レンズ越しの彼は……

なめめ

文字の大きさ
33 / 33
これから先も……

これから先も……

しおりを挟む
冬を越し、旭たちが二年に上がる前の春。遼人は都内へ移住し本格的に事務所に入り芸能活動を始めることになった。

 前日は養護施設のみんなで送別会をし、旭も当然呼ばれ、楽しく遼人との楽しい夜を過ごした。そして旅立ちの日の早朝、向こうに着いたら事務所の人と今後についての説明があるらしく、始発の電車に乗って遼人は向かうことになった。


 最寄りの電車の駅のホーム。旭は遼人を見送るために入場券を購入して、遼人が電車に乗り込む最後の時まで一緒に待つことにした。

 星杏ちゃんは駅の改札まで一緒にいたが、どうやら気を遣ってく
れたようで遼人と二人きりになった。

 電車を待つ人が並ぶ、列の最後尾で遼人と並んで待つ。遼人に想いの丈をぶつけて恋人になったが、旭自身恋人と言って何をするか具体的に分からず、遼人もレッスンがあったこともあり、関係は今までとなんら変わりなかった。強いていうなら、学校が休みの日に一度だけ偵察がてら電車に乗って原宿のクレープを食べに行った
ことだろうか。

「旭。電話、定期的にしてこいよ」
「うん」
「最低二日に一回。なかったらデコピンの刑な」
「うん」

 昔から何度か食らったことがあるが、遼人デコピンは地味に痛い。
思い出しては、額を抑えて軽く身震いした。

「あと、浮気すんなよ。俺以外のやつに目移りしたら許さねぇから」
「うん。それは大丈夫」

 遼人の澄んだ瞳を見つめて旭は自信満々に答える。これは揺るぐことはない。目の前の彼が愛おしくて、離れるのが惜しくて、何かのはずみで彼と一緒に電車に乗って行ってしまいそうなくらい恋焦が
れてる。

「それと……。星杏のことよろしく」
「もちろん。まかせて」

 やはり兄として、唯一の家族として、彼女を残して自分が旅立つのは気にかかることはあるのだろう。そんな妹想いの遼人も好きだ。

「遼、これ。持ってて、御守り」
「何これ」

 旭は徐に洋服の胸ポケットから掌サイズの巾着を取り出して遼人に渡す。遼人は訝しげに巾着を眺めた後、紐を解いて袋の中身を逆さにして掌に取り出した。澄んだ水色のビー玉。遼人がくれた宝物。

「僕の御守り。園に来た時に遼が僕にくれたもの。僕の宝物だから
遼に持っててほしい」
「なんでそんな昔のものっ」

 旭が真剣にそう話すと、遼人の耳朶がみるみる赤く染まる。てっきり遼人は覚えていないと思っていたが、その様
子だとちゃんと覚えていてくれているらしい。なんだか胸が擽ったい気持ちになる。

「僕さ。卒業したらそっちに行くよ。カメラ、本格的に勉強しようと思う。だから待っててほしい」

 遼人と想いあえてから自分の将来について真剣に考えるようになった。入賞ですら獲れない自分には才能がないカメラだけど、挑戦してみたいと思ったのは紛れもなく遼人の姿を見たからだ。

 まだ高校卒業までは二年もあるけど、向こうの専門学校に通って、カメラの勉強して、誰よりも遼人のことを綺麗に映せる存在でありたいと思う。

「ヤダ。俺は先に行く。旭が嫉妬して、俺の事離したくなくなるくら
い有名になってやる」

「そっか。それは楽しみだな」

 ホームに飾られているポスターたちの中に遼人が並ぶ日が来るのだろうか。想像したら嬉しくなって旭がそう零した言葉に反して、遼人の表情が険しくなっていく。

「ホント、お前のそういうとこ嫌い」
「えっ、僕なんかまた失言した?」

 唇を尖らせてそっぽを向いてしまう。
 また遼人を怒らせてしまったらしい……。

 旭が問うてもそっぽを向いたまま返事をしてもらえなかった。何て声を掛けても遼人の機嫌は直ることはなさそうなので押し黙っていると隣から呟くような声が聞こえてくる。

「嫌いだけど……お前のどんくさいとこに振り回される俺ももっと嫌い……」

 遼人が呟くタイミングと同時に電車がホームに入ってきて、言葉の八割も聞き取ることが出来なかった。旭が「遼、今なんか言った?」と返しても「うるせぇ。せいぜい浮気すんな馬鹿」とだけ言って、到
着した電車へと颯爽と乗り込んでしまった。

遼人だって寂しがり屋なのに地元を離れて向こうで生活なんかできるんだろうか。

 扉が閉まり、電車が行ってしまう一瞬。遼人が寂しそうな顔をしていた気がした。
早く自分も大人になって彼の傍にいれる存在に慣れればいいと思う。

 とりあえず今は週末に沢山、会いに行こう。
今の限られた時間を大切に、遼人と過ごせたらいいと思う。

 旭は、遼人と別れた駅のホームを後にすると、早速別れたばかりの遼人に『来週末、遼のうち遊びにいきたい』とメッセージを送っては頬を緩ませていた。






END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

処理中です...