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「無事に本懐を遂げられたようで何よりだ」
祭りの日。なんだかんだと言いながらふたりで出かけた私たちを祝福してくれたのは、娘さんを連れた部隊長さまだった。奥さまは、第二子を妊娠中とのことで人混みを避けて家で休んでいるらしい。
やはりできる男は、家族を大切にするのだなあと考えていたら、ジェラルドさまが部隊長に向かって頭を下げていた。
「配属変更の件、ありがとうございました」
「いや、こちらもお前に任せっきりだったのは良くなかった。いい機会だ、剣の腕を磨いて次の大会では優勝を目指してくれ」
配属変更とはなんのことか。首をひねっていると、部隊長さまに説明された。
「情報収集ではなく、より実践的な現場に出てもらう。まあ基本は、男ばかりの場所になるな。その分、怪我は増えるからどちらが楽かは言いがたいが……。このまま情報収集をしていると、ジェラルドはいつか刺されてしまうだろうしな」
妻帯者が色仕掛けをするのは確かに不味そうだ。そして、ふと気がつく。
「ジェラルドさま、最初から配属変更を願い出ていれば、あんな無茶な約束をふっかけなくても、もっと早く素敵な女性と結婚できたのではないですか?」
「俺は、あんな無茶な約束を守ってくれる君が好きだ」
「まだ結婚を承諾したつもりはありませんが」
「年内にはきめるつもりだから、覚悟しておいてくれ」
「ジェラルド、順番は間違えるなよ」
すると大人の会話に退屈していたらしい娘さんが、おしゃべりに参加してきた。
「ねえねえ、おにいさんが、おねえさんに『こくはく』したの?」
「お姉さんが、お兄さんに告白しましたよ」
「すごいね!」
「うーん、すごくはないですねえ。いつか、お父さんみたいな素敵なひとが見つかるといいですね」
「もういるよ! あのね、わたしはおおきくなったら、レイくんとけっこんするのよ」
「だ、誰だ、そいつは!」
狼狽する部隊長をよそに、娘さんは好奇心いっぱいという顔をして、私たちを見つめてきた。そして、私の指先で視線が止まる。
そこにあるのは、たんぽぽの指輪。本物の婚約指輪を贈りたいというジェラルドさまのお願いをはねのけ、道端の花で作ってもらったものだ。
ジェラルドさまは、このたんぽぽの指輪を見るたびに、胸が痛むらしい。その顔が心地よくて、あえてこの指輪をつけている私は相当に性格が悪いと思う。初恋をこじらせなければ、こんなことにはならなかったのかもしれないが。
「とっても、すてき! いいなあ」
「差し上げたいところなのですが……。これはあまり縁起のよいものではないのです。『蓼食う虫』になってしまいますよ」
「むしになっちゃうのは、イヤだなあ」
「おわびに、あちらの屋台のお菓子をお贈りしますね」
「わーい」
頭を抱える部隊長と、糖蜜菓子を笑顔で食べる少女。微笑ましくふたりを眺めていれば、ジェラルドさまが声をかけてくる。
「『蓼食う虫』か。言い得て妙だな。こんな俺を想ってくれるのは君くらいだ」
納得顔のジェラルドさまに向かって、私はそっと首を振る。
「この場合、『虫』になるのはあなたの方ですよ、ジェラルドさま」
「なに?」
「ここ、侍女長に教えていただきました。『蓼食う』どころか、本当に悪い虫ですね」
首筋――かつて赤い虫刺されがあった場所――を指差してみる。
珍しくジェラルドさまがうろたえるのを楽しみながら、私はにこやかに微笑んでみせた。
祭りの日。なんだかんだと言いながらふたりで出かけた私たちを祝福してくれたのは、娘さんを連れた部隊長さまだった。奥さまは、第二子を妊娠中とのことで人混みを避けて家で休んでいるらしい。
やはりできる男は、家族を大切にするのだなあと考えていたら、ジェラルドさまが部隊長に向かって頭を下げていた。
「配属変更の件、ありがとうございました」
「いや、こちらもお前に任せっきりだったのは良くなかった。いい機会だ、剣の腕を磨いて次の大会では優勝を目指してくれ」
配属変更とはなんのことか。首をひねっていると、部隊長さまに説明された。
「情報収集ではなく、より実践的な現場に出てもらう。まあ基本は、男ばかりの場所になるな。その分、怪我は増えるからどちらが楽かは言いがたいが……。このまま情報収集をしていると、ジェラルドはいつか刺されてしまうだろうしな」
妻帯者が色仕掛けをするのは確かに不味そうだ。そして、ふと気がつく。
「ジェラルドさま、最初から配属変更を願い出ていれば、あんな無茶な約束をふっかけなくても、もっと早く素敵な女性と結婚できたのではないですか?」
「俺は、あんな無茶な約束を守ってくれる君が好きだ」
「まだ結婚を承諾したつもりはありませんが」
「年内にはきめるつもりだから、覚悟しておいてくれ」
「ジェラルド、順番は間違えるなよ」
すると大人の会話に退屈していたらしい娘さんが、おしゃべりに参加してきた。
「ねえねえ、おにいさんが、おねえさんに『こくはく』したの?」
「お姉さんが、お兄さんに告白しましたよ」
「すごいね!」
「うーん、すごくはないですねえ。いつか、お父さんみたいな素敵なひとが見つかるといいですね」
「もういるよ! あのね、わたしはおおきくなったら、レイくんとけっこんするのよ」
「だ、誰だ、そいつは!」
狼狽する部隊長をよそに、娘さんは好奇心いっぱいという顔をして、私たちを見つめてきた。そして、私の指先で視線が止まる。
そこにあるのは、たんぽぽの指輪。本物の婚約指輪を贈りたいというジェラルドさまのお願いをはねのけ、道端の花で作ってもらったものだ。
ジェラルドさまは、このたんぽぽの指輪を見るたびに、胸が痛むらしい。その顔が心地よくて、あえてこの指輪をつけている私は相当に性格が悪いと思う。初恋をこじらせなければ、こんなことにはならなかったのかもしれないが。
「とっても、すてき! いいなあ」
「差し上げたいところなのですが……。これはあまり縁起のよいものではないのです。『蓼食う虫』になってしまいますよ」
「むしになっちゃうのは、イヤだなあ」
「おわびに、あちらの屋台のお菓子をお贈りしますね」
「わーい」
頭を抱える部隊長と、糖蜜菓子を笑顔で食べる少女。微笑ましくふたりを眺めていれば、ジェラルドさまが声をかけてくる。
「『蓼食う虫』か。言い得て妙だな。こんな俺を想ってくれるのは君くらいだ」
納得顔のジェラルドさまに向かって、私はそっと首を振る。
「この場合、『虫』になるのはあなたの方ですよ、ジェラルドさま」
「なに?」
「ここ、侍女長に教えていただきました。『蓼食う』どころか、本当に悪い虫ですね」
首筋――かつて赤い虫刺されがあった場所――を指差してみる。
珍しくジェラルドさまがうろたえるのを楽しみながら、私はにこやかに微笑んでみせた。
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