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アリシア~レティシア目線
しおりを挟むアリシアには、聖女の力が確かにあった。
ほんの、少しだけ。
火傷を癒す程度の力。小さな風邪を治すくらいの術。
それでも、民は歓声を上げた。
「神の力だ」と喜び、ラゼル様も満足そうに微笑んだ。
けれど、それだけでは“神託”は下りない。
神の意思を受け取り、未来への道を示す。
その“本当の聖女の証”を、彼女は一度たりとも得ていない。
私は、それを知っていた。
祈りの質、力の流れ、気配の静けさ。
神は、選ぶ者にしか語りかけない。
アリシアは、それを痛いほどわかっていたはずだ。
だからこそ、巧みに演じた。
神託が下りた“ふり”をした。
民が泣きながら問いかければ、
「今は言葉にならないみたいだわ」
と微笑み、
陛下が真意を問えば、
「神の声は時には、支離滅裂なことを言うみたい。大丈夫、たいした意味はないみたい」
と首を傾げる。
ごまかし続けてきた。
“見えなかった”
とは言わせない。
“聞こえなかった”
とも言えない。
その絶妙な曖昧さの中に、
自分を置き続けた。
そして誰も、それを疑おうとしなかった。
「神託なんて、もともと曖昧なものだ」
「信じることこそが、信仰だろう?」
言葉とは、便利な鎧だ。
その鎧をまとった者に、真実は届かない。
けれど、私は見ていた。
彼女が祈っているふりをしながら、時折指先を震わせるのを。
神の気配が全く降りていない空間で、必死に“信仰の演技”を続ける姿を。
ああ、この子は知っているのだ。
自分が
“本物ではない”
ことを。
それでも、王都の人々は彼女を信じた。
だから私は、何も言わなかった。
神は気まぐれではない。
必ず、選ばれた者にしか語らない。
そして、神が語りかけなくなったとき、
その場に残るのは、力でも容姿でもない。
“信じられたという重み”
と、
“偽物だったという後悔”
と、
“ 神託は曖昧はない”
という現実だけだ。
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