巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ

文字の大きさ
24 / 41

第23話 恋愛ゲージ爆上げイベント

しおりを挟む
三女神大教院の大広間。
白い石柱がずらりと並び、反射した光がまぶしいほどだった。荘厳すぎて、思わず背筋が伸びる。

その中央で、大神官セラディウスが振り返った。
あの柔らかな笑顔――まるで「聖女に語りかける優しい神父さま」って感じ。

(おっと、わたしが、聖女様だった!)

「ミサキ様。最近、王都近郊で小さな穢素による不調や騒ぎが起きています。井戸が濁ったり、魔獣が大量繁殖したり......ですが、あなたの光の力なら容易に浄化できるはず。どうか人々をお助けください」

彼はさらに一歩近づき、わざとらしいくらい優しい目をした。
「それに……ミサキ様には、心を寄せている方々がおいでですね? それぞれと浄化に赴けば、きっと距離も縮まるでしょう」

――その瞬間、ミサキの目がキラーンと輝いた。
(わっかってるぅ~! セラディウス様、わかってるじゃん!! やっぱ推し活イベント大事だよね~⭐︎)

彼女は勢いよく両手を胸の前で組み、大きく頷いた......と見せかけて、ダブルピース。
「オッケー⭐︎ やるやるー!」

大広間の荘厳さに似つかわしくない軽快さ。だがミサキは気にしない。
(ついに来た、浄化イベント! これで恋愛ゲージ爆上げ間違いなしでしょ!)



一日目:ユリウス様と!

王城北の村。
咳き込む人々が簡素な診療所に集められていた。

「光よ、集え――!」
手のひらを掲げると、眩い光が部屋いっぱいに広がる。


その瞬間、隅に置かれた古い木像が淡く黒ずみ、もやを吐き出すように揺れた。
「……あっ、そこからだ!」
ミサキが指差すと同時に、黒い靄がぱちぱちと弾けて消えていく。

「……やはり」
ユリウス様の眉が険しく寄る。
(いやいや、今は「よくやったな」とか「心配した」とか言う場面でしょ!?)



二日目:レオネル殿下と!

使われなくなった侯爵家の別邸。
荒れた庭に蔦がからみ、窓辺から黒いもやが漏れ出している。

「清浄を――!」
光を放つと、床下の石が淡く黒に染まり、ひび割れから穢素が噴き出した。

「殿下、あそこ!」
ミサキが叫ぶと、殿下は剣を抜き、石を砕いた。黒い靄は一瞬で消えた。

「見事だ、聖乙女」
殿下は涼やかに微笑む。

(ちがーう! ここは「君を守りたい」とか言うシーンなのに! なんで爽やかスマイルで終わっちゃうの!?)



三日目:ルシアン様と!

古代遺跡。
崩れた石柱の間から、蜘蛛のような魔獣が群れを成して這い出す。

「ひぃぃぃ! 足いっぱい生えてるぅぅ!」

必死で光を放つと、蜘蛛の巣の奥から小さな貝殻が黒く浮かび上がった。
「……あそこ!」
ミサキが叫ぶと、貝殻が砕け、魔獣の群れも光に飲まれて消えた。

「……よくやったな」
ルシアン様が低く呟き、紅い瞳をこちらに向ける。

(……その声! そこから「お前は一人じゃない」とか! 違うの!?)



四日目:アレクシス様と!

王都から少し離れた漁村。
井戸の水が濁り、真水が減って困っているという。

「光よ、澄みわたれ!」
光が井戸を包むと、水底から青黒い石がぼんやり浮かび上がった。

「……あそこにあったんだ!」
ミサキが叫び、光を強めると石は弾け飛び、水が澄み渡った。

「やっぱり、すごいな」
アレクシス様が感心したように呟く。

(……だから違う! 今は恋愛フラグでしょ!? なんで石見て終わるの!?)



その後

人々は泣いて喜び、手を合わせて「聖乙女さま万歳!」と叫んでいた。
私は確かに救いをもたらした。

……けど。

(おかしい、おかしい、おかしい!!)

攻略対象たちは揃いも揃って「敬意」と「信頼」しか見せてこない!
愛情ゲージが――全然動いてないんですけど!?

「なーんーでーよぉぉぉぉぉ!!!」

夕暮れの空に、ミサキの絶叫が吸い込まれていった。



ユリウスは、木像に仕込まれた“意図的な穢素”を思い返していた。
レオネルは、砕いた黒石の不自然さに眉をひそめていた。
ルシアンは、貝殻が示す人工の気配を疑い、アレクシスもまた、井戸底の青黒い石をただの自然物とは思えなかった。

彼らの胸にはそれぞれ、小さな疑念が芽生えていた。



......一方その頃。

潮風亭の二階。
アコは早朝にぱちりと目を覚まし、そのままひとつ伸びをした。
お腹がぐーっと鳴った。

「……なんで、こんなにお腹へってるんだろ……?」

寝起きのぼんやりした声が、静かな部屋に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...