光と瘴気の境界で

天気

文字の大きさ
35 / 64
王都

2

しおりを挟む



重厚な扉の前で、一行は足を止めた。

王城――謁見の間。
長い歴史を刻んだ白石の壁には、王国の紋章と幾つもの戦の記録が刻まれている。
その場に立つだけで、自然と背筋が伸びる空気だった。
はるは外套とフードを外す。

「入れ」


低く通る声が響き、扉が静かに開かれる。

中は想像以上に広く、天井は高い。
赤い絨毯が玉座へとまっすぐ伸び、その先に――王がいた。

立派な顎鬚を蓄えた老王、エクリシア国王。
柔らかな眼差しをしているが、その奥には長年国を率いてきた者だけが持つ重みがある。

アルバートとカエルスが一歩前へ出て、片膝をつく。

「第一騎士団長、カエルス。ただいま参上いたしました」
「第二騎士団長、アルバート。謁見の栄を賜り、恐悦至極に存じます」

はるも見よう見まねで頭を下げるが、動きはぎこちない。

その様子を見て、王は小さく笑った。

「よい、よい。楽にしてくれ。
アルバートよ。討伐ご苦労。――そしてよく見つけてくれた。」

「陛下」
「何だ、カエルスよ」

先ほどまでピシッと流れるような動作で作法をみせていたカエルス。ほんの少し拗ねたような口調で

「第二騎士団長は彼を見つけていたにも関わらず、報告を怠っておりました。」

優しく微笑んだ眼差しがカエルス、アルバートとゆっくり向けられる。

「知っておるよ。カエルス。
アルバートも混乱を防ぐためだろう?そなたらの考えは分かっておるよ。ーーよいのだ。今彼が目の前にいるのだから。」

そして――王の視線が、ゆっくりとはるへと向けられた。



「……ほう」


一瞬、空気が変わる。

「そなたが、黒眼黒髪の子か」


はるは、心臓が強く打つのを感じた。
視線だけで見透かされるような感覚に、思わずアルバートの袖を握る。

その様子を見ながら王は玉座から立ち上がり、杖をつきながら数歩前へ出る。

「こちらへ。」

アルバートは一瞬だけ迷い、はるの背に手を添えて促した。

「大丈夫だ」

その一言に支えられ、はるは数歩前へ出る。



王はじっと、はるの顔を見つめる。
黒い瞳、黒い髪――伝承に語られる“救世主の色”。 


「……やはり、間違いない。
この目で…しかと確認した。」


王の声には、確信と――期待が混じっていた。



「よくぞ来てくれた、少年。名は?」

「……は、はる、です」

か細い声にも、王は満足そうに頷く。

「はる。良い名だ。
そなたはこの国にとって、何よりも尊い存在だ」

その言葉に、アルバートに見えない緊張が走る。


「聞いておるぞ。村を瘴気と魔物から救ったとな。
しかも、あの規模の光……いや、“黒”の力でな」

王は笑みを浮かべたまま、続ける。


「我が国は長年、瘴気と魔物に悩まされてきた。
だが――そなたが現れた。
これは、神の導きに他ならぬ」

はるは、言葉の意味を完全には理解できないまま、ただ立ち尽くす。




「安心せよ。王城で最高の環境を用意しよう。
そなたは魔法について、ましてやこの世界について…知らないと聞いておる。
この世界について、魔法の指南、護衛、治癒……すべて揃えてやる。不自由はさせない。」


そして、はっきりと告げた。


「そなたの力で、この国の瘴気と魔物を一掃してくれ。」

その瞬間。

「陛下」

低く、鋭い声が割って入る。

アルバートだった。

「はるは、まだ回復途上です。
力の詳細も、制御方法も確立されていません。
現時点での過度な期待は――」

「分かっておる」

王は遮るように言い、だが視線ははるから外さない。


「だからこそ、時間をかける。
その“時間”を、王城で過ごしてもらうのだ」


一見、慈悲深い言葉。
だが、その裏にあるのは――逃げ場のない決定。

カエルスは腕を組み、無言で状況を見据えている。

はるは、胸の奥がひやりとするのを感じた。


(……ぼくは……)


その時、アルバートの手が、はるの肩に静かに置かれた。

「陛下」

「何だ、アルバート」

「はるの身は、第二騎士団が責任を持って守ります」

一切の揺らぎのない声。

王はしばし沈黙し、やがて深く頷いた。


「よかろう。
――期待しているぞ、黒の君」


その言葉が、はるの胸に重く落ちる。

こうして、
はるの“王城での生活”が――
そして、逃れられない運命が、静かに幕を開けた。









***

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

***


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋
BL
※第2部準備中。  クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。 訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。 そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――

宮本くんと事故チューした結果

たっぷりチョコ
BL
 女子に人気の宮本くんと事故チューしてしまった主人公の話。  読み切り。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました

陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。 それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。 文通相手は、年上のセラ。 手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。 ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。 シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。 ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。 小説家になろうにも掲載中です。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

処理中です...