竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜

石河 翠

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 私の生まれた家は、王国の中でも険しい山のそびえたつ土地にある。伝承によれば、山を守る竜から竜の宝を守ることを頼まれ、この辺り一帯を治めるようになったのがこの家門の始まりなのだとか。竜の宝というのが具体的に何を示すものなのかは、記録には残されていない。だが、多くの人々は竜の宝についてのある種の確信めいたものを持っていた。なぜならこの土地には、王国の他の場所にはないとある大きな特徴があったからだ。

 領内のそこかしこで、貴重な宝石が産出されるのである。翡翠に紅玉、金剛石。それらは派手好きな竜が自身のねぐらに集めた宝に違いないと思われるほどの、量と品質を誇っていた。歴代の領主たちはその鉱脈から領地を管理するために必要な分のみを掘り起こし、お金に変えてきていた。欲深く掘り返してはならない。この土地は竜のもの。自分たちはただその土地を間借りさせてもらっているに過ぎない。だが竜の伝承などただのまやかしだと笑い飛ばした男がいた。ほかならぬ私の父である。

 大規模な事業として採掘を開始し、露天掘りで多くの原石を掘り出した。好景気に湧きたち、領内が発展したところまでは良かったのかもしれない。しかし一方で急激な開発により地盤は沈下し、かつて竜が住んでいたと言われていた岩山には竜穴と呼ばれる底が見えないほど深い穴が出現してしまった。

 その上宝石を始めとする鉱物は無限に存在するわけではない。かつては掘れば掘るだけ山のように出てきた宝石類も、今ではその量にかげりが見え始めてきたらしい。宝石を加工する技術などはあるものの、代替産業はすぐには出てこない。いい加減今後のことについて考えていかなくては領民が飢え死にしてしまう。

 そしてある日のこと、決定的な出来事がおきた。この家の当主である父が不思議な夢を見たというのである。顔の見えない客人が目の前に現れ、「預かってもらっていた竜の宝を受け取りに来る。雪消月の末日に伺おう」と言われたそうだ。

 父にとってこの夢は、青天の霹靂だったらしい。我が家に伝わる伝承はあくまでおとぎ話。貴族の家の成り立ちとして箔をつけるためのものだと思い込んでいたというのだ。しかも不思議な夢はその日から毎晩見えるようになる始末。掘り起こした宝石類はすでに売りさばいてしまっている。今さら元の状態に戻すことなどできはしない。追い詰められた父が目をつけたのが、他領では嫌われ令嬢として名高い私だったのである。まあこの異名も、すべて父のあからさまな工作によるものなのだけれど。

 私の母は、出産の際に命を落としている。愛妻家だった父は、妻の命を奪う形で誕生した私のことを許せなかったらしい。親子らしい会話をしたことはなく、ことあるごとに冷たく当たられた。それは父が後妻を迎え、私の下に弟妹たちが生まれたあとも続いていたのである。

 鉱脈からことごとく宝石を掘りつくしてしまった責任を取らせた上で、目障りな私を合法的に処分できそうだということで、父は嬉しくてたまらないらしい。父の機嫌がここ数日大層良いものであった理由を知り、思わずため息をついてしまった。
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