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王都
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しおりを挟む丘の上の野営地は、静かだった。
瘴気の気配はほとんどなく、風は草を撫でるように穏やかに吹き抜けていく。
はるはその場所で、アルバートと共に二日間過ごした。
無理な移動もなく、結界も張られている。
セナとミエルの診察を受け、決まった時間に食事をとり、眠る。
身体は少しずつ軽くなり、息苦しさも完全に消えていた。
魔力波形も、ようやく安定域に入った。
「……回復、順調ですね」
焚き火のそばで記録板を閉じながら、ミエルが頷く。
ーーー
その間、討伐は止まらない。
副団長のルートが率いる第二騎士団は、丘を拠点に周辺の魔物を掃討した。
瘴気に引き寄せられた中型魔物、地を這う異形、夜行性の群れ。
連携は完璧で、致命傷を負う者はいなかったが――
帰還した騎士の中に、腕を押さえる者がいた。
深くはない。
だが、確かに血の滲む、かすり傷。
その光景を、はるは遠くから見ていた。
(……僕が……)
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
セナが応急処置をし、
「この程度で回復魔法は使わないからな」と低く言いながらも、
確実に傷を塞いでいく。
それを見つめながら、はるは小さく唇を噛んだ。
その夜。
焚き火が小さくなり、周囲が静まり返った頃。
はるは、意を決したようにアルバートとルートのもとへ歩み寄った。
「……あの」
二人が同時に顔を上げる。
「どうした?」
「?珍しいね、はるくんから話しかけてくるなんて」
少し照れたように、はるは視線を落としたまま言った。
「今日……怪我した人、いましたよね」
「?ああ。軽傷だよ」
ルートが即答する。
「……それでも……」
はるの声が、わずかに震えた。
「僕、何も……できなかったなって……」
言葉を探しながら、続ける。
「力があるって言われて……
でも、使い方もわからなくて……
ただ、見てるだけで……」
はるは、ぎゅっと両手を握りしめた。
何もできないもどかしさが、どこか焦りに変わっていた。
「……悔しくて、」
その正直な言葉に、焚き火の音だけが答える。
ルートは一瞬目を伏せ、やがて、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……優しいね、はるは」
アルバートが、低く、しかしはっきりと告げる。
「今は、それでいい」
はるが顔を上げる。
「はるは、“戦う場所”にいない。無理に戦う必要もない。」
「焦らなくていい。全てははるの気持ち次第だ。」
ルートも頷く。
「力は逃げないし、はるの価値は“役に立つかどうか”じゃない」
「……でも」
はるは、小さく息を吸った。
「……それでも……
いつか、ちゃんと……
守る側に、なりたいです」
アルバートは、少しだけ目を細めた。
「…その時が来たら」
彼は静かに言う。
「俺が、隣に立つ」
その言葉は、迷いがなかった。
はるの胸に、温かいものが広がる。
(……今は、まだ……)
――でも。
(いつか……)
焚き火の向こうで、炎がぱちりと音を立てた。
黒の力は、眠っている。
だが、それは消えてはいない。
はるの中で、
“守りたい”という想いとともに、
静かに、確かに、育っていた。
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