21 / 41
第20話 海の贈り物 小さな魔獣
しおりを挟む
早朝の浜辺。
人影もなく、寄せては返す波だけが穏やかな音を立てている。
アコは一人で、砂の上を裸足で歩いていた。
「……わ、なにか沢山いる」
小さな殻を背負った生き物が、ちょろちょろ歩き回ったり、砂を掘り返していたり、海に攫われてコロコロ転がったりしている。
思わず【料理眼】を発動させる。
《カラルカル:魔獣
生息地・浜辺。どこにでもいる。成長するたび殻を替える。生きている限り成長を続ける。毒なし。食には適さない》
「こんなちっちゃいくせに魔獣......いわゆる、ヤドカリね」
アコは小さく笑った。
(そうか……私も、前の世界という殻を捨てて、この異世界っていう新しい殻に入ったんだ。成長したってことなのかな……?)
思い出す。
高校受験の頃、父が愛人と家を出ていったこと。
仕事をしたことのない母のために就職し、仕事の後はアルバイトにも行ったこと。
母は料理だけは得意で――でも金銭感覚はなく、平気で高い食材を買ってきた。
(まあ、美味しかったからいいけど……あの時、少しでも料理を習っておけばよかったなぁ)
そして二十歳の朝。
母が残したのは「私の人生を生きます」という置き手紙一枚。
――なぜか、不思議と晴れやかな気分だった。私も好きに生きてみよう! と中学卒業と同時に就職した会社を辞めて、派遣社員になってあちこちの会社で働いて......最後の派遣先はブラックだったけれど......うん。それは忘れよう。
「……みんな、住むところを替えて成長していくのかもしれないね」
砂を掘り進める小さな魔獣を見て、ぽつりと呟く。
「できれば……今の殻には、なるべく長く住んでいたいけど」
潮風が髪を揺らし、朝の光が波間にきらめいた。
アコは深く息を吸い込み、笑みを浮かべた。
人影もなく、寄せては返す波だけが穏やかな音を立てている。
アコは一人で、砂の上を裸足で歩いていた。
「……わ、なにか沢山いる」
小さな殻を背負った生き物が、ちょろちょろ歩き回ったり、砂を掘り返していたり、海に攫われてコロコロ転がったりしている。
思わず【料理眼】を発動させる。
《カラルカル:魔獣
生息地・浜辺。どこにでもいる。成長するたび殻を替える。生きている限り成長を続ける。毒なし。食には適さない》
「こんなちっちゃいくせに魔獣......いわゆる、ヤドカリね」
アコは小さく笑った。
(そうか……私も、前の世界という殻を捨てて、この異世界っていう新しい殻に入ったんだ。成長したってことなのかな……?)
思い出す。
高校受験の頃、父が愛人と家を出ていったこと。
仕事をしたことのない母のために就職し、仕事の後はアルバイトにも行ったこと。
母は料理だけは得意で――でも金銭感覚はなく、平気で高い食材を買ってきた。
(まあ、美味しかったからいいけど……あの時、少しでも料理を習っておけばよかったなぁ)
そして二十歳の朝。
母が残したのは「私の人生を生きます」という置き手紙一枚。
――なぜか、不思議と晴れやかな気分だった。私も好きに生きてみよう! と中学卒業と同時に就職した会社を辞めて、派遣社員になってあちこちの会社で働いて......最後の派遣先はブラックだったけれど......うん。それは忘れよう。
「……みんな、住むところを替えて成長していくのかもしれないね」
砂を掘り進める小さな魔獣を見て、ぽつりと呟く。
「できれば……今の殻には、なるべく長く住んでいたいけど」
潮風が髪を揺らし、朝の光が波間にきらめいた。
アコは深く息を吸い込み、笑みを浮かべた。
172
あなたにおすすめの小説
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
モブっと異世界転生
月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。
ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。
目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。
サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。
死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?!
しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ!
*誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる