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王都
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しおりを挟む重厚な扉の前で、一行は足を止めた。
王城――謁見の間。
長い歴史を刻んだ白石の壁には、王国の紋章と幾つもの戦の記録が刻まれている。
その場に立つだけで、自然と背筋が伸びる空気だった。
はるは外套とフードを外す。
「入れ」
低く通る声が響き、扉が静かに開かれる。
中は想像以上に広く、天井は高い。
赤い絨毯が玉座へとまっすぐ伸び、その先に――王がいた。
立派な顎鬚を蓄えた老王、エクリシア国王。
柔らかな眼差しをしているが、その奥には長年国を率いてきた者だけが持つ重みがある。
アルバートとカエルスが一歩前へ出て、片膝をつく。
「第一騎士団長、カエルス。ただいま参上いたしました」
「第二騎士団長、アルバート。謁見の栄を賜り、恐悦至極に存じます」
はるも見よう見まねで頭を下げるが、動きはぎこちない。
その様子を見て、王は小さく笑った。
「よい、よい。楽にしてくれ。
アルバートよ。討伐ご苦労。――そしてよく見つけてくれた。」
「陛下」
「何だ、カエルスよ」
先ほどまでピシッと流れるような動作で作法をみせていたカエルス。ほんの少し拗ねたような口調で
「第二騎士団長は彼を見つけていたにも関わらず、報告を怠っておりました。」
優しく微笑んだ眼差しがカエルス、アルバートとゆっくり向けられる。
「知っておるよ。カエルス。
アルバートも混乱を防ぐためだろう?そなたらの考えは分かっておるよ。ーーよいのだ。今彼が目の前にいるのだから。」
そして――王の視線が、ゆっくりとはるへと向けられた。
「……ほう」
一瞬、空気が変わる。
「そなたが、黒眼黒髪の子か」
はるは、心臓が強く打つのを感じた。
視線だけで見透かされるような感覚に、思わずアルバートの袖を握る。
その様子を見ながら王は玉座から立ち上がり、杖をつきながら数歩前へ出る。
「こちらへ。」
アルバートは一瞬だけ迷い、はるの背に手を添えて促した。
「大丈夫だ」
その一言に支えられ、はるは数歩前へ出る。
王はじっと、はるの顔を見つめる。
黒い瞳、黒い髪――伝承に語られる“救世主の色”。
「……やはり、間違いない。
この目で…しかと確認した。」
王の声には、確信と――期待が混じっていた。
「よくぞ来てくれた、少年。名は?」
「……は、はる、です」
か細い声にも、王は満足そうに頷く。
「はる。良い名だ。
そなたはこの国にとって、何よりも尊い存在だ」
その言葉に、アルバートに見えない緊張が走る。
「聞いておるぞ。村を瘴気と魔物から救ったとな。
しかも、あの規模の光……いや、“黒”の力でな」
王は笑みを浮かべたまま、続ける。
「我が国は長年、瘴気と魔物に悩まされてきた。
だが――そなたが現れた。
これは、神の導きに他ならぬ」
はるは、言葉の意味を完全には理解できないまま、ただ立ち尽くす。
「安心せよ。王城で最高の環境を用意しよう。
そなたは魔法について、ましてやこの世界について…知らないと聞いておる。
この世界について、魔法の指南、護衛、治癒……すべて揃えてやる。不自由はさせない。」
そして、はっきりと告げた。
「そなたの力で、この国の瘴気と魔物を一掃してくれ。」
その瞬間。
「陛下」
低く、鋭い声が割って入る。
アルバートだった。
「はるは、まだ回復途上です。
力の詳細も、制御方法も確立されていません。
現時点での過度な期待は――」
「分かっておる」
王は遮るように言い、だが視線ははるから外さない。
「だからこそ、時間をかける。
その“時間”を、王城で過ごしてもらうのだ」
一見、慈悲深い言葉。
だが、その裏にあるのは――逃げ場のない決定。
カエルスは腕を組み、無言で状況を見据えている。
はるは、胸の奥がひやりとするのを感じた。
(……ぼくは……)
その時、アルバートの手が、はるの肩に静かに置かれた。
「陛下」
「何だ、アルバート」
「はるの身は、第二騎士団が責任を持って守ります」
一切の揺らぎのない声。
王はしばし沈黙し、やがて深く頷いた。
「よかろう。
――期待しているぞ、黒の君」
その言葉が、はるの胸に重く落ちる。
こうして、
はるの“王城での生活”が――
そして、逃れられない運命が、静かに幕を開けた。
***
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
***
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