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第35話 アコとミサキ
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王城の地下牢。
湿った空気が、いつもより甘い香を含んでいた。
アコが顔を上げると、足音が近づく。
鉄格子の向こう、明るい魔法石ランプの明かりに白い影が揺れる。
「……ミサキ、ちゃん?」
白と金のドレス。ふわりとした明るい茶色の長い髪。
聖乙女ミサキが、微笑んでいた。
その背後には、無表情のカイルが静かに立っている。
「どう? おばさん。少しは反省した?」
ミサキの口元が、にやりと吊り上がる。
「わたしの邪魔ばっかりするから――お仕置きだよー!」
「……ミサキちゃん、なんでここに?」
アコが身を乗り出す。
少女はわざとらしくスカートの裾を摘み、くるりと一回転して見せた。
「今度ね、すっごい大きなイベントがあるの!」
声は弾んでいた。
「“全世界浄化フェスティバル”! わたしがぜーんぶの海と大地をキレイにするの!
そしたら、みんなの恋愛ゲージも爆上げするんだよん!」
アコは一瞬、言葉を失った。
「……恋愛ゲージ? なにそれ。そんなもの、ないでしょ?
ここは――ゲームじゃないよ、ミサキちゃん」
ミサキの笑い声が、ぴたりと止まった。
次の瞬間、彼女の瞳が揺らめく。
「……なに言ってんの。ゲームだよ?
【蒼海の聖乙女と五つの誓約】の世界だもん。わたしが聖乙女で、おばさんは“モブ枠”でしょ?
だから、わたしの恋愛ルートの邪魔しないでって言ってるの!」
「……そうかも、しれないけど……」
アコの声が震えた。
「ちゃんと現実を見て、ね? 街があって、人がいて、笑って、泣いて、ご飯を食べて……全部ちゃんと“生きてる”の。
ミサキちゃんが好きなゲームの中なんかじゃないの!」
「違う!」ミサキが叫んだ。
「わたしが浄化してるの! 光魔法が使えるんだよ!?
この世界をわたしが救ってるの! だから――わたしは、みんなに愛されなきゃいけないの!」
その言葉には、必死さと不安が混じっていた。
アコは静かに鉄格子越しに言う。
「……ねえ、ミサキちゃん。人はコントロールできるものじゃないんだよ」
ミサキの表情がぐしゃりと歪む。
「うるさいっ!! ゲームをやってないあんたにわかるわけないっ!!」
ランプの灯りが一瞬、大きく揺れた。
カイルがそっと手を伸ばし、ミサキの肩を押さえる。
「聖乙女様。もう、お時間です」
「……ふん」
ミサキは鼻を鳴らし、アコに背を向けた。
「見てなさい。わたしがこの世界ぜんぶ、ちゃんと浄化してあげるんだから!」
スカートの裾を翻し、少女は去っていく。
残されたのは、鉄の匂いと、遠ざかる足音。
アコは両手で顔を覆い、深く息を吐いた。
(ミサキちゃん……やっぱり夢の中にいるんだね……)
牢の中の、滲むような淡いランプの光が小さく揺れた。
その光は、まるで誰かの涙のように震えていた。
湿った空気が、いつもより甘い香を含んでいた。
アコが顔を上げると、足音が近づく。
鉄格子の向こう、明るい魔法石ランプの明かりに白い影が揺れる。
「……ミサキ、ちゃん?」
白と金のドレス。ふわりとした明るい茶色の長い髪。
聖乙女ミサキが、微笑んでいた。
その背後には、無表情のカイルが静かに立っている。
「どう? おばさん。少しは反省した?」
ミサキの口元が、にやりと吊り上がる。
「わたしの邪魔ばっかりするから――お仕置きだよー!」
「……ミサキちゃん、なんでここに?」
アコが身を乗り出す。
少女はわざとらしくスカートの裾を摘み、くるりと一回転して見せた。
「今度ね、すっごい大きなイベントがあるの!」
声は弾んでいた。
「“全世界浄化フェスティバル”! わたしがぜーんぶの海と大地をキレイにするの!
そしたら、みんなの恋愛ゲージも爆上げするんだよん!」
アコは一瞬、言葉を失った。
「……恋愛ゲージ? なにそれ。そんなもの、ないでしょ?
ここは――ゲームじゃないよ、ミサキちゃん」
ミサキの笑い声が、ぴたりと止まった。
次の瞬間、彼女の瞳が揺らめく。
「……なに言ってんの。ゲームだよ?
【蒼海の聖乙女と五つの誓約】の世界だもん。わたしが聖乙女で、おばさんは“モブ枠”でしょ?
だから、わたしの恋愛ルートの邪魔しないでって言ってるの!」
「……そうかも、しれないけど……」
アコの声が震えた。
「ちゃんと現実を見て、ね? 街があって、人がいて、笑って、泣いて、ご飯を食べて……全部ちゃんと“生きてる”の。
ミサキちゃんが好きなゲームの中なんかじゃないの!」
「違う!」ミサキが叫んだ。
「わたしが浄化してるの! 光魔法が使えるんだよ!?
この世界をわたしが救ってるの! だから――わたしは、みんなに愛されなきゃいけないの!」
その言葉には、必死さと不安が混じっていた。
アコは静かに鉄格子越しに言う。
「……ねえ、ミサキちゃん。人はコントロールできるものじゃないんだよ」
ミサキの表情がぐしゃりと歪む。
「うるさいっ!! ゲームをやってないあんたにわかるわけないっ!!」
ランプの灯りが一瞬、大きく揺れた。
カイルがそっと手を伸ばし、ミサキの肩を押さえる。
「聖乙女様。もう、お時間です」
「……ふん」
ミサキは鼻を鳴らし、アコに背を向けた。
「見てなさい。わたしがこの世界ぜんぶ、ちゃんと浄化してあげるんだから!」
スカートの裾を翻し、少女は去っていく。
残されたのは、鉄の匂いと、遠ざかる足音。
アコは両手で顔を覆い、深く息を吐いた。
(ミサキちゃん……やっぱり夢の中にいるんだね……)
牢の中の、滲むような淡いランプの光が小さく揺れた。
その光は、まるで誰かの涙のように震えていた。
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