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レクナ村
朝
しおりを挟む鳥のさえずりが、薄いテント布越しに透けて聞こえてくる。
どこか湿った森の匂いも、夜よりずっと薄い。
はるはまぶたをゆっくりと持ち上げ、天井の布の揺れをぼんやりと見つめた。
体はまだ重いけれど、昨夜より息がしやすい。
頭の奥の熱も、じりじりとした痛みから、微熱の余韻程度へと落ち着いていた。
「……目、覚めた?」
やわらかい声。
振り向くと、椅子に腰掛けていたルートが、朝日を浴びたような明るい笑みを向けていた。
「は、い……あ、えと…。」
「あ、俺はルートだよ。よろしくね、はるくん。」
「…るーと、さん」
「もう少ししたら団長…アルバートが来てくれるからね。昨日はるくんを森で見つけてくれたんだ。」
「アル、バートさん…?団長…?」
声はまだかすれていたが、ルートは「うんうん、喋れそうだね」とうれしそうに頷いた。
「セナとは交代したところ。あの人、見た目よりずっと几帳面でね、高熱が下がるまでずっと見てたよ。
はるくん、もう微熱だから安心していいって。」
そう言いながら、ルートは水の入ったコップを差し出す。
はるが手を伸ばそうとすると、その動きに合わせてそっと支えて飲ませてくれた。
「……ありがとう、ございます」
「礼はいらないよ。はるくんの方が大変だったしね。
それで――ちょっと聞いてもいい?」
優しい目のまま、けれど副団長らしい鋭さが一瞬だけ宿る。
「どうして、あの瘴気の森にいたの?」
はるは一度まばたきをして、記憶をたぐる。
(……信号待ちしてて……白い光……それから……)
思い出そうとすると、胸がぎゅっと締めつけられた。
ルートはその反応を見て、慌てず、急かさず、声のトーンを落とす。
「言える範囲でいいよ。つらいなら無理に言わなくても大丈夫だからね。」
はるは小さく首を振った。
はる自身何が起こっているのか分からなかったが、優しく聞いてくれる声に今できる限りのことは答えたい――そんな思いが自然に湧いた。
「……気づいたら……森の中で……苦しくて、動けなくて……
どうしてそこにいたのか、俺……わからなくて……。」
言いながら、自分の服――学ランの存在にも気づき、胸元を弱く握る。
ルートはその姿を見て、一瞬だけ深い思考を落としたような静けさを見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「そっか…うん、ありがとう。怖かったね。」
慰める声が、不思議と染みる。
はるが息を整えようとした、その瞬間――
テントの入り口布が、風を切るように静かに揺れた。
ルートがちらりと視線をそちらへ向け、すぐに微笑を深める。
「……おはよう、団長。」
影が差し込む。
長身で、朝の冷たい空気を纏ったまま、アルバートが姿を現した。
アイスグレーの髪に、冷たく透き通る青い瞳。
けれど、その視線はベッドの上のはるを見ると、ふっと柔らかくなる。
「……起きていたか」
低く落ち着いた声。
はるの胸の奥に、安心の余韻がじわりと広がる。
「……アルバートさん……」
名を呼ぶと、アルバートはほんのわずかだけ眉を和らげた。
「熱はどうだ」
その問いは短く、けれど気遣いが真っ直ぐで、胸に届く。
「……だいぶ……楽に」
はるが返すと、ルートが「順調だよ」と補足し、
アルバートはそれを聞いて静かに頷く。
朝の光が差し込むテントで、
三人の空気は穏やかで――はるは、自分が確かに“守られている”と感じていた。
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