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王都
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しおりを挟む王城の回廊は、朝の光を受けて白く長く伸びていた。
高い天井に反響する足音が、はるの胸の鼓動と重なる。
「……大丈夫か」
アルバートの低い声に、はるは小さく頷いた。
肩に添えられた手の温度が、さっきまで張り詰めていた体を少しだけ現実に引き戻す。
「うん……ちょっと、頭がふわふわするけど」
「無理はするな。まだ、始まったばかりだ」
その言葉の意味を、はるは完全には理解できなかった。
けれど――“終わっていない”ことだけは、はっきりと分かった。
測定室の空気は、ひんやりと澄んでいた。
白い床に刻まれた幾重もの魔法陣が、はるの足音に反応するように淡く光を強める。
「円の中央に立ってくださいね。」
「……うん」
はるは小さく頷き、円の中央へ進んだ。
足元に立った瞬間、空気がふっと変わる。
――ざわり。
何かが、目覚めた。
セナが眉をひそめ、即座に結界を展開する。
「……反応、早すぎるな」
「まだ何もしていないのに、陣が勝手に――」
研究員の一人が息を呑む。
水晶柱の表面に、黒でも白でもない、深い揺らぎが走っていた。
アルバートは一歩前に出ようとしたが、
カエルスが腕を上げ、静止させた。
「待て」
低く、鋭い声。
「……見極める」
カエルスの視線は、はるから一瞬も逸れない。
剣士として、そして第一騎士団長としての本能が告げていた。
――これは、剣では斬れぬ類のものだ。
ミエルが慎重に詠唱を始める。
「魔力波形、第一段階測定。
……流入、確認」
水晶柱が一斉に光り、
次の瞬間――
空気が、沈んだ。
「……っ」
はるは思わず胸元を押さえた。
苦しいわけではない。ただ、重い。
体の奥深くから、何かがゆっくりと引き出される感覚。
「大丈夫だ、はる」
アルバートの声が、はっきりと届く。
それだけで、不思議と足がすくまなかった。
セナが数値を確認し、思わず舌打ちする。
「……やっぱりだ」
「セナ?」
「通常属性に分類できない。
光にも、闇にも、どこにも“固定”されてない」
研究員も震える声で呟く。
「これほど純度の高いエーテル反応……
文献でしか見たことがありません」
その瞬間。
水晶柱のひとつが、ひび割れた。
「――はるくんっ、出力を下げて!」
ミエルが叫ぶが、
魔法陣はすでに、はるの魔力に“同調”してしまっていた。
はるの視界が、ぐらりと揺れる。
(……あ、まずい、、どう…すれば…)
無意識に、力を抑えようとした――その時。
「はる!」
アルバートが、結界を越えて一歩踏み出す。
次の瞬間、
はるの魔力の揺らぎが、ぴたりと止まった。
まるで――
“命令”ではなく、“安心”に応じたかのように。
魔法陣の光が落ち着き、水晶柱の揺れも収束する。
室内に、重い沈黙が落ちた。
ミエルが、ゆっくりと息を吐く。
「……測定終了だ」
セナがはるのもとへ駆け寄り、即座に脈と魔力を確認する。
「大丈夫だ。消耗はあるが、危険域じゃない」
はるは、ほっとして力を抜いた。
「……ごめんなさい」
「謝るな」
アルバートが即座に言った。
「制御できている。
むしろ――想像以上だ」
カエルスが、腕を組んだまま一歩前に出る。
「……なるほどな」
(…強固に作られた水晶柱も意図せず、破壊するか……
さらには…自分での制御は難しいと。)
灰色の瞳が、鋭く細められる。
「これが、“黒の力”」
はるを見下ろし、はっきりと言った。
「確かに、国を救う力だろう。
――同時に、国を滅ぼす力でもある」
一瞬、室内の空気が張り詰める。
だが、カエルスは続けた。
「だからこそ」
視線をアルバートに移す。
「お前が必要だ、第二騎士団長」
「……」
「この少年は、“兵器”として扱えば壊れる。
剣の理だ。だが切れ味の良い刃ほど、無理に振るえば砕ける」
アルバートは静かに答えた。
「最初から、そのつもりはない」
その言葉に、はるは胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
沈黙の後、カエルスが短く息を吐いた。
「……陛下には、そう報告する」
そして、はるに向き直る。
「小僧」
少しだけ、声の棘が抜けていた。
「お前は、まだ“選べる”位置にいる。
それを忘れるな」
はるは、しっかりと頷いた。
「……はい」
測定室の扉が、再び開く。
王都での生活は、
守られながら、試される日々になるだろう。
けれど――
はるの歩みは、もう止まらなかった。
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