[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠

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2.ひと夏の思い出さえあれば、愛のない結婚だって耐えられると思っていた。そのはずだったのに。

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 アザレアは古い歴史を持つ小国の姫である。結婚も間近に控え、アザレアはそれなりに充実した日々を送っていた。ところがそんな日常が一変してしまう出来事がアザレアを襲う。なんと、アザレアの婚約者が国内の貴族令嬢と駆け落ちしてしまったのである。

 それはセンセーショナルでありながら、不自然なほど静かに受け止められていた。誰もが心の中でこんな未来を予見していたからだ。それというのも、アザレアが不美人として有名なせいだった。

 この国には伝統的な美の基準がある。美女の条件は、夜空のような黒髪に、雪のように白い肌。そして折れそうなほどの華奢な身体だ。儚い妖精のような者こそが尊ばれ、そこからひとつでも外れていれば醜女の烙印を押されてしまう。そしてアザレアは、すべての条件から外れた可哀想なお姫さまなのだった。

 もちろんアザレアにだって長所がないわけではない。彼女には特別な才能があった。アザレアは魔術式をいくつも組み合わせることで、より効率的に魔術を発動させることに長けていたのである。しかしこの国では、女の癖に魔術を使う変わり者は魔女として見下されていた。

 その上王国を支える国家魔術師たちの間では、大量の魔力を捧げて魔術を行使することは、選ばれた血筋の証明であると考えられているらしい。彼らは潤沢な魔力を他者に見せつけることはあっても、節約して使おうなどとは考えない。だからこそ、術式の組み合わせによって上級魔術を広く一般の者に使わせようとするアザレアの考え方は異端でしかなかったのである。

 本来であればアザレアには何の非もない婚約破棄。けれど不美人な魔女であるアザレアは、あまりにも不利な立場だった。その結果アザレアたち家族は、「アザレアが婚約を破棄されたこと」よりも、「アザレアの婚約者たちが実家に戻ってきたときにどう落としどころを見つけるか」を重視せざるを得なくなってしまったのである。

 何せ駆け落ちした貴族の子息と令嬢が平民としてうまくやっていけるはずがない。無断で国境を越えることはできず、かといって持ちだした金品だけではまともに暮らしていくことは難しいだろう。いずれ実家に泣きつくことは目に見えている。小国だからこそ、簡単に相手を断罪できないことはアザレアも理解していた。けれど理解できるからと言って、まったく傷つかないわけではないのだ。ひとり部屋の中で落ち込むアザレアに国外での静養を勧めたのは、腹心の侍女だった。

「どうせなら傷心旅行に繰り出しましょう! なあに大丈夫です、婚約者に捨てられたという部分を強調するだけですから。あ、お勧めの旅行先一覧はこちらです。もちろん外野がうるさいですから、対外的には短期留学という形にしておきましょうね。お金の心配はいりません。子どもの不始末ということで、両家からたっぷり搾り取ってやりましょう」
「悪巧みをしているように聞こえるのはどうしてなのかしら」
「なにせあたしたちは、鼻つまみものの魔女ですからねえ」

 侍女はにんまりと口角を上げた。留学という建前すら忘れたように物騒な誘い文句をまくしたてられ、アザレアは小さく苦笑する。問題の中心であるアザレアがいなくなれば、物事がどんな方向に転がったところで都合がいい。そんな周囲の思惑に便乗する形で、国外で自由に過ごすことを許されたのだった。
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