[完]聖女の真実と偽りの冠

さち姫

文字の大きさ
12 / 20

レティシア帰還~アリシア目線~

しおりを挟む
その日、王都は、異様なざわめきに包まれていた。

「アリシア様」

扉の外から控えめな声がする。

私はひとつ息を吐き、扉を開けさせた。

「何かしら?」

「ルクレドの王太子殿下が、“聖女”を伴って謁見に現れました」

「聖女のお名前は・・・レティシア・ルーベンス様、とのことです」

ふうん、と鼻先で笑ってみせた。

「やっと帰ってきたのねぇ、お義姉様」

私は少しだけ肩をすくめて立ち上がる。

驚きなんてない。焦りなんて、もっとない。

これまで何年もかけて築いてきた“私の聖女としての地位”が、そう簡単に揺らぐはずがないのだから。

神官長も貴族たちも、皆、私の掌の中にある。

ラゼル様も今や、私に口出しすらしない。

「行きましょう」

私は自信満々に立ち上がり、謁見の間に向かった。

謁見の間に行くと、玉座に座る陛下とすぐ傍に立つのは、重苦しい表情のラゼル様だった。

そうして神官達と廷臣がお義姉様を追い出した時と同じよえに集まっていた。

私は静かに、ラゼル様の横にたった。

すぐに、また扉が開かれ、奥へと視線が集まる。

人々の息が静かに止まり、そして、揺れた。

光が差し込む中、ルクレド王太子カリオン殿下と、もうひとり。

お義姉様。

堂々とした歩み、清らかで力強い気配。

昔よりずっと落ち着いた表情で、堂々と玉座へと進む。

謁見の間に静かなどよめきが広がった。

でも、私は焦らない。

ふふっ、と唇を緩めた。

「お帰りなさいませ、お義姉様。まぁ・・・王都のこと、ようやく思い出してくださったのね」

笑顔のまま、一歩前に出て、優雅に言葉を紡いだ。

「でもまさか、“聖女の座”に戻るつもりじゃないでしょうね?ふふっ・・・随分と、今さらなご登場ですこと」

視線が交錯する。

でも、私はそのまま、もっと甘く、もっと可愛く、微笑みを深める。

「安心して。私、怒ったりなんてしませんわぁ。

 だって・・・お義姉様のこと、昔は大好きでしたもの」

私の言葉に、お義姉様は目を細めた。

けれど、怯えの色も怒りも浮かべない。

その穏やかな眼差しが、ほんの少し、胸の奥を刺すように思えたけど、気のせいね。

ラゼル様がが視線を逸らした。

その意味を、私は知っている。

お義姉様がどんな“光”を纏っていようと、この都では私が聖女。

王妃様が伏している今、神殿も宮廷も、動かせるのはこの私。

どんな言葉を聞かされても、王の傍に立つのは、私だけなのだから。

「今日は、お義姉様のために特別なお茶会を用意しなくてはね。お好きだったローズマリーのハーブティー、まだ残っているかしら?」

まるで昔に戻ったかのような声音で、私は無邪気にそう続けた。

この場で、私が“上”であると、誰よりも自然に、誰よりも美しく、

証明するために。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

処理中です...