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3 豆と女神展 (1)
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〈喫珈琲カドー〉を開けはじめて一週間ほど経った頃。とうとういくつかのコーヒー豆のストックが残り少なくなった。客数はたかが知れているとはいえ、一日中はもたないかもしれない。
祖父は豆の焙煎を手がけていなかった。なじみの専門店が焙煎したものを、ストックの量を見ながら注文していたらしい。電話で宅配を依頼するのだろう。レジの横に店名と住所、電話番号を書いたメモが貼られていた。
「直接行ったら? 一度挨拶するべきだよ」
そのメモを眺めていた時、ハナオが直接出向くことを提案してきた。提案というより後押しといった感じだ。俺もちょうど同じことを考えていた。
かくして〈喫珈琲カドー〉は久々の休業日をとった。
メモの住所はそれほど遠くない。二、三十分かかるが徒歩圏内だ。俺は少しほっとした。電車移動はまだしたくない。たとえ平日昼間の各駅停車でも。
幸い快晴に恵まれ、久しぶりの外出も気分がいい。隣を歩くハナオの影のない足元を見ないようにして、雲一つない淡い青空を見上げた。
「ミツの目って、緑色なんだ?」
顔を向けると、ハナオが目の前で覗き込むように背のびをしている。おもわず足を止めた。
(危ねぇな)
ぶつかるだろ――いや、ぶつからないのか。まぎらわしい。
俺は「あぁ」と呟き、ハナオをよけて再び歩き出す。ハナオは追いつくと隣に並んだ。
「隔世遺伝だよ。ばあちゃんが日本とフランスのハーフで、もっとずっと鮮やかできれいな緑色の目をしていたらしい」
俺の目は微かに緑がかっている程度で、一見してあきらかに緑色だとはわからない。今みたいに日なたでよく見ない限り気がつかないだろう。実際、気づかれたのも久しぶりだ。他のパーツはどう見ても日本人なのに、なんで目だけ微妙に異国の要素が出てしまったのだか。
「そうは言っても、ばあちゃんはもうかなり前に亡くなっているから、俺は直接会ったことがないし、目の色も知らないんだけど」
セピア色をした写真の中でなら見たことがある。ガラス作家だったというまだ若い祖母は、色素の薄い髪と負けん気の強そうな表情が印象的だった。祖父母が若かった時代でのあの外見は、苦労も多かったことだろう。
「素敵な色だよ。いいものをもらったね」
「……どうも」
さらりと言われた言葉に、俺は少し照れた。祖母のようにあからさまではないおかげで特に苦労もなかったが、さりとて特別に褒められたこともない。今さらながら祖母から譲り受けたものが誇らしく感じられ、そう思う自分がなんだか気恥ずかしくて、俺は歩調を速めた。
祖父は豆の焙煎を手がけていなかった。なじみの専門店が焙煎したものを、ストックの量を見ながら注文していたらしい。電話で宅配を依頼するのだろう。レジの横に店名と住所、電話番号を書いたメモが貼られていた。
「直接行ったら? 一度挨拶するべきだよ」
そのメモを眺めていた時、ハナオが直接出向くことを提案してきた。提案というより後押しといった感じだ。俺もちょうど同じことを考えていた。
かくして〈喫珈琲カドー〉は久々の休業日をとった。
メモの住所はそれほど遠くない。二、三十分かかるが徒歩圏内だ。俺は少しほっとした。電車移動はまだしたくない。たとえ平日昼間の各駅停車でも。
幸い快晴に恵まれ、久しぶりの外出も気分がいい。隣を歩くハナオの影のない足元を見ないようにして、雲一つない淡い青空を見上げた。
「ミツの目って、緑色なんだ?」
顔を向けると、ハナオが目の前で覗き込むように背のびをしている。おもわず足を止めた。
(危ねぇな)
ぶつかるだろ――いや、ぶつからないのか。まぎらわしい。
俺は「あぁ」と呟き、ハナオをよけて再び歩き出す。ハナオは追いつくと隣に並んだ。
「隔世遺伝だよ。ばあちゃんが日本とフランスのハーフで、もっとずっと鮮やかできれいな緑色の目をしていたらしい」
俺の目は微かに緑がかっている程度で、一見してあきらかに緑色だとはわからない。今みたいに日なたでよく見ない限り気がつかないだろう。実際、気づかれたのも久しぶりだ。他のパーツはどう見ても日本人なのに、なんで目だけ微妙に異国の要素が出てしまったのだか。
「そうは言っても、ばあちゃんはもうかなり前に亡くなっているから、俺は直接会ったことがないし、目の色も知らないんだけど」
セピア色をした写真の中でなら見たことがある。ガラス作家だったというまだ若い祖母は、色素の薄い髪と負けん気の強そうな表情が印象的だった。祖父母が若かった時代でのあの外見は、苦労も多かったことだろう。
「素敵な色だよ。いいものをもらったね」
「……どうも」
さらりと言われた言葉に、俺は少し照れた。祖母のようにあからさまではないおかげで特に苦労もなかったが、さりとて特別に褒められたこともない。今さらながら祖母から譲り受けたものが誇らしく感じられ、そう思う自分がなんだか気恥ずかしくて、俺は歩調を速めた。
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