巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ

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第31話 癇癪と企み

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王城の奥、聖乙女のためだけに設えられた控えの間。
会場で感情を爆発させかけたミサキを、セラディウスとカイルが人目を避けるようにこの部屋へ導いた。
遠くから舞踏会のざわめきが微かに届く中、少女の声が怒りとともに部屋を揺らしていた。

「なんで、あのおばさんがいるのよ!」
香水瓶が床に叩きつけられ、硝子が砕けて甘い香りが散る。
「わたしの邪魔ばっかりして! いつもいつも、わたしのものを取っていく!」

ミサキはドレスの裾を踏みつけながら、息を荒げて叫び続けた。

「みんな、わたしを見てたのに……!
あの人が来た途端、みんな、あっちを……!」

その叫びを遮るように、静かな声が落ちた。

「どうか心を静めて。過ぎたる怒りの炎は、自身をも焼き尽くしてしまいます」

白と金の法衣をまとい、終始微笑を崩さぬ男――大神官セラディウスが、ゆっくりと歩み寄る。

「ミサキ様。怒りは力を失わせます。けれど……正しく導けば、それは奇跡に変わる」

「……導く?」
涙に濡れた頬を拭いながら、ミサキが顔を上げた。

セラディウスは彼女の肩に手を置き、甘く囁く。
「少し、懲らしめてあげましょう。
聖なる貴女のお心を乱す者に、三女神の裁きをお与えするのです。
そうすれば、ミサキ様の信奉者はますます増えるでしょう」

ミサキの瞳が揺れた。
「……ほんとに?」
「ええ。これは女神たちのお導きです」

微笑を深めながら、セラディウスはわずかに顔を傾ける。
「――カイル」

部屋の影から、黒に灰をまぜたような髪の青年が静かに姿を現した。
その手は無意識に指先を握りしめ、何かを抑えるように震えている。

「……はい」

「アレを、グラスに」

セラディウスはそれだけを言った。
しかし、それで十分だった。

カイルの掌が淡く光を帯びる。
次の瞬間、指の隙間から紫色の靄が滲み出した。
それは、生きているように蠢く――穢素。

苦痛の影が彼の表情をかすめる。
まるで、体の内側を裂かれるような痛みに耐えるかのように。

それでもカイルは黙って歩み寄り、
卓上の金の脚のワイングラスのひとつに手を伸ばした。
靄はゆっくりと液体へと溶け込み、音もなく消える。

セラディウスは満足げに頷き、
再びミサキの傍らに立つ。

「これでよろしい。……貴女は、真に選ばれし聖乙女なのです」

ミサキは、いつの間にか泣き止んでいた。
瞳の奥に、微かな光――そして狂気にも似た熱を宿して微笑む。

「ふふ……そうね。私が、女神なんだから」

カイルは一歩下がり、視線を床に落とした。
割れた硝子の破片が光を反射し、紫の残光を映している。
彼の表情には、何の感情も浮かんでいなかった。

「さあ、会場に戻りましょう! 楽しくなりそうね!」

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