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5.そんなことをおっしゃられても。侯爵夫人、すべてあなたが望んだことでしょう?
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最終試験の試験場所として指定されたのは、とある夏の日、お昼過ぎの侯爵邸。子爵令嬢と言いつつ平民寄りの生活をしているシャーロットと違い、アイリスは根っからのお嬢さまだ。かしずかれる生活をしている彼女が料理なんてできるのだろうか。疑問に思いつつ、シャーロットは義兄とともに指定された時間にネイトの屋敷を訪れた。義兄を連れてきたのは、どんな嫌がらせをされるかわからないがゆえにとった唯一の自衛策だ。
ところがそこでシャーロットたちが告げられたのは、試験は本日の早朝から始まっており、お茶の時間に侯爵家の主要な人物たちとともに課題であるパイを食べることになっているという事実だった。
「お茶の時間に合わせてパイをお出しするというのに、こんな時間に来て間に合うはずがないではありませんか」
「……ですが、侯爵家からの連絡では確かに……」
「それは、我が侯爵家の使いの人間が、間違った伝達を行ったということですか?」
居丈高な侯爵家の侍女の態度に義兄は鼻白んだ。書面ではなく口頭で連絡をしてきたのはおかしいと思ったのだ。だが、何度確認しても指定された時間はお昼過ぎ。無礼を承知で少々早めに来てみれば、試験はとっくの昔に開始になっているというではないか。
いっそのこと、試験日そのものを別日として伝えてくれれば参加せずに済んだのだが、シャーロットはあくまで引き立て役として外せないらしい。試験の終了時間には間に合うが、料理の完成はできない時間を指定してくるなんて本当に意地が悪い。
「シャーロット、試験に出る必要はない。侯爵家はもうどちらを花嫁にするかもう決めておられるようだから」
「いいえ、お義兄さま。私、両親のためにパイだけは完成させようと思うのです。このまま帰れば、子爵家は試験の時間も守れなかった粗忽者として笑われてしまいます」
「だが、今から作っては到底間に合わない」
「いいえ、どうにかいたします」
「あらわたくしはかまいませんわよ。不戦敗となっては、シャーロットさまがおかわいそう」
そこで鷹揚に微笑んだのは、自身の勝ちを確信したアイリスだ。料理をしたことがない彼女の自信に満ちた様子に、シャーロットがいない間に連れてきた料理人あたりが代わりにパイを調理したであろうことを確信する。何せ調理台には、素人が作ったとは思えない宝石箱のような完成品が堂々と並べられていたのだから。
その光景すら受け流していたシャーロットだったが、自身に与えられたパイ作りのための材料を見るとさすがに目を見開いた。義兄など怒りに口元を震わせている。
なんとそこには最低限のものしか残されていなかったのである。砂糖、塩、小麦粉、コーンスターチ、卵。バター、牛乳、酵母。それからいくつかのスパイス。パイはパイでも、パイ生地だけを作らせるつもりなのだろうか。
「……試験の課題は季節の果物を使ったパイだったと思うのですが」
「あら、シャーロットさまはアップルパイが得意料理なのでしょう? 他の果物は使ってもよいかと思ってしまいましたの。ごめんあそばせ」
なるほど、用意された果物はすべてアイリスが使い切ったというわけだ。パイに使わなかった分の果物は、わざわざジャムにしたり、フルーツティーにしたりという念の入れようだ。万が一シャーロットがパイ作りに間に合ったとしても、果物を分け与えるつもりは一切なかったのだろう。
シャーロットの様子を見ていたアイリスがころころと笑う。この国では夏にりんごは収穫できない。隣国では早生りんごが収穫できるが、基本的にりんごは秋から冬の食べ物なのだ。もとより用意されるはずがなかった。
ところがそこでシャーロットたちが告げられたのは、試験は本日の早朝から始まっており、お茶の時間に侯爵家の主要な人物たちとともに課題であるパイを食べることになっているという事実だった。
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