合うことのなかった腹違いの兄と弟の、これが最後の瞬間かもしれないとリカルドの心にも苦い後悔が滲んだ。権力という絶大な力が目の前にあったために、普通の兄弟として向き合うことができなかった苦々しい思いは、リカルドの中にもある。だが今さら取り戻しようもない。

 国王が重々しい声で、静かに告げた。

「……アルビア、ハリル。お前たちには西の離島にて終身刑を申し渡す。あの地にてその命が終わるまで、この国のため生涯身を粉にして働くように。……以上だ。連れていけ」

 その言葉とともに、がっくりと力なくうなだれたアルビアとハリルは衛兵にがっしりと拘束され、ずるずると引きずられるように退室していった。

「……リカルド。この度は誠にご苦労だった。この国のため苦汁を飲んでくれたこと、大儀に思う。そして伯爵家長女フローラ、そしてその次女ミルドレッド。そなたたちにも嫌な役回りをさせたこと、許せ」

 リカルドは父親の心中を思いながら、胸に手を当て目を伏せた。
 そして国王直々に謝罪とねぎらいの言葉をかけられたフローラとミルドレッドもまた、深く首を垂れるのだった。

 これで、断罪は終わった。
 長い断罪までの日々それぞれに重ねてきた思いを胸にしまい、誰もが言葉少なにこの結末を複雑な思いとともに受け止めたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きだった幼馴染みに再会→婚約者を捨ててプロポーズした侯爵令息

星森
恋愛
侯爵家の令息エドモンドは、幼い頃に結婚を誓い合った幼馴染コレットへの執着を捨てられずにいた。 しかし再会した彼女は自分を避け、公爵令息アランと親しくする姿ばかりが目に入る。 嫉妬と焦燥に駆られたエドモンドは、ついに“ある計画”に手を染めてしまう。 偶然を装った救出劇、強引な求愛、婚約破棄── すべてはコレットを取り戻すためだった。 そして2人は……? ⚠️本作はAIが生成した文章を一部に使っています。

愚かな王太子に味方はいない

遥彼方
恋愛
「オレリア・ヴァスール・ド・ユベール。君との婚約を破棄する」  20歳の誕生日パーティーの場で、俺は腕に別の令嬢をぶら下げて、婚約者であるオレリアに婚約破棄を言い渡した。  容姿も剣も頭も凡庸で、愚直で陰気な王太子。  全てにおいて秀才で、華麗な傑物の第二王子。  ある日王太子は、楽しそうに笑い合う婚約者と弟を見てしまう。 二話目から視点を変えて、断罪劇の裏側と、真実が明らかになっていきます。 3万文字強。全8話。「悪女の真実と覚悟」までで本編完結。 その後は番外編です。 この作品は「小説になろう」にも掲載しております。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。 私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。 それなのに裏切りやがって絶対許さない! 「シェリーは容姿がアレだから」 は?よく見てごらん、令息達の視線の先を 「シェリーは鈍臭いんだから」 は?最年少騎士団員ですが? 「どうせ、僕なんて見下してたくせに」 ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

処理中です...