巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ

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第20話 海の贈り物 小さな魔獣

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早朝の浜辺。
人影もなく、寄せては返す波だけが穏やかな音を立てている。
アコは一人で、砂の上を裸足で歩いていた。

「……わ、なにか沢山いる」
小さな殻を背負った生き物が、ちょろちょろ歩き回ったり、砂を掘り返していたり、海に攫われてコロコロ転がったりしている。

思わず【料理眼】を発動させる。

《カラルカル:魔獣
生息地・浜辺。どこにでもいる。成長するたび殻を替える。生きている限り成長を続ける。毒なし。食には適さない》

「こんなちっちゃいくせに魔獣......いわゆる、ヤドカリね」
アコは小さく笑った。

(そうか……私も、前の世界という殻を捨てて、この異世界っていう新しい殻に入ったんだ。成長したってことなのかな……?)

思い出す。
高校受験の頃、父が愛人と家を出ていったこと。
仕事をしたことのない母のために就職し、仕事の後はアルバイトにも行ったこと。
母は料理だけは得意で――でも金銭感覚はなく、平気で高い食材を買ってきた。
(まあ、美味しかったからいいけど……あの時、少しでも料理を習っておけばよかったなぁ)

そして二十歳の朝。
母が残したのは「私の人生を生きます」という置き手紙一枚。
――なぜか、不思議と晴れやかな気分だった。私も好きに生きてみよう! と中学卒業と同時に就職した会社を辞めて、派遣社員になってあちこちの会社で働いて......最後の派遣先はブラックだったけれど......うん。それは忘れよう。

「……みんな、住むところを替えて成長していくのかもしれないね」
砂を掘り進める小さな魔獣を見て、ぽつりと呟く。

「できれば……今の殻には、なるべく長く住んでいたいけど」

潮風が髪を揺らし、朝の光が波間にきらめいた。
アコは深く息を吸い込み、笑みを浮かべた。
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