9 / 64
レクナ村
あたりまえが
しおりを挟むルートは椅子からゆっくり立ち上がり、アルバートへ視線を向けた。
「はるくん、あの森にいた理由だけど……どうやら“気づいたらそこにいた”らしい。
瘴気でまともに動けず、ほとんど覚えていないって」
アルバートは無言で聞き、しばらく深い思考へ沈んだように目を伏せる。
やがて視線を上げると、はるへ向けて低く穏やかな声で言った。
「……そうか。つらかったな。もう心配はいらない。
しばらくは我々の保護下にいると思って安心していい」
その言葉は飾り気がないのに、驚くほど胸に温かく響く。
アルバートは続けて状況を説明するように口を開いた。
「今日はここで休め。おまえが完全に動けるようになるまで一日は必要だ。
俺たちは明日、ここを発つ。さらに南――南方のレクナ村で魔物被害が出ている。討伐のために向かう予定だ」
はるは静かに息をのんだ。
(魔物?討伐…?レクナ村……?まるでゲームの世界みたいだ)
「……えと、えっと…。」
知らないワードばかりで戸惑うはる。
「あの…魔物?って、、なんですか?」
その言葉が落ちた瞬間、テントの中の空気がほんのわずか張りつめた。
気づかないほど小さな変化。
けれどルートとアルバートは、確かにその違和感を捉えた。
ルートは驚いたように片眉をわずかに上げ、
(魔物を……知らない?
この国どころか、この大陸で“魔物がいない場所”のほうが珍しいのに。
どこで育てば知らずに済む?
……記憶が抜けている?
囚われていた…?それとも、、)
思考が音もなく深まっていく。
アルバートは、はるの不安げな表情をひと目で察し、
静かにその張りつめた空気を断ち切った。
「……魔物は、瘴気から生まれる“異形”の生き物だ。
形はさまざまだが、人に危害を加える存在と思えばいい。
討伐が俺たち騎士の仕事だ。」
はるは小さく頷く。
そのとき――テントの布が揺れ、外から足音が近づいてきた。
「様子はどうだ?」
低いけれど少し荒い、聞き慣れつつある声。
セナが診察道具を抱えて入ってきた。
セナは手際良くはるの診察をしていく。
「はるくんがね。
“魔物を知らなかった”って言うんだ。」
その一言で、セナの指がぴたりと止まった。
ブルーの瞳が細くなる。
「……魔物を、知らない?」
その声音には驚きよりも、警戒と興味がないまぜになっていた。
ルートは状況を短くまとめて説明した。
セナは話を聞き終えると、はるをまっすぐ見つめ、
しかし声はどこまでも柔らかかった。
「……まあいい。
んなことよりも体が先だ。まだ熱は残ってる」
口調は荒いようで、はるに触れる指先は丁寧だ。
「安心しろ。ここでは誰もおまえを傷つけない。
体を治すことだけ考えてりゃいい」
はるは小さく息を吐き、胸の奥がほんの少し軽くなるのを感じた。
ルートは腕を組んだままぼそりと呟く。
「……やっぱり、ただの迷子じゃない気がするねぇ」
アルバートは無言でそれを制するように視線を送った。
「今は、はるの回復が最優先だ。
ほかは……後で考える」
その言葉は命令のように静かで、
だが誰よりも“守る”という意思が宿っていた。
19
あなたにおすすめの小説
声だけカワイイ俺と標の塔の主様
鷹椋
BL
※第2部準備中。
クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。
訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。
そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる