巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ

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第27話 変わりつつある日常

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体調が戻り、ようやくマリナの店でアルバイト復帰となった。
……ただし、その許可をもらうには四人もの“関所”を通らねばならなかった。
ユリウスに「無理はしないように」と念を押され、イレーネには「厨房に立つのは控えめに」と釘を刺され、マリナには「休む時は休むのよ」と言われ、最後にゴドンにまで「ふらついたら即座にやめろ」と厳命され――ようやく全員の首を縦に振らせることができたのだった。

(……許可もらわなきゃならない人が多すぎるよ……汗)
アコは内心で苦笑しながら、久しぶりにマリナの店の厨房に向かった。

この前手に入れたパスタ用の小麦粉を使って生地を打つ。
すると、伸びやすさも弾力もこれまでと段違いで、こねながら思わずつぶやく。

「粉を変えるだけで、こんなに違うんだなぁ……」

丸くした生地をきちんと寝かせ、薄く伸ばして切りそろえた麺を試しに茹でてみる。
ぷつりと歯切れのよい食感、もっちりとした弾力、豊かな香りが口いっぱいに広がった。

「え、美味しい!?」

麺を一口噛みしめた瞬間、視界の端に淡い光が走った。

【料理眼発動】
名称:手打ちパスタ(デュラムセモリナ近縁の小麦使用)
食用:◎
効果:消化がよく、体力回復にも適する。
補足:乾燥させれば保存性が高く、旨味も増す。
毒:無し

「……!」

(やっぱり……前より美味しいだけじゃなくて、保存したらさらに良くなるんだ……!)

感動の余韻にひたりつつ、アコは次の妄想に取りつかれる。
(これがもし、パスタマシーンで乾燥パスタになったら……めちゃめちゃ美味しいのができちゃうんじゃ……)
にやにやと笑みを浮かべながら、勝手にルシアンへの期待値を上げてしまうのだった。

* * *

その日の午後、イレーネと一緒に買い出しに出た。
石畳の通りには、肩辺りを覆い胸元で留めた白いケープを羽織る人々が目立つ。
胸元の留め金は三女神を模したもので、三女神大教院で配布していて、入信しなくても、お布施をすると貰えるらしい……。
昨日よりも、また一昨日よりも、その姿は増えている。
漁師も、商人も、子供までもが同じ装いをして歩く光景は、まるで街全体がひとつの信仰に染め上げられていくようだった。

神官たちの姿も町に増え、広場では祈りの声が響いている。
だが肝心の聖乙女は最近姿を現さず、どれほど素晴らしいかという称賛ばかりが広まっていた。

(……とても平和なんだけど、過ぎると逆に怖いな……)

そんな時、イレーネが歩きながら言った。
「殿下のお言葉です。――アコさまの身辺には、“影”と呼ばれる護衛がひとり、常に控えていると」

「えぇっ!? い、いつから!?」
慌てて周囲を見回すアコ。だが人影は見えず、ただ視線の気配だけが背筋を撫でていく。

「……アコさまに見つけられるようでは、影にはなれません」
イレーネは淡々と言い放った。

アコは唇を尖らせたが、すぐに思い出す。
――そうだ。もし、あの眼帯の男を見かけたら、すぐ知らせてほしい。ユリウスにそう言われたことを。

(でも……もし眼帯を外してたら、私にわかるのかな……?)
胸騒ぎを覚えながら、アコは再び人混みに視線を走らせた。

* * *

店に戻ると、ゴドンとマリナが不安気に話していた。

「最近、三女神大教院の信者が特に増えな……」
ゴドンが腕を組み、渋い顔をする。
「俺たちがガキの頃は、漁師たちの民間信仰に毛が生えたくらいだったのによ」

「そうね……」
マリナもため息をついた。
「今の大神官、えっとセラディウス様? あの人になってからどんどん大きくなったのよ。聖乙女様が来てからは、もう勢いがすごいもの」

二人の会話を聞きながら、アコは胸のざわつきを抑えられなかった。

――白いケープの人々。
街に広がる聖乙女への称賛。
そして、どこかに潜んでいるかもしれない、あの眼帯の男。

平和そうに見える町の景色の奥に、確実に迫る影を感じ取り、アコの心は落ち着かなくなるのだった。
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