[完]聖女の真実と偽りの冠

さち姫

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それなら、動くだけ~アリシア目線~

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「お義姉が、王都に戻る?」

報せを耳にした瞬間、胸の奥がひりついた。

恐怖? 

違う。

怒り? 

それとも、

悔しさ?

いいえ、これはただの少しの焦りよ。

もしかしたら、私の座を奪われるかもしれない、という、絶対にありえないけれど、人というのは少しの事で不安になる。

それと同じ。

けれど、お義姉様“南の果てで神託を受けた”という噂は、今や都でも広がっていた。

癒しの光が走り、病が静まり、土地が蘇った。

まるで、かつての“真実の奇跡”のように語られている。

「そんなはず、ない」

鏡の前で、私は桃色の巻き髪を整えながら、小さく呟いた。

ピンクの瞳が、かすかに揺れている。

私の方が、“聖女”として認められた。

神殿の中でも、王宮でも、すべてが私にひれ伏した。

いや、させた、のだ。

だって、そうしなきゃ私の存在価値がない。

神官たちと手を結び、都合の悪い祈りは握りつぶし、

都合の良い“神託”だけを民へ示してきた。

「民に混乱を与えぬためだ」

「王都の秩序を守るためだ」

そんな大義名分のもとで、私たちは“信仰”を都合よく作り替えてきたのだ。

お義姉様が戻ってくれば、また崩れる。

「お義姉様、邪魔だわ」

私の邪魔をしないでよ。

 

夜更け、私は神殿の奥の小部屋で、魔術師に囁くように言った。

「協力して欲しいの」

前にも、お義姉様を“黒魔術の徒”に仕立てた時の男だ。

「また“演出”ですか、聖女様?」

「ええ。今回は、南で起きた“神託”を“魔の囁き”にすり替えるの。 “奇跡”じゃなくて、“禁忌の術”だったってことにするのよ」

「噂だけで?」

「まさか。神殿に“痕跡”を残して。 祈祷室の床下に、使い古しの魔導具を埋めておく。それと、魔に通じる古語の書もね。南の言葉で書かせて、信憑性を増すのよ」いつものこと、というように男は小さく笑った。

「王太子には、“レティシアの神託には奇妙な点がある”と知らせるの。些細な違和感を、疑念に変える。それだけで充分」

「そして彼女が疑われ始めれば民の信仰も揺らぐ。そういう計画ですか」

「そう。私たちは王都を、神の名のもとに守ってきた。

 いまさら“真実”を名乗る者に、すべてを壊されてたまるものですか」

私は唇に笑みを浮かべた。

でも、その奥にあるのは、冷たい決意だった。

お義姉様が“本物”なら、だからこそ許せない。

だって、それは私たちの“嘘”をすべて白日のもとに晒すということ。

神官たちの威信も、私の地位も、王都の秩序も崩れる。

私は、まだ“聖女”なの。お義姉様なんかに、奪わせてたまるものですか!

 

神官長との密談も、抜かりなく進めた。

「お義姉様が戻ってきたら、神殿の判断が問われるわ。

 “なぜ追放したのか” “本物を見誤ったのでは”って、民は騒いじゃうわ。それでもいいの? 神殿が“間違えた”なんて、知られたら、ねぇ」

神官長は一度、眼を伏せ、唇を噛んだ。

「君の言う通りだ。神殿の信頼は、一度でも揺らげば回復は難しい。レティシアの存在が“脅威”になるのは確かだ」

「だったら、どうすればいいかはわかるでしょう?」

「“民のため”だな・・・。わかった。“あの神託は神の声ではなかった”と広めよう」

「ええ。そう“ 魔の囁き”だったと」

言葉は甘く、けれどその中に、私の焦りと執念が滲んでいた。

“本物”なんて関係ない。

民が信じるのは、

“誰が語ったか”

じゃない。

“どんな物語を与えられたか”

それだけ。

お義姉様には本当に神の声があったかもしれない。

でも、私はこの都を嘘でも、演技でも守ってきた。

だから、今さら負けるわけにはいかない。

もう私の祈りには、何も宿らない。

それでも私は、舞台の上に立つ。

まだ“信じているふり”をしてくれる者がいる限り、

私は聖女。

民を導く光。

その光が、どれほど歪んでいようと、関係ない。

お義姉様、

“本物”の力を、

“偽り”の言葉で

塗り潰してやるわ。

神がもう味方をしないというのなら、

私は、神を利用する側に回るだけ。

だって私は、最後までこの座に残るつもりだから。

たとえ、地獄に手を染めても。

絶対にこの座は渡さないわ。

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