6 / 47
1.お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?
(6)
しおりを挟む
書類のやり取りは例の文官に任せきりになっていた王太子が男爵令嬢メリッサを伴い、離宮にやってきた。どことなく興奮した様子のふたりの姿に、レイラは密かに眉を寄せる。
「本日は一体何の御用でしょう?」
「メリッサは君を側室にすることを嫌がったが、正式な地位ではない愛妾であれば許せると譲歩してくれた」
「まあ、それで?」
「メリッサは俺の子を身ごもった。次はお前の番だ。どうだ、俺はちゃんと順番を守っただろう?」
確かに正妃がまず最初に後継ぎを産んでからという話はしたが、一体何がどうねじ曲がったらこのような思考回路になるのだろうか。恋愛をすると脳みそがお花畑になり腐り落ちるのか。あるいは下半身に脳みそが移行した結果、物事を論理だてて考える人間としての知性を失ってしまうのかもしれない。
「そのお話、もちろんお断りいたしますわ」
「何よ、せっかく貸してあげるって言ってるでしょ。ありがたく使えばいいじゃない」
メリッサが不愉快そうに吐き捨てる。どうやらあまり納得はしていないらしい。にやけきった顔の王太子がレイラに向かって一歩近づこうと瞬間、勢いよく跳ね飛ばされた。レイラを守るように、淡い結界が張り巡らされている。
「なぜだ。なぜ、お前は俺に歯向かえる? その魔導具は、王族に仇なすことはないはずだ」
「殿下、その解釈は間違いです。殿下にさまざまなことを教えてくださった先生方も、よくおっしゃっていたではありませんか。『思い込みで進めてはいけません。きちんと問題をよく読んでください。何を聞かれているのか、問われている形で答えてください』と」
「お前は一体何を?」
「この魔導具は、『王国に仇なすこと』を禁じているのです。決して、あなたのような名ばかりの『王族』にひれ伏すことを強いているのではありません。この魔導具が真に守りたいものは、この王国そのもの。ですから、この王国を守るためであれば……ほら」
ぱんと軽くレイラが手を叩いてみせれば、レイラの前には例の使い走りの文官がひざまずいた。けれど今は文官の制服ではなく、豪奢な騎士の正装を身に着けている。それが新しく就任したばかりの騎士団長であることに、王太子はようやく気が付いたらしい。さらに続いて宰相やら、レイラの父である公爵など国の重鎮たる面々が勢揃いし、恭しくひざまずいている。
「貴様ら、一体何をしている! それではまるでレイラが」
「我々は、レイラさまとともに国を守ります」
「そんなこと、できるはずがない!」
「まあ、殿下。どうしてできないとお思いになるの?」
小首を傾げながら、レイラは問いかけた。その手にはレイラが女王となることを認めた書類が一枚。そこにはしっかりと王印が押されていた。レイラは、王族の血を継いだ公爵令嬢なのだ。現国王が首を縦に振ればそれで決まる。何せ根回しをするどころか、王位の簒奪を持ちかけられて困っていたのはレイラの方なのだから。
この王国には、女子にもしっかりと王位継承権があることを王太子は忘れているのだろうか。兄弟のいない王太子に何かあれば、レイラの元に王座はやってくる。レイラの家族も、これ幸いとレイラに王座を譲ってくることは明白だった。彼らはレイラと同じく有能な面倒くさがり屋なのだ。
「本日は一体何の御用でしょう?」
「メリッサは君を側室にすることを嫌がったが、正式な地位ではない愛妾であれば許せると譲歩してくれた」
「まあ、それで?」
「メリッサは俺の子を身ごもった。次はお前の番だ。どうだ、俺はちゃんと順番を守っただろう?」
確かに正妃がまず最初に後継ぎを産んでからという話はしたが、一体何がどうねじ曲がったらこのような思考回路になるのだろうか。恋愛をすると脳みそがお花畑になり腐り落ちるのか。あるいは下半身に脳みそが移行した結果、物事を論理だてて考える人間としての知性を失ってしまうのかもしれない。
「そのお話、もちろんお断りいたしますわ」
「何よ、せっかく貸してあげるって言ってるでしょ。ありがたく使えばいいじゃない」
メリッサが不愉快そうに吐き捨てる。どうやらあまり納得はしていないらしい。にやけきった顔の王太子がレイラに向かって一歩近づこうと瞬間、勢いよく跳ね飛ばされた。レイラを守るように、淡い結界が張り巡らされている。
「なぜだ。なぜ、お前は俺に歯向かえる? その魔導具は、王族に仇なすことはないはずだ」
「殿下、その解釈は間違いです。殿下にさまざまなことを教えてくださった先生方も、よくおっしゃっていたではありませんか。『思い込みで進めてはいけません。きちんと問題をよく読んでください。何を聞かれているのか、問われている形で答えてください』と」
「お前は一体何を?」
「この魔導具は、『王国に仇なすこと』を禁じているのです。決して、あなたのような名ばかりの『王族』にひれ伏すことを強いているのではありません。この魔導具が真に守りたいものは、この王国そのもの。ですから、この王国を守るためであれば……ほら」
ぱんと軽くレイラが手を叩いてみせれば、レイラの前には例の使い走りの文官がひざまずいた。けれど今は文官の制服ではなく、豪奢な騎士の正装を身に着けている。それが新しく就任したばかりの騎士団長であることに、王太子はようやく気が付いたらしい。さらに続いて宰相やら、レイラの父である公爵など国の重鎮たる面々が勢揃いし、恭しくひざまずいている。
「貴様ら、一体何をしている! それではまるでレイラが」
「我々は、レイラさまとともに国を守ります」
「そんなこと、できるはずがない!」
「まあ、殿下。どうしてできないとお思いになるの?」
小首を傾げながら、レイラは問いかけた。その手にはレイラが女王となることを認めた書類が一枚。そこにはしっかりと王印が押されていた。レイラは、王族の血を継いだ公爵令嬢なのだ。現国王が首を縦に振ればそれで決まる。何せ根回しをするどころか、王位の簒奪を持ちかけられて困っていたのはレイラの方なのだから。
この王国には、女子にもしっかりと王位継承権があることを王太子は忘れているのだろうか。兄弟のいない王太子に何かあれば、レイラの元に王座はやってくる。レイラの家族も、これ幸いとレイラに王座を譲ってくることは明白だった。彼らはレイラと同じく有能な面倒くさがり屋なのだ。
195
あなたにおすすめの小説
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
王太子殿下の小夜曲
緑谷めい
恋愛
私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
その愛情の行方は
ミカン♬
恋愛
セアラには6歳年上の婚約者エリアスがいる。幼い自分には全く興味のない婚約者と親しくなりたいセアラはエリアスが唯一興味を示した〈騎士〉の話題作りの為に剣の訓練を始めた。
従兄のアヴェルはそんなセアラをいつも見守り応援してくれる優しい幼馴染。
エリアスとの仲も順調で16歳になれば婚姻出来ると待ちわびるセアラだが、エリアスがユリエラ王女の護衛騎士になってしまってからは不穏な噂に晒され、婚約の解消も囁かれだした。
そしてついに大好きなエリアス様と婚約解消⁈
どうやら夜会でセアラは王太子殿下に見初められてしまったようだ。
セアラ、エリアス、アヴェルの愛情の行方を追っていきます。
後半に残酷な殺害の場面もあるので苦手な方はご注意ください。
ふんわり設定でサクっと終わります。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。なろう様他サイトにも投稿。
2024/06/08後日談を追加。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる