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第25話 暴かれる兆し
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ホールには重い沈黙が落ちていた。
そんな中、イレーネがお茶を下げ、ほどなくして音も立てずに新しい盆を運んでくる。
淡々とカップを並べていくと、香ばしい匂いがふわりと漂った。
湯気を立てるのは、白くミルクの混じるコーヒー。
その柔らかな香りに、アコは思わずカップを両手で包み込む、そっと飲み込む。
「あぁぁ……落ち着く……」
レオネルは無言でカップを取り、ひと口含む。
ユリウスも黙って受け取って口をつけた。
ほんの短い間だけ、場の空気がやわらいだ。
ユリウスが口を開く。
「それで、露天の男について。覚えてることを教えてくれるか」
アコは眉を寄せ、必死に記憶をたぐる。
「えっと……私より年上で、ちょっとワイルドそうな人でした。でも、眼差しは優しげに見えて……、瞳の色は……深いグリーンだったと思います」
ユリウスは短く息をつき、目を細めた。
「……眼帯は変装だろうな。わざわざ付けるってことは、人相をごまかすためだ。外したら印象ががらりと変わるかもしれない」
アコが不安げにうつむくと、ユリウスは視線を合わせるように言葉を続けた。
「だから、アコが覚えてる“雰囲気”や“印象”の方が大事だ。優しそうに見えたなら、それで十分だ」
「……そっか」
アコは胸に手を当て、少しだけ肩の力を抜いた。
その時、ふと思い出しておそるおそる尋ねた。
「……あの、ミサキちゃんはどうしてるんですか? 穢素とか……大丈夫なんですか?」
ユリウスが短く頷く。
「聖乙女は、自身に浄化の力があるから問題ない。むしろ浄化を行うたびに、人々の信仰は強まり、彼女を慕う者たちも増えている」
レオネルが言葉を継いだ。
「……ただ、時折“ゲームと違う”“イベントが起きない”などと呟き、癇癪を起こすことがあるようだ」
アコは思わず顔を引きつらせる。
(げ、ゲームの世界……これは簡単に話していいことじゃないよね?
私はそもそもゲームの内容知らないし……! ちゃんとミサキちゃんに会って、直接話をしたほうがいいかもしれない……)
「港に出向いたが……屋台ごと、跡形もなく消えていた」
ユリウスが改めて告げる。
「私がおそばにいながら……」
イレーネが、かすかに眉を曇らせてうつむく。
「今回の貝に施されていた穢素は、自然界にあるものと何ら変わらぬ性質だった。イレーネでは気づけぬ。責めないでやってくれ」
ユリウスは落ち着いた声でそう言った。
「やだやだ! 買ったのは私なんだから! もちろんもちろんもちろん!」
アコは何度も首を上下に振り――くらりと視界が揺れた。
「アコ!」
イレーネとユリウスが慌てて支える。
その様子を眺めていたレオネルが、ふっと口元を緩めた。
「……お前たちは、面白いな」
一瞬だけ緊張が和らぎ、再び静けさが満ちる。
レオネルはカップをソーサーに戻し、鋭い言葉を落とした。
「……しかし。その男は、少量の穢素で貴女が反応することを知っていた」
アコの心臓が、大きく跳ねた。
「それはつまり――貴女が聖乙女と共に召喚された“もう一人”の存在だと承知しているということだ」
レオネルの蒼い瞳が細められる。
「その事実を知るのは、王城と三女神大教院のごく一部……ならば、誰かが意図的に情報を漏らしている」
――ドクン。
アコの耳には、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
そんな中、イレーネがお茶を下げ、ほどなくして音も立てずに新しい盆を運んでくる。
淡々とカップを並べていくと、香ばしい匂いがふわりと漂った。
湯気を立てるのは、白くミルクの混じるコーヒー。
その柔らかな香りに、アコは思わずカップを両手で包み込む、そっと飲み込む。
「あぁぁ……落ち着く……」
レオネルは無言でカップを取り、ひと口含む。
ユリウスも黙って受け取って口をつけた。
ほんの短い間だけ、場の空気がやわらいだ。
ユリウスが口を開く。
「それで、露天の男について。覚えてることを教えてくれるか」
アコは眉を寄せ、必死に記憶をたぐる。
「えっと……私より年上で、ちょっとワイルドそうな人でした。でも、眼差しは優しげに見えて……、瞳の色は……深いグリーンだったと思います」
ユリウスは短く息をつき、目を細めた。
「……眼帯は変装だろうな。わざわざ付けるってことは、人相をごまかすためだ。外したら印象ががらりと変わるかもしれない」
アコが不安げにうつむくと、ユリウスは視線を合わせるように言葉を続けた。
「だから、アコが覚えてる“雰囲気”や“印象”の方が大事だ。優しそうに見えたなら、それで十分だ」
「……そっか」
アコは胸に手を当て、少しだけ肩の力を抜いた。
その時、ふと思い出しておそるおそる尋ねた。
「……あの、ミサキちゃんはどうしてるんですか? 穢素とか……大丈夫なんですか?」
ユリウスが短く頷く。
「聖乙女は、自身に浄化の力があるから問題ない。むしろ浄化を行うたびに、人々の信仰は強まり、彼女を慕う者たちも増えている」
レオネルが言葉を継いだ。
「……ただ、時折“ゲームと違う”“イベントが起きない”などと呟き、癇癪を起こすことがあるようだ」
アコは思わず顔を引きつらせる。
(げ、ゲームの世界……これは簡単に話していいことじゃないよね?
私はそもそもゲームの内容知らないし……! ちゃんとミサキちゃんに会って、直接話をしたほうがいいかもしれない……)
「港に出向いたが……屋台ごと、跡形もなく消えていた」
ユリウスが改めて告げる。
「私がおそばにいながら……」
イレーネが、かすかに眉を曇らせてうつむく。
「今回の貝に施されていた穢素は、自然界にあるものと何ら変わらぬ性質だった。イレーネでは気づけぬ。責めないでやってくれ」
ユリウスは落ち着いた声でそう言った。
「やだやだ! 買ったのは私なんだから! もちろんもちろんもちろん!」
アコは何度も首を上下に振り――くらりと視界が揺れた。
「アコ!」
イレーネとユリウスが慌てて支える。
その様子を眺めていたレオネルが、ふっと口元を緩めた。
「……お前たちは、面白いな」
一瞬だけ緊張が和らぎ、再び静けさが満ちる。
レオネルはカップをソーサーに戻し、鋭い言葉を落とした。
「……しかし。その男は、少量の穢素で貴女が反応することを知っていた」
アコの心臓が、大きく跳ねた。
「それはつまり――貴女が聖乙女と共に召喚された“もう一人”の存在だと承知しているということだ」
レオネルの蒼い瞳が細められる。
「その事実を知るのは、王城と三女神大教院のごく一部……ならば、誰かが意図的に情報を漏らしている」
――ドクン。
アコの耳には、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
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