巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ

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第19話 Lv.50

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王都の石畳は、昼下がりの陽を受けて白く光っていた。
アコは最近新しく買った、とても軽い皮の斜めがけバッグを下げイレーネと並んで歩く。バッグの中で、さきほど王都銀行で下ろしたばかりの硬貨がしゃらりと鳴った。

(銀行でお金おろすなんて……この世界に、だいぶ馴染んできたなぁ)

向かう先は、イレーネの父が紹介してくれた穀物商、ルクラロッソ商店だ。



赤い看板が目印の店に入ると、広々とした明るいフロアには、壁一面に木樽が並び、樽ごとに札がかかっている。あちらこちらで商談が行われていてとても賑やかで活気があった。湿気を避けるためか、外よりも空気がサラリとしている。

「ようこそ、ルクラロッソへ」
恰幅のよい店主が人懐こい笑顔を向ける。「ジェミナート男爵のご紹介と伺ってます」

ご自由にご覧ください。気になることがありましたらなんなりと、という店主にアコはぺこりと頭を下げ、樽の縁に身を乗り出した。
その瞬間――視界の端で淡い光が弾ける。

【料理眼発動】

《小麦(中力粉):お好み焼き最適◎ 》

《小麦(薄力粉):たこ焼き・うどん・菓子・揚げ物◎》

《硬質小麦(デュラムセモリナに近い種・淡黄色)パスタに最適◎》

《蕎麦粉:香り高し。打ち物向き(蕎麦)/つなぎ必要》

「……へ、へぇぇぇぇ」
思わず、力が抜ける様な声が漏れる。
(お好み焼きに最適? たこ焼き? うどん? ……なんで急に日本の情報が入り込んで来た? デュラム.......てなんだろう?でも、パスタに最適なのね! え、もしかしてこれがレベル50のチカラってこと!? すごっ......じゃあ、レベルが100とかになったら何が......ごくり……)


「……アコさま。アコさま、いかがいたしますか」
「へ、あ、えっとね、このパスタ向けの硬質小麦を、少し。まずは試作だから一樽は無理。……一袋でお願いします!」

店主が頷く。
「お試しでしたら、今回は代金はいりませんよ」
「いえいえ、ちゃんと買います!」
アコは食い気味に手を振った。
「上手くいったら沢山買いますので、その時はぜひサービスしてくださいね!」

店主は、分量カップでザックリと粉をすくい、上等な麻袋に詰めてくれた。
「硬質小麦の粗挽き、500。――今後ともご贔屓に」

アコは受け取った麻袋をバッグに丁寧にしまった。



港へ続く通りは、にぎわっていた。
潮の匂いが心地いい。
露店が軒を連ね、真鍮の指輪や色ガラスの飾り、そして珍しい貝殻細工を並べている。

「さあ見ていって! 外洋で採れた珍しい貝殻があるよ! 持っていると幸運も恋も、手に入るとか入らないとか!」
ひときわ大きな声が響いた。
いい加減な呼び込みである。

目を向けると、黒い眼帯で左目を覆った男が、大げさな身振りで客を惹きつけている。
並んだ品の中には、手のひらほどの巻き貝や、磨かれた二枚貝の置物もあった。

「わ、素敵……」
アコは思わず足を止め、丸いトゲトゲのある巻き貝を手に取る。カサリとした感触に胸を高鳴らせながら、そっと耳に当て、目を閉じる。

「……うん。波の音がする!」
ぱっと目を開け、嬉しそうに言葉をこぼす。

「……?」
イレーネが小首を傾げ、眼帯の男が目を細めてにやりと笑った。

「へぇ、そんなことする奴、初めて見たぜ。……可愛いこと言うんだな」

「か、可愛いなんて……! わたし28歳の大人の女ですから!」
慌てて言い返すアコ。

「へぇ、俺は34だ。だったら俺の方が“大人”だな」
軽口を叩きながら、男は楽しげに笑った。

イレーネはじっと二人を見つめ、冷静に言葉を添える。
「……私は20歳なので、まだまだ子どもですね......」

アコの視線が、ふと光を反射する小ぶりの二枚貝に吸い寄せられた。
口をピッタリと閉じた丸みのある二枚貝で、まるでガラス細工のように滑らかで、藍色をミルクで溶かしたような柔らかな光をたたえている。

「……すごく綺麗」
思わず手を伸ばすと、男がひょいっと掴み、アコに渡してくれる。
見た目どおり、触り心地も滑らかだった。
「魔法加工してあるんだ。光を吸って、夜になるとほんのり輝く。窓辺に置けば、月明かりと一緒に楽しめるぜ」

「わぁ……! これ、ください!」
アコは迷わずバッグから硬貨を取り出した。

「嬢ちゃん、見る目あるな」男は器用に包み紙で包みながら、軽くウインクする。

「……いい選択だと思います」イレーネも静かに頷いた。

代金を払い、イレーネが包みを受け取る。私が持ちます。と言ってくれたので、アコは素直にお願いした。
そんな二人に、男は片手をひらりと振って言った。
「オレはカイ。しばらくはここで店を出してる。……また来いよ」

「カイさんね! 覚えておきます!」
アコはにこにこと笑った。

露店を後にしたとき、イレーネがふと口を開いた。
「……アコさま。帰る前に、今流行りのカフェへ寄りませんか」

「えっ、カフェ? あるの?」
「はい。王都の若者に人気でして。甘いお菓子が名物だとか」

その言葉にアコの目が輝いた。
「もちろん行く! 甘いもの大歓迎!」



カフェの窓辺には花が飾られ、香ばしくて甘い匂いが漂っていた。
今はお客さが少ない時間帯のようで、並ばず直ぐに席に案内された。
運ばれてきたのは、ふわふわに焼かれた三枚重ねのパンケーキ。
黄金色の生地の上には白いクリームがこんもりとのせられ、とろりと蜜が垂れていく。
飲み物がセットにできたので、ミルクたっぷりコーヒーにした。こちらのコーヒーはびっくりするくらい苦い。

「おぉぉ……!」
アコはフォークを握り、頬を紅潮させた。
ひと口食べれば、口の中いっぱいに広がる甘さと軽やかさ。
「しあわせ……!」

イレーネは淡々とした表情でナイフを動かしつつ、ほんの少し口元を和らげる。
「人気なのも納得です」

アコはその様子を見て、なんだか胸が温かくなった。



夕暮れの石畳を歩いて帰宅するころには、空がオレンジに染まっていた。
バッグには粉の麻袋、露店で買った貝細工、そしてほんのり甘い余韻。

「……中学生ころまでは、毎日こんな感じだったよなぁ」

アコは深く息を吸い込み、笑みをこぼした。今日は楽しすぎて、眠れないかもしれないな、と思いながら家路についた。



その背を遠くから見つめる影がひとつ。
露店で眼帯をかけていた男――カイが、雑踏に紛れながら二人を追っていた。
やがて立ち止まり、懐から小さく透明な魔法石を取り出す。

「……例の女、随分とこの世界に馴染んでるぜ」

それだけ告げると、カイは口元を引き締め、雑踏へと溶けていった。
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