28 / 86
二 渦
東京の結界
しおりを挟む
※ ※ ※
「あとは朝美ちゃんが元気になることだなぁ、退院したら学校に戻ってくるかな?」
井川の家を出て、ノロノロと歩いていた堀がスマホを取り出した。
「あ、″骨が繋がったらリハビリ開始♪″ だって。とりあえず良かった」
再開した長野朝美のSNSの投稿を確認しているようだ。
「……それにしても悠里の好きな人って誰だったのかな、結局訊きそびれちゃった」
少しだけ元気を無くした山城リリは、軽くため息をついていた。
俺は、この時、おそらく一人ほくそ笑みを浮かべていただろう。
女ってどんな時でも、″恋愛″ だよな。
こんな時にでも、誰が誰を好きだとか気になるもんなのか。
「私、てっきり悠里の好きな人は堀先輩だと思ってたのに」
その発言に、堀が、「なんでなんで?!」と食い付きまくる。
「もしかして、あいつ、俺のこと、カッコいいとか言ってた?!」
「そうじゃないです。前に、悠里が、″私、ダメな男が好き″ って言ってたから……」
山城が真面目な顔をして答えるも、堀が悲しそうに顔を崩していた。
「おっまえ、俺のこと先輩と思ってねぇだろ?」
「じゃ、俺、こっちだから」
分かれ道。
自転車に股がって、二人を置いて先に行こうとしたら、
「さっきからニヤニヤしてるお前、橋本千尋! お前ってナニモンなんだよ!」
また、堀が俺の自転車の荷台を掴んで絡んできた。
何者って言われても、今の俺は普通の高校生、橋本千尋でしかない。
前世で父から伝授したはずの陰陽師としての力も、覚醒しきってない。中途半端な霊能だけが高まり、浄霊どころかその場を浄化することしかできない。
「少しだけ霊感がある、そんだけ」
「じゃ、さっきやってたのなんなんだ? 最後にも結界張るってお星さまみたいなの描いてただろ? あれは忍者の術か?」
適当にあしらおうとしたら、
「堀先輩、結界を張るってそんなに珍しいことじゃないんですよ。意外と日常に溢れてるんです」
山城が少し得意そうに話した。
「例えば、有名なのが料理を前に、お箸を横に置く。これも神道でいう結界なんです」
堀が、途端につまらそうな顔をする。
「おはしぃぃ?」
「そうです。料理は神様に捧げるものという考えが昔からあって、手を合わせて “いただきます” と箸を持つことで結界を解いて感謝して食べ物を頂く。他にも、落語にも結界があるんです。舞台に登場した時、座布団に座ってお辞儀しながら扇子を横に置くあれです。あれでお客様という領域との結界を作って落語の話に引き込みしやすくしてるんですって」
「へぇ……なんでそんなこと山城が知ってるんだよ」
日常の結界にはあまり興味なさそうな堀は、山城を怪訝な目つきで見ていた。
「陰陽師って知ってます?」
山城がさらに得意げな顔になった。
「あぁ、なんか昔映画とか流行ったな。アベノナカマロだっけ? あ、綾小路きみまろ?」
「違います。安倍晴明です」
ここで父の名前が出てきて、急に居心地が悪くなってきた。
「じゃ、俺、用があるから。先いくわ」
「あ、逃げた!」
自転車の鈴を鳴らし、まだ陰陽師について話す二人を置いて行った。
途中、遊歩道を押して上がり、夕焼けに染まる町全体を見回した。
――東京都。
東京の西部、八王子市にある高尾山、日野市にある金剛寺、檜原村の浅間嶺、さらに昭島市。
ここにもとてつもなく大きな結界が作られていることを、現代人のほとんどは知らないだろう。
「あとは朝美ちゃんが元気になることだなぁ、退院したら学校に戻ってくるかな?」
井川の家を出て、ノロノロと歩いていた堀がスマホを取り出した。
「あ、″骨が繋がったらリハビリ開始♪″ だって。とりあえず良かった」
再開した長野朝美のSNSの投稿を確認しているようだ。
「……それにしても悠里の好きな人って誰だったのかな、結局訊きそびれちゃった」
少しだけ元気を無くした山城リリは、軽くため息をついていた。
俺は、この時、おそらく一人ほくそ笑みを浮かべていただろう。
女ってどんな時でも、″恋愛″ だよな。
こんな時にでも、誰が誰を好きだとか気になるもんなのか。
「私、てっきり悠里の好きな人は堀先輩だと思ってたのに」
その発言に、堀が、「なんでなんで?!」と食い付きまくる。
「もしかして、あいつ、俺のこと、カッコいいとか言ってた?!」
「そうじゃないです。前に、悠里が、″私、ダメな男が好き″ って言ってたから……」
山城が真面目な顔をして答えるも、堀が悲しそうに顔を崩していた。
「おっまえ、俺のこと先輩と思ってねぇだろ?」
「じゃ、俺、こっちだから」
分かれ道。
自転車に股がって、二人を置いて先に行こうとしたら、
「さっきからニヤニヤしてるお前、橋本千尋! お前ってナニモンなんだよ!」
また、堀が俺の自転車の荷台を掴んで絡んできた。
何者って言われても、今の俺は普通の高校生、橋本千尋でしかない。
前世で父から伝授したはずの陰陽師としての力も、覚醒しきってない。中途半端な霊能だけが高まり、浄霊どころかその場を浄化することしかできない。
「少しだけ霊感がある、そんだけ」
「じゃ、さっきやってたのなんなんだ? 最後にも結界張るってお星さまみたいなの描いてただろ? あれは忍者の術か?」
適当にあしらおうとしたら、
「堀先輩、結界を張るってそんなに珍しいことじゃないんですよ。意外と日常に溢れてるんです」
山城が少し得意そうに話した。
「例えば、有名なのが料理を前に、お箸を横に置く。これも神道でいう結界なんです」
堀が、途端につまらそうな顔をする。
「おはしぃぃ?」
「そうです。料理は神様に捧げるものという考えが昔からあって、手を合わせて “いただきます” と箸を持つことで結界を解いて感謝して食べ物を頂く。他にも、落語にも結界があるんです。舞台に登場した時、座布団に座ってお辞儀しながら扇子を横に置くあれです。あれでお客様という領域との結界を作って落語の話に引き込みしやすくしてるんですって」
「へぇ……なんでそんなこと山城が知ってるんだよ」
日常の結界にはあまり興味なさそうな堀は、山城を怪訝な目つきで見ていた。
「陰陽師って知ってます?」
山城がさらに得意げな顔になった。
「あぁ、なんか昔映画とか流行ったな。アベノナカマロだっけ? あ、綾小路きみまろ?」
「違います。安倍晴明です」
ここで父の名前が出てきて、急に居心地が悪くなってきた。
「じゃ、俺、用があるから。先いくわ」
「あ、逃げた!」
自転車の鈴を鳴らし、まだ陰陽師について話す二人を置いて行った。
途中、遊歩道を押して上がり、夕焼けに染まる町全体を見回した。
――東京都。
東京の西部、八王子市にある高尾山、日野市にある金剛寺、檜原村の浅間嶺、さらに昭島市。
ここにもとてつもなく大きな結界が作られていることを、現代人のほとんどは知らないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる