世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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強制依頼

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パーティから二日も経つと、招待客達の中に帰国する人間が出始める。
自分達の領地での仕事も抱えている中、いつまでもここに滞在するわけにはいかないということでの帰国だ。

一方で、ラシーブ一味の処刑を見届けるためにと残る人間もそれなりに多くいる。
こっちの方は愚か者の末路を見届けることで、留飲を下げたいという考えがその振る舞いからとても分かりやすい。

特に、潜入に利用されたというスタンスであるスワラッド商国の人間は、ラシーブ一味に向けて恨みも一入といった感じだ。
なにせ、今回の事件でスワラッド商国に向けられる他国の人間の目がとにかく厳しい。
そのせいで、ラシーブ達に対しての怒りは他の人間よりも大分強い。

まるでスワラッドが全ての元凶かのような見られ方だが、ちゃんとグバトリアからはラシーブ達の行動がスワラッド商国とは関係ないところでのことだったと説明はしてもこれなのだから、今回の事件がスワラッドに対する不信をいかに植え付けたかがよく分かるというもの。

まぁ同行者の管理という点においてはスワラッド側にも責任はあったので、しばらくは辛い立場を受けて入れてもらうしかない。




「いやぁ、出発日和だねぇ」

「どこがだよ。曇り空じゃねーか」

「えー?涼しくていいじゃん。カンカン照りよりはましだよ」

ソーマルガ号の甲板上を移動する飛空艇の中で、俺とパーラはそんなことを口ずさみながら、出発に向けた離陸準備を行っていた。

パーラが言ったように、今日は珍しく雨でも降りそうな曇り空で気温も若干低く、過ごしやすいと言えば過ごしやすい。
だが飛空艇が飛び立つのなら、やはり晴れの空が気持ちいいと俺は思っているので、パーラの言葉にもろ手を挙げて賛同はできない。

そうしている内に飛空艇は誘導によって甲板の中央へと到着し、後は管制による離陸許可を待つのみとなった。
今俺達の他に飛空艇は動いておらず、離陸許可もすぐに下りると思ってたのだが、先程の待機の光信号以降、指示が送られてこない。
何かトラブルでも起きているのかと思っていると、パーラが俺の肩をチョイチョイと叩いてきた。

「アンディ、あそこ見て。アイリーンさんがいる」

パーラの指さす先を見ると、甲板を歩いてくるアイリーンの姿があった。
特に急ぐようでもなく、ゆったりと歩いてくる様は全くもっていつものアイリーンだ。

「…ほんとだ。なんだ?まさか一緒に来るとかじゃないよな?」

「や、多分だけど、見送りに来てくれたんじゃない?」

「あぁ、なるほど。んじゃちょっと外に出るか」

「そだね」

見送りにわざわざやってきたアイリーンを、こちらも外に出て出迎えることにした。
二人そろって飛空艇から出たタイミングで、丁度いいところまで来たアイリーンに声を掛ける。

「アイリーンさん、見送りに来てくれたんですか?」

「ええ。友人の出立、見送らないわけがないでしょう」

一応、今日出発することは知り合いには挨拶と共に伝えていたが、グバトリアとはじめとして、使用人達やバネッサ達は仕事もあるため、見送りは不要と言ってあった。
勿論、アイリーンにもだ。

しかし、わざわざこうして見送りに来てくれると、やはり嬉しい気持ちは覚える。

「それにしても、たったの二日で出発できるなんて、やはり飛空艇乗りは身軽でいいですわね」

「まぁ俺もパーラも荷物は飛空艇に積んだままでしたからね。それに、物資も陛下が融通してくれましたから、その分手間も少なかったってのもありますよ」

流石王だけあって、グバトリアの一声で飛空艇にはすぐに十分な物資が運び込まれ、それもあって二日で出発できるようになったわけだ。

「陛下もアンディ達には早く出発してほしかったのでしょうね。あぁ、悪い意味ではありませんのよ?ここの所、他国の人間がアンディとの面会を希望して煩いとこぼしていましたから」

「なるほど、それなら確かに俺は早いとこいなくなった方がいいですね」

その面会希望者の狙いが何かはよく分かるため、煩わしいやりとりから俺を解放しようというグバトリアの親切心だろうか。
もしくは、他国の人間に抜け駆けされないように、一先ず自分の勢力圏内で囲い込める皇都へとさっさと送り出したいという狙いもあったのかもしれない。
どちらも考えられるあたり、グバトリアの政治的センスの高さがよく分かる。

「私は明日、領地へと帰りますが、アンディ達はどれほどの時間で戻ってきますの?」

「そうですねぇ。今は北からの向かい風がありますから、移動時間はやはり大分見る必要がありますね。皇都へ行って、バイクを積んで、マルステル男爵領に戻るとなれば、まぁ十日ほどと言ったところでしょうか」

「…随分とかかりますのね」

「いやいや、私達の飛空艇は足が速いからこれぐらいで済むんだよ?普通の小型飛空艇なら途中で補給だなんだと、この倍はかかると思うね、多分」

若干不満そうな顔をしたアイリーンに、パーラがその認識を正そうと口にしたのには俺も同意したい。
そもそも俺達の飛空艇は速力に優れて、居住空間も積載能力も兼ね備えた高速万能船ともいえるものだ。
この飛空艇だからこそ、タラッカ地方から皇都、皇都からマルステル男爵領というソーマルガ国内を往復する勢いの航路も、僅か十日ほどに抑えられる。

飛空艇の旅にあまり慣れていないアイリーンなら仕方ないが、これで遅いと言ったら他の飛空艇乗りは顎を外してしまいかねない。

そんなことを話していると、艦橋の方から光信号が発せられた。
ようやく離陸許可が出されたようだ。

「じゃあそろそろ出発します」

「ちゃんとお土産買ってくるからねー」

「ええ、楽しみにしていますわね。では気を付けていってらっしゃいな」

アイリーンと別れ、コックピットへと戻った俺達は、飛空艇からアイリーンが離れたのを確認し、船体をゆっくりと上昇させていく。
そう言えば空母からの発艦はこれが初めてになるのか。

着艦に比べて難易度は下がるとはいえ、初めてのことに緊張をしないということはなく、若干操縦桿を握る手が強まるのを覚えつつ、十分な高度に達したところで飛空艇をゆっくりと前進させる。
眼下の甲板が途切れ、海一色となったところで速度を上げ、一路皇都を目指して飛びたった。

なお、去り際に俺達へ向けて艦橋から光信号で『旅の無事を祈る』と発せられ、それに対してパーラが返信したのだが、何を送ったのかは定かではない。
まぁこいつもアホではあるが、よっぽどののことが無い限りはちゃんと振舞えるので心配はしていない。
いないのだが、何故か送った内容を聞くとはぐらかすのが気になる。

…本当にちゃんと返事をしたんだろうな?




四日後の昼過ぎ、俺達は皇都近郊の飛空艇保管場所へと着陸していた。
向かい風の影響で四日かかったが、それがなければ三日で着けていただろう。
タラッカ地方へ向かった時は他の飛空艇と速度を合わせていたのもあったが、やはり風の影響というのは侮れない。
行きはよいよい帰りは辛い…だったか?知らんけど。
まぁそんな感じだ。

飛空艇を降りたところで待っていた整備員に飛空艇の管理を任せる。

「では整備と補給はこちらで。明日までには全て終わると思いますので、それ以降に来ていただければすぐに引き渡しますから」

「お願いします。それと、ダリアさんは今どちらにいるかわかりますか?」

先ずダリアに挨拶をと思い、ここの人間になら居場所は分かるだろうと尋ねてみる。

「ダリアさんですか?確か今日は試作機の稼働実験をやってますから、そっちの方じゃないですかね」

「なるほど。それはどこに?」

「詳しい場所までは。何せ機密が絡んでますから、僕程度には明かされていない情報も多いんですよ。じきに帰ってきますから、その時にアンディさんのことを伝えておきましょうか?」

「じゃあお願いできますか?俺達は皇都の方へ行っているということも」

「わかりました」

今日の宿にと当て込んでいたダリアが不在というのは困ったが、伝言は託せたのでよしとしよう。
早速バイクにまたがり、パーラと共に皇都へと向かう道すがら、サイドカーに収まっているパーラが口を開く。

「ダリアさんも忙しいみたいだし、バイクを積んだらそのまま出発しちゃってもよかったんじゃない?」

「まぁそれでもよかったんだが、ここまで来て皇都に寄らずに出発ってのはちょっと勿体ない気がしてな」

「それもそうだね」

実際、皇都に行ったからといって何か用事があるわけではない。
食料はまだ飛空艇に十分な備蓄があるし、今会っておくべき人もいない。
ただ、ソーマルガの中心である皇都は多くの品物や情報が集まる場所であるため、足を運んでおいて損はない。

そんなわけで、街に入ってまず向かったのはやはり市場だった。
人も物も情報も、すべてここに集まると言っても過言ではなく、店先の品を見るだけで凡そのトレンドを掴めるのも面白い。

「へぇ、あそこ新しく店が出来たんだ。あ、見てアンディ!あっちの店、また別のになってるよ。やっぱ潰れたんだね」

「おい、あんまり派手に動くなよ。ハンドルがブレる」

あちこちを指差しながら、サイドカーから身を乗り出す勢いのパーラの言葉が、この街での商売の浮き沈みを表していた。

市場は商人達が犇めく激戦区であり、下手なやり方しかできないと、あっという間に店が潰れて別の人間の店になる。
ひと月ぶりにやってきて目にした光景だったが、俺はその潰れる前の店が何だったのか記憶にない時点で、あまり振るってはいなかったのだと思う。

商人も大変だなどと、切ない思いを覚えながらもバイクを走らせていくと、乾物を扱う商店にちょっとした人だかりが出来ているのが見える。
まるで喧嘩を見物しているかのような雰囲気だ。

「…なんだろ、あれ。なんか面白いのでも入ったのかな?」

パーラも店の様子から、そこに興味を持ったようだ。
普通なら何か目玉商品でも入荷したのかとも思うが、チラリと見えた野次馬達の顔が困惑気味なのは気になる。

「さてな。ちょっと覗いてみるか」

好奇心をそそられた俺達はバイクを降りて、人の群れに近付いていく。
すると、そこではやや剣呑な雰囲気な客と、困り気味に腕を組んでいる店主の姿があった。
客の方はそこそこ身形のいい男性で、一見するとどこぞの豪商か下級貴族といった感じだ。

「いや、だからそれだけじゃ何を指しているのか分からんよ。現物はないのかい?」

「あればこんなことを聞いたりしていない!…とにかく昆布という海藻だ。乾燥させたもので薄くて黒く、あと硬い。そういったものを扱っていまいか?」

「うーん…カシウゴケを板状に乾燥させたものが近いとは思うが、昆布って名前じゃあないしなぁ。悪いが、心当たりはない」

「そうか…。騒がせたな。埋め合わせはその内に」

「ああ。まぁなんだ、あんまり気を落とすなよ?」

どうやら彼は昆布を求めてやってきたようだが、取り扱っていないと分かると意気消沈。
肩を落として去っていった。

それを見送る人達は、騒ぎが収まったと見て散り散りになっていく。
残ったのは本来店に用があった客と、たった今のやりとりに思う所がある俺達だけとなった。

「今の人、昆布を探してこの店に来たってことだよね?」

「多分な。恰好からしてそこそこ金を持てる地位の人間だろう。どこぞの貴族に昆布を探してこいと言われた商人か、あるいはその貴族家の関係者と言ったところか」

「ふーん。でもさ、アイリーンさんが昆布を皇都で他の貴族達に紹介したのって、確かついこないだだよね?なのにもう探し回る人間が出てきてるってことは、それだけ需要がでてきたんだ」

そう、パーラの言う通り、アイリーンが昆布を皇都に持ち込んで貴族達にアピールしてからまだ一カ月も経っていない。
なのにもう乾物屋にブツを求めてくる人間が出てきた。
それだけ昆布が好評だということになる。

このことをアイリーンは知っているのだろうか?
いや、この前の皇都に滞在していた時間はさほど長くはなかったし、知らないはずだ。

「ちょっとすみません」

「おう、らっしゃい!今日はココの干果でいいのが入ってるよ」

情報収集も兼ねて、乾物屋の主人に声を掛けてみる。
するとやはり商売人。
真っ先に今日のおすすめを教えられた。
ココというのが何かは気になるが、それよりもまずは聞きたいことがあった。

「それはまた後で。少し聞きたいんですが、さっきここで騒いでいた人は一体?」

「ありゃあ商人ギルドの人間さ。なんでも、どこぞの貴族が欲しがってるってんで、色々と探し回ってるらしいな。昆布って言ったか?あんなの俺も初めて聞いたが、どこで手に入るんかねぇ」

「ギルドの…。もしかして、他にも昆布を探してる人っていたりしますか?」

「おお、そうなんだよ。俺のとこだけでも、今ので五人目さ。商会の下っ端だったり…貴族の従者ってのもいたっけな」

なるほど、アイリーンがばら撒いた昆布は思いのほか貴族達に刺激を与えたと見える。
昆布と調理法を一緒に教えたと言っていたし、一度味わうと手元の昆布が無くなるとそれを求めて彷徨うことになる。
本当ならアイリーンに昆布を追加で要求したいだろうが、今は皇都にいないので、やむを得ず乾物屋を梯子する人間が出てきたというわけか。

とりあえず聞きたいことは聞けたので、情報料代わりにココの干果とやらを幾らか買い、店の前を離れる。

「結構昆布絡みで色々と人が動いてるっぽいね。こりゃあアイリーンさんが本格的に昆布を売りに出したらちょっとした騒ぎになるんじゃない?あ、これおいし」

パーラはサイドカーへと体を滑り込ませながら、昆布の展望を気にしつつ、すぐにココの干果に意識を奪われたのは仕方がない。
このココというのは棗っぽい見た目のドライフルーツなのだが、指先ほどの大きさしかないくせに噛むと爽やかな酸味とクリームのような濃厚な甘みという、全く未知の味わいを持っている。

少なくとも俺が知る棗とは味が全く違うこれは、バケツ一杯分食えるぐらいに美味いものだ。
ただ惜しむらくは、この味のせいか結構値が張ることか。

ドライフルーツは全般的に高価ではあるのだが、その中でもこのココというのはワンランク上の高級品だと言える。
恐らく特別な嗜好品の扱いなのだろうが、あまり頻繁に買えるものではないのが残念ではある。

嬉しそうな顔でココの干果を齧るパーラに俺の分もくれてやり、再びバイクは大通りを走り抜けていく。
目指すのは皇都にある冒険者ギルドだ。
暫く顔を出していなかったこともあって、久しぶりに依頼を眺めてみようと思ってのことだ。

ギルドの前までやってくると、馬車や馬なんかを停めてあるスペースへとバイクを置き、パーラと共に建物の中へと入っていく。
外観はソーマルガの建築様式に則ったものだが、内装はどこの国のギルドも同じに統一されているおかげで、いつ来ても落ち着く。
実家感とまではいかないが、よく来る喫茶店並みには居心地もいい。

もうじき夕方という時間帯のギルド内は、今日の収穫を手にしてやってきている冒険者達でちょっとした賑わいだ。

「じゃあ掲示板の方へ行くか」

「うん」

アイリーンには戻る日も伝えてあるので、流石に長期間拘束される依頼を受けるのはだめだが、マルステル男爵領への旅の道中でこなせるのがあれば受けてもいいだろう。

「失礼、アンディさんにパーラさんですね?」

「はい?ええ、そうですけど」

歩き出そうとした瞬間を潰された問いかけに振り返ると、そこにはギルド職員の男性が立っていた。
俺達に何か用事だろうか。
まさかギルドからの指名依頼?

「不躾ながら、只今を持ってお二人を拘束させていただきます。抵抗などなさらぬようお願いします」

「拘束…って私達が!?なんで!」

パーラがそう叫ぶと同時に、俺達の周りを屈強な男達が囲んだ。
どうやら彼らが捕縛を任されたようで、武器こそ持っていないが、身に纏う空気は無手でも仕事をこなせるという自信を窺わせる。
ただし、俺とパーラ、二人であれば制圧は容易い程度の腕だが。

しかし妙だな。
何故急に俺達は拘束される?
まさかギルドにとっての問題行動でもあったか?
これでもここしばらくは品行方正な冒険者として生きてきたつもりだ。

(アンディ、どうする?一応目潰し用の砂はそこらにあるけど)

(よせ。ギルド職員が出張ってるんだ。下手したらお尋ね者だ)

拘束という言葉に狼狽しているように見せて、冷静に部屋の隅にどけてある砂に目を付けていたパーラが小声で話してくるが、目の前にいる相手は正規のギルド職員だ。
迂闊に敵対行動をとったら、この場を乗り切れても賞金首に指定されかねない。
平穏な生活を好む俺としては、それだけは避けたい。

「とりあえず抵抗はしませんが、俺達が拘束される理由を教えてもらえますか?」

「それはこちらの指示に従っていただいた後に説明させていただきます」

拘束される理由は拘束した後に説明する、と。
なんだかモヤっとするが、まぁこの反応を見る限りでは重篤な犯罪の匂いはなさそうだ。
まぁ重犯罪者を捕まえるなら問答無用で襲い掛かってきているか。

一先ず話を聞かないことには進みそうにないので、大人しく拘束されることにして、職員に連れられて別室へと向かった。
ちなみに拘束とは言うが、別に手錠を掛けられてというわけではない。
俺達が変に暴れたりしなかったので、せいぜい見張り役が三人ほど付いているぐらいだ。

空いていた部屋へと通され、そこあったテーブルに着いたところで職員からここに至るまでの説明が始まった。




「つまり、俺達はギルドの依頼を受けていない期間が規定を超えたため、強制依頼の対象になったと?」

「はい」

説明によると、俺とパーラはもう長いことギルドを通した冒険者としての活動をしてなかったため、ギルド側が規定する強制依頼が課される状態となっていたために、ああして職員に声を掛けられた。

ギルド側が冒険者に支払われる報酬の一部から個人の税金を代わりに支払っていたという仕組みのため、あまり依頼のこなさない期間が空くと税金未納のような状態が発生するのを防ぐという目的のために、強制依頼というのは発生する。

黒級と違い、白級の俺達はこの空白の期間があっても多少は待ってくれるぐらいの優遇はあるのだが、今回俺達は優遇措置が見逃せないほどに活動がなかったために、こうして拘束される羽目になった、というわけだった。

「理由は分かりましたが、普通、冒険者が強制依頼を課されるのにあんな大袈裟に拘束までされるんですか?」

屈強な男達に囲まれて拘束されるなど、俺達はよっぽど信用がないのだろうか。

「いえ、普通は強制依頼の発生をお伝えするのは、人を遣わせた口頭でのものだけです。ただ、アンディさんはダンガ勲章をお持ちですし、王宮との繋がりも太いため、ギルドの上層部が気を利かせた形となりました」

「気を利かせて、私達はあんな囲まれ方をされたの?」

「白級の冒険者をあまり過度な特別扱いとするのは、ギルドの運営上よろしくないのですよ。アンディさん達は抵抗する可能性もあったという体で、ああした形をとったとご理解ください」

こうして俺達を別室へと案内するために、あんなやり方になったわけか。
正直、黒級と白級はギルドにとって特別扱いするほどの貢献度は薄い。
黄級からが配慮の対処となるのは、冒険者をやっていればよく分かる。

ダンガ勲章を持って王宮にも覚えがいいらしい俺だが、ギルド内の評価では白級でしかない。
そんな俺に、あまり遜った態度で接するのは面子が立たないというか、他の冒険者が邪推するかもしれないという思惑もあってか、先程のような対応になったようだ。

しかし強制依頼か…。
確かに俺とパーラは最近冒険者らしい仕事はしていなかった。
というのも、ジンナ村にはギルドが無く、依頼を受けるということ自体が出来なかったためだ。

長期間、ギルドの支部がない地域へと行く場合、事前に申請しておけばこの手の強制依頼は発生しないのだが、思えば今回は申請をした記憶がない。

今の俺達はアイリーンに請われてジンナ村へと滞在している形なので、もしかしたらグバトリアやハリムなんかの伝手も併せてフルに使えば、この強制依頼はなんとんか免除に持ち込めそうな気はする。
だがそれをすると、俺はソーマルガという国にでかい借りを作ってしまう気がしてならない。
ここは大人しく、強制依頼をチャチャっとこなしてしまうに限る。

「それで俺達に対する強制依頼の内容とは?出来ればすぐに終わるのがいいんですが」

「すぐに終わるかどうかはそちら次第でしょう。こちらをご覧ください」

そう言って差し出された書類を受け取り、その中身を検める。
書かれていることは、まず頭に強制依頼の正当性を説いており、中間あたりから依頼内容についての記述があった。

「荷物の運送ですか。このヌワン村という場所に?」

「ちょっと見せて」

横合いから紙をパーラにかっさらわれたが、それよりも初めて耳にする地名についての情報が欲しい。

「ええ。少し距離はありますが、お二人なら問題ないかと」

「そうですか。…なんというか、思ったよりも楽そうな仕事ですね。強制依頼という名前から、もっときついのが来るかと思ってましたよ」

「とんでもない!我々は冒険者それぞれに適した依頼を斡旋するのが仕事ですよ。もっとも、アンディさん達に任せる仕事の選定には少々議論もありましたがね」

「まさか、俺達に任せられる仕事があまりなかったとか?」

白級のくせにダンガ勲章持ちという、ある種の扱いづらい地位を持つ俺に対して、どんな依頼を振り振るかを悩むのはなんとなく予想できる。

「逆ですよ。お二人は優れた魔術師ですし、独自の移動手段もお持ちです。正直、どんな依頼を任せても問題ないだけに、何を任せるかが悩みどころでした」

強制依頼はギルドが抱えている未消化の依頼を押し付けるという役割もある。
誰も受けたがらない、報酬が安い依頼をいつまでも焦げ付かせていては、ギルドの信用にも関わってくるため、こうした強制依頼にはうってつけだ。

冒険者に課す強制依頼も、ちゃんと適性を見て割り振るだろうが、魔術師として戦闘もこなせて、飛空艇という高速の移動手段もある俺達は、こなせる依頼の種類が妙に広い。
誰でもこなせる依頼よりも、俺達で無ければ遂行できないものをと考えるのは当然だが、そうなるとどれをという話になってくるため、そういう点が悩みどころではあったのだろう。

「で、私達には荷物を届ける依頼ってこと?なんか基準がよく分かんないんね」

書類を読み終えたパーラが会話に参加してきたが、その言葉には頷かざるを得ない。
飛空艇を持っている俺達にしてみれば、荷物運びなど朝飯前だ。
もっと難しい依頼でもおかしくはないと思うが、なぜこんな時間さえかければ誰でもできる依頼が選ばれたのだろうか。

「まぁそう思われるでしょうが、そのヌワン村というのは少々厄介な場所にありまして、飛空艇をお持ちのお二人に任せるのが一番いいという判断です。…ここだけの話、本当はお二人には飛竜の巣を見つけてもらうという話もあったんですが」

「げぇっ勘弁してよ…。飛竜の巣なんて命がいくらあっても足りないよ」

「ええ、当然ながらそういった意見が多かったため、そっちの方は取り下げとなりました」

しかめっ面をしたパーラの言葉に、男も苦笑を零して答えた。

何のために飛竜の巣を探させるのかは分からないが、縄張り意識の強い飛竜に近付くなどゾッとしないな。
前に飛空艇で遭遇した時も、逃げるので精いっぱいという感じだったのだ。
もし巣の探索をやれと言われていたら、俺は躊躇わずに冒険者の地位を捨てて逃げてるね。

「しかし厄介な場所となると、俺達に依頼が回されたという点からも、飛空艇でしか行けないような地形とかでしょうか?」

荷物を運ぶぐらい、時間を掛ければ誰でも出来る依頼だ。
ましてや、ソーマルガは風紋船が縦横無尽に走り回っている土地であるため、移動手段もそれなりにある。
だが俺達にやらせるということは、普通の冒険者が持っていない飛空艇を当て込んでのことだと推測できる。

「お察しの通りです。実はここ最近、ヌワン村の周囲に巨大な流砂が複数発生していまして。発生地点の詳細な特定がまだ済んでいないこともあって、安全な流通が滞っています。お二人にはヌワン村へ公文書や援助物資などを運んでいただきたいと、まぁそういう依頼となります」

「流砂で閉じ込められた村、というわけですか。そのヌワン村に国から飛空艇を派遣してもらうわけにはいかないんですか?」

「要請はしていますが、ほとんどの飛空艇がタラッカ地方に行ったせいで余剰機は無いと言われました」

そう言えばパーティで向かったグバトリアの護衛に、タラッカ地方にほとんどの飛空艇が行っているんだったか。
一応パトロールとかに残っているのもあるだろうが、少ない数の飛空艇は通常通りの運用だけで手一杯なのだろう。

なるほど、これは俺達に依頼を出したのは納得だ。
孤立しかけている村の救援に使えるフリーの飛空艇、それが俺達だったというわけか。

強制依頼という形ではあるが、一つの村が危機にあるとあっては見捨てられない。
パーラも同意してくれるようだし、そのヌワン村の救援依頼、見事俺達が果たしてみせよう。
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