生き別れの妹を演じていましたが、お金目当ての赤の他人なんです。これ以上は良心の呵責に耐えられないんで、溺愛はどうか勘弁してください。

石河 翠

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 みなしごの私に兄ができたのは、つい数ヶ月ほど前のこと。生き別れの妹を探しているという若き伯爵さまの噂を聞きつけお茶会に参加した結果、見事その座を射止めたのだ。ちなみにこのお茶会の開催には、例の上司さんも一枚噛んでいたらしい。

『ああ、君こそ探していたに違いない。名乗り出てくれてありがとう。今まで苦労をかけたね。これからは、僕の家族として何不自由ない暮らしを約束するよ』
『……あ、ありがとうございます』

 万雷の拍手の中、微笑むお兄さまと顔をひきつらせる私。家族が見つかったというのに喜ぶどころか若干引き気味だったのはなぜかといえば、それはもちろん、私が妹どころか赤の他人だったからだ。

 お茶会なんて食事目的で入り込んだだけ。この機会を逃せば一生口にすることはないだろう高価なお菓子の数々に舌鼓を打っていたら、妹認定されてしまった。こんなことになるなんて一体誰が予想できただろう。

『君は今でもそのクッキーが好物なんだね』
『はあ』

 今でもどころか、口にしたのは今回が初めてだ。他のお菓子に比べて随分素朴な見た目をしていたけれど、小麦本来の香ばしさが引き立っていてすごく美味しかった。

 そのクッキーの食べっぷりが、妹認定の決め手となったらしい。いやいや、クッキーの好み以外に、もっと重要視するべきものがあるだろう。共通の記憶だとか、顔かたちの似具合だとか。

『私が騙しているとは思わないの?』
『僕があの子のことを間違えるなんてことはないよ』

 けれど謎の自信によって私の反論は笑って流され、その日のうちに伯爵家に引き取られることになってしまったのだ。出来過ぎとしか言いようのない流れだったが、屋敷でも歓迎されてしまった。

 まず使用人たちが優しい。よくあるお話のように、「得体の知れない売女が坊っちゃんを誑かすなんて!」といじめられることもない。

 お兄さまはと言うと、使用人以上に私を甘やかしてくる始末。いつ顔をあわせても、口から出てくるのは優しい言葉ばかり。

 クローゼットから溢れ出すドレスに、身につけられないほどのアクセサリー。お兄さまは、私のためにお金を惜しまない。ねだればお城だって手に入るのではないだろうか。

 ただお兄さまは、私が屋敷の外に出ることをひどく嫌がった。普段はどんなわがままでも認めてくれるお兄さまとは思えない態度に首を傾げていると、こんこんと諭された。

『やっと帰ってきた大事な家族を、自分の目の届かないところへ行かせるとでも?』

 馬鹿な私は、ここにきてようやっとお兄さまにとっての「妹」の重みに気がついたのだ。

 目の中に入れても痛くないというほどに可愛がってもらっていたのに、お兄さまがどんな気持ちを抱えていたのか想像したことなどなかった。そして覚悟のない小心者の私は、それ以来お兄さまを金ヅル扱いできなくなってしまったのだ。

『クララ、ずっと僕のそばにいておくれ』
『……もちろんよ、お兄さま』

 今更ながらに、大変なことをしでかしてしまったと手が震える。名前を呼ばれるたびに、胸が痛くなった。私を望んでくれるのなら、どこにも行かず一生隣にいたい。

 けれどお兄さまが大切にしているのは、「私」ではなく「妹」なのだ。私は血の繋がりなどない赤の他人。金目当てでお兄さまに近づいた恥知らずの紛い物。そもそも、望まれるはずがないというのに。

 家族になりたい。
 本当の、本物の、家族になりたい。そんな分不相応な願いが頭から離れない。

 お兄さまに事実を伝えて、謝ろうとしたことだってある。けれどどうしても踏み出す勇気がなくて、それならばと私は屋敷から逃げ出すことにした。不誠実なのは承知の上で、これ以上良心の呵責に耐えられなかったのだ。

 それなのになぜか逃亡計画は毎回失敗。逃げようとすればするほど、お兄さまの束縛は強くなる。これ、詰んだのでは?
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