2 / 6
(2)
しおりを挟む
みなしごの私に兄ができたのは、つい数ヶ月ほど前のこと。生き別れの妹を探しているという若き伯爵さまの噂を聞きつけお茶会に参加した結果、見事その座を射止めたのだ。ちなみにこのお茶会の開催には、例の上司さんも一枚噛んでいたらしい。
『ああ、君こそ探していたあの子に違いない。名乗り出てくれてありがとう。今まで苦労をかけたね。これからは、僕の家族として何不自由ない暮らしを約束するよ』
『……あ、ありがとうございます』
万雷の拍手の中、微笑むお兄さまと顔をひきつらせる私。家族が見つかったというのに喜ぶどころか若干引き気味だったのはなぜかといえば、それはもちろん、私が妹どころか赤の他人だったからだ。
お茶会なんて食事目的で入り込んだだけ。この機会を逃せば一生口にすることはないだろう高価なお菓子の数々に舌鼓を打っていたら、妹認定されてしまった。こんなことになるなんて一体誰が予想できただろう。
『君は今でもそのクッキーが好物なんだね』
『はあ』
今でもどころか、口にしたのは今回が初めてだ。他のお菓子に比べて随分素朴な見た目をしていたけれど、小麦本来の香ばしさが引き立っていてすごく美味しかった。
そのクッキーの食べっぷりが、妹認定の決め手となったらしい。いやいや、クッキーの好み以外に、もっと重要視するべきものがあるだろう。共通の記憶だとか、顔かたちの似具合だとか。
『私が騙しているとは思わないの?』
『僕があの子のことを間違えるなんてことはないよ』
けれど謎の自信によって私の反論は笑って流され、その日のうちに伯爵家に引き取られることになってしまったのだ。出来過ぎとしか言いようのない流れだったが、屋敷でも歓迎されてしまった。
まず使用人たちが優しい。よくあるお話のように、「得体の知れない売女が坊っちゃんを誑かすなんて!」といじめられることもない。
お兄さまはと言うと、使用人以上に私を甘やかしてくる始末。いつ顔をあわせても、口から出てくるのは優しい言葉ばかり。
クローゼットから溢れ出すドレスに、身につけられないほどのアクセサリー。お兄さまは、私のためにお金を惜しまない。ねだればお城だって手に入るのではないだろうか。
ただお兄さまは、私が屋敷の外に出ることをひどく嫌がった。普段はどんなわがままでも認めてくれるお兄さまとは思えない態度に首を傾げていると、こんこんと諭された。
『やっと帰ってきた大事な家族を、自分の目の届かないところへ行かせるとでも?』
馬鹿な私は、ここにきてようやっとお兄さまにとっての「妹」の重みに気がついたのだ。
目の中に入れても痛くないというほどに可愛がってもらっていたのに、お兄さまがどんな気持ちを抱えていたのか想像したことなどなかった。そして覚悟のない小心者の私は、それ以来お兄さまを金ヅル扱いできなくなってしまったのだ。
『クララ、ずっと僕のそばにいておくれ』
『……もちろんよ、お兄さま』
今更ながらに、大変なことをしでかしてしまったと手が震える。名前を呼ばれるたびに、胸が痛くなった。私を望んでくれるのなら、どこにも行かず一生隣にいたい。
けれどお兄さまが大切にしているのは、「私」ではなく「妹」なのだ。私は血の繋がりなどない赤の他人。金目当てでお兄さまに近づいた恥知らずの紛い物。そもそも、望まれるはずがないというのに。
家族になりたい。
本当の、本物の、家族になりたい。そんな分不相応な願いが頭から離れない。
お兄さまに事実を伝えて、謝ろうとしたことだってある。けれどどうしても踏み出す勇気がなくて、それならばと私は屋敷から逃げ出すことにした。不誠実なのは承知の上で、これ以上良心の呵責に耐えられなかったのだ。
それなのになぜか逃亡計画は毎回失敗。逃げようとすればするほど、お兄さまの束縛は強くなる。これ、詰んだのでは?
『ああ、君こそ探していたあの子に違いない。名乗り出てくれてありがとう。今まで苦労をかけたね。これからは、僕の家族として何不自由ない暮らしを約束するよ』
『……あ、ありがとうございます』
万雷の拍手の中、微笑むお兄さまと顔をひきつらせる私。家族が見つかったというのに喜ぶどころか若干引き気味だったのはなぜかといえば、それはもちろん、私が妹どころか赤の他人だったからだ。
お茶会なんて食事目的で入り込んだだけ。この機会を逃せば一生口にすることはないだろう高価なお菓子の数々に舌鼓を打っていたら、妹認定されてしまった。こんなことになるなんて一体誰が予想できただろう。
『君は今でもそのクッキーが好物なんだね』
『はあ』
今でもどころか、口にしたのは今回が初めてだ。他のお菓子に比べて随分素朴な見た目をしていたけれど、小麦本来の香ばしさが引き立っていてすごく美味しかった。
そのクッキーの食べっぷりが、妹認定の決め手となったらしい。いやいや、クッキーの好み以外に、もっと重要視するべきものがあるだろう。共通の記憶だとか、顔かたちの似具合だとか。
『私が騙しているとは思わないの?』
『僕があの子のことを間違えるなんてことはないよ』
けれど謎の自信によって私の反論は笑って流され、その日のうちに伯爵家に引き取られることになってしまったのだ。出来過ぎとしか言いようのない流れだったが、屋敷でも歓迎されてしまった。
まず使用人たちが優しい。よくあるお話のように、「得体の知れない売女が坊っちゃんを誑かすなんて!」といじめられることもない。
お兄さまはと言うと、使用人以上に私を甘やかしてくる始末。いつ顔をあわせても、口から出てくるのは優しい言葉ばかり。
クローゼットから溢れ出すドレスに、身につけられないほどのアクセサリー。お兄さまは、私のためにお金を惜しまない。ねだればお城だって手に入るのではないだろうか。
ただお兄さまは、私が屋敷の外に出ることをひどく嫌がった。普段はどんなわがままでも認めてくれるお兄さまとは思えない態度に首を傾げていると、こんこんと諭された。
『やっと帰ってきた大事な家族を、自分の目の届かないところへ行かせるとでも?』
馬鹿な私は、ここにきてようやっとお兄さまにとっての「妹」の重みに気がついたのだ。
目の中に入れても痛くないというほどに可愛がってもらっていたのに、お兄さまがどんな気持ちを抱えていたのか想像したことなどなかった。そして覚悟のない小心者の私は、それ以来お兄さまを金ヅル扱いできなくなってしまったのだ。
『クララ、ずっと僕のそばにいておくれ』
『……もちろんよ、お兄さま』
今更ながらに、大変なことをしでかしてしまったと手が震える。名前を呼ばれるたびに、胸が痛くなった。私を望んでくれるのなら、どこにも行かず一生隣にいたい。
けれどお兄さまが大切にしているのは、「私」ではなく「妹」なのだ。私は血の繋がりなどない赤の他人。金目当てでお兄さまに近づいた恥知らずの紛い物。そもそも、望まれるはずがないというのに。
家族になりたい。
本当の、本物の、家族になりたい。そんな分不相応な願いが頭から離れない。
お兄さまに事実を伝えて、謝ろうとしたことだってある。けれどどうしても踏み出す勇気がなくて、それならばと私は屋敷から逃げ出すことにした。不誠実なのは承知の上で、これ以上良心の呵責に耐えられなかったのだ。
それなのになぜか逃亡計画は毎回失敗。逃げようとすればするほど、お兄さまの束縛は強くなる。これ、詰んだのでは?
14
あなたにおすすめの小説
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる