世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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花束を君に

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ジンナ村に戻ってきて五日ほどが経った。
その間、アイリーンの仕事を手伝ったり、ロニが村になじむように色々と案内してやったりと過ごしていた。
最初の内はロニも初めての土地に俺かパーラと一緒に行動を共にしていたが、ここに来た人間に対する通過儀礼のようになっているあの地引網に参加して村の子供達と仲良くなったようで、最近は朝一に村の方へと出ていき、晩まで遊んで帰ってくるという、健全な子供らしく過ごしている。

ロニが同じ年の子供達と遊ぶのはいいことだが、それまでべったりだったロニが親離れをしたような感覚に寂しさを覚えている。
パーラが。

「いやさー、子供は子供と遊ぶのが自然だってのは分かるよ?でもねー」

わざわざ飛空艇にいる俺の所へやってきてぐでんと横になりながら、先程から聞いてもいないことを話し続けるパーラはよっぽど暇なのか。
こっちは久しぶりにまとまった時間が取れたから、前に頼まれた岩塩の加工をやろうとしているというのに、こういう人間が隣にいるだけでテンションが下がって仕方ない。

「お前こんなとこでダラけてていいのかよ?魚醤造りはどうした」

「そっちは今私がやれることはないからねー。ロニは子供同士どっかで遊んでるし、朝から暇でしょーがないんで、アンディで遊ぼうかと思って」

「俺『で』遊ぶってのはどういう意味だおい」

こいつは暇になると途端に思考がバカになるな。

「で、さっきから何やってんの?」

俺の言葉など全く届いた様子もなく、パーラが作業をしている俺の手元を覗き込んでくる。

「…型紙作ってんだよ。岩塩を削るのに必要なんだ」

ここ数日の間にこつこつと作っていた、岩塩を加工する際の設計図ともいえる型紙が数枚、手元にはある。
岩塩で何を作るかを考え、それを実行に移す前にこうして型紙を用意しておくのは、物作りの基本だ。
いきなり岩塩に刃を突きたてるなんて雑な真似はしたくない。

「前に言ってたやつ?そう言えば何作る気?」

「花だよ」

「花ぁ~?…岩塩で?」

そこはかとなく疑わしい調子で言うパーラだが、その反応が間違ったものだとは言わない。
結晶である岩塩から作るとすれば一から削っていくしかないが、花のように繊細で華奢な形状を再現するのは非常に難しい。
職人でもない俺が手を出すのは分不相応だとしか思えないだろう。

「つっても塊から一輪を削り出すってわけじゃない。花弁と茎と葉をそれぞれ別々に削り出して、最後に合体させる」

わざわざ型紙を作っているのも、パーツごとに分けて削り出した後に接合が上手くいかないなんてことが起きないようにするためだ。
本職の彫刻師なら、一塊りから完成形のまま削り出そうとするだろうが、生憎俺は彫刻に関しては素人同然なので、ちょっと小狡い手でいかせてもらう。

「ふーん…何の花?」

「グロリオサ。マルステル家の紋章に描かれる花だ」

「あぁ、そう言えば前にそんなの聞いたっけ」

アイリーンの執務室に飾るなら、やはりマルステル家縁のものをモチーフにしたほうがいいと思ってのチョイスだ。
日本だとグロリオサの花自体は現物を見る機会はあまりないが、こっちの世界だとそれほど珍しい花ではないため、何度か目にしたことはある。

花弁の形が少し独特で、彫刻で再現するのは難しいのだが、そこは削ってくっつけてを繰り返してなんとかしたい。

岩塩は水分と熱で溶解するので、それを利用して切断と接着を行い、パーツごとに分けた部位を過熱と冷却でくっつけて形を整えられるはずだ。

「ねぇアンディ、私もなんか手伝おうか?どうせ暇だし」

「お、そうか。じゃあ頼もうかな。とりあえず塊を何個に割ってみるから、こっちの型紙に合わせられそうなのを見繕って削ってみてくれ。道具はそっちのを使え」

パーラの奴は意外と芸術センスがあるから、手伝ってもらえると助かる。
加工に使える道具はあまり数はないが、パーツごとに分担して使っていけば二人でも回していけるだろう。

型紙をパーラに半分渡し、早速作業に映ることにした。
岩塩で彫刻品を作るのは初めてだが、果たしてどれくらいの時間で完成できるのか。
まぁ完成品のサイズがそれほど大きくないので、今日一日で作ってしまえるかもしれない。
サクッと作って午後からはゆっくり過ごすとするか。

俺、これを完成させたら海に行くんだ…。






ところがそうそううまく事が進まないのが世の常。
午前の内に完成させようと思っていた俺の目論見は今、粉々に砕け散っていた。
床に落ちた岩塩と共に。

「あーぁ、やっちゃったね。やっぱり茎が細すぎるのがまずいんじゃない?」

ついさっきまで茎の形をしてた塩の粉を見て、呆れたように言うパーラだが、その手元には葉っぱを象った岩塩がしっかりと握られている。
パーラの奴は彫刻にも才能を見せているようで、その出来は中々のものだ。

「やっぱそうか。しかしなぁ、茎を太く作ったら全体の大きさが変わってきちまうし、この太さが一番いいんだよ」

型紙で既に全体のバランスを決めているため、強度不足を補うために茎を太くするのにも限界がある。
細いとポキっといくため、太くするしかないが、あんまり太くすると他のパーツとの接合でバランスを欠く。
ままならないものだ。

「んー…あ、そうだ。花束にしたら?」

二人して頭をひねっていると、名案を思い付いたのはパーラだった。

「花束っ、その手があったかぁ…」

思わず感心で唸る声が出てしまった。
俺は花を作るということは、一本で作らなければならないという思い込みがどこかにあったようだ。
パーラの案なら、複数の茎を見えないようにくっつければ強度は確保できるし、葉っぱも繋げて負荷を分散させれば、見た目はいいままに折れにくい花が出来上がるかもしれない。

早速その案を採用して制作に取り掛かったのだが、一本よりも複数本の方が必要な材料と時間が嵩むのは自明の理。
材料である岩塩は大量にあるからいいのだが、いかんせん制作は俺とパーラの二人だけだ。
手間が一気に増えてしまい、結局この日の内に作ることはできず、そればかりか別の日にも丸一日かけ、そのまた別の日に半日かけてようやく完成にこぎつけることが出来た。

「…ようやく完成か」

「長かったねぇ。まさか十日かかるとは思わなかったよ」

「まぁ俺も忙しかったりして結果的に十日経ってるが、実質の製作日数は三日ってとこだろ」

互いにしみじみとした雰囲気でいるが、ぶっちゃけ完成までにかかった手間が半端ないため、肉体的な物以上に精神的な疲労が強い。
出来上がりに満足はしているが、少々凝りすぎて痛い目を見たと反省もしている。

とはいえ、これでアイリーンに献上しても恥ずかしくないものが作れたので、早速執務室へと持っていく。
あと一時間もしたら夕暮れというこの時間は、仕事も粗方片付いて時間に余裕もあるので、お披露目にはちょうどいい。

「失礼します。アイリーンさん、今お時間いいですか?」

「あらアンディ。それにパーラも。どうしましたの?確か今日は休みでしたわね」

執務室へと入った俺達は、首を傾げるアイリーンに出迎えられた。
既に執務机には書類はなく、傍に控えるレジルが手に持っている書類が本日のアイリーンの仕事の成果なのだろう。
これはいい時に来れたか。

「実は以前引き受けた岩塩の加工の件ですが、品物が完成したので持ってきました。よければ品定めをしていただきたいのですが」

「私も手伝ったんだよ」

後ろで例のブツを両手で持ちながら、しっかりと自己主張するパーラだが、そういうのはもうちょっとタイミングを見て言った方がいい。

「もう出来ましたの?てっきりもっとかかるものかと思っていましたけど」

「いや、俺としては十日も待たせたという感覚なんですがね。まぁとにかく見てください」

アイリーンの気の長さは分かったが、それはそれとして完成品を執務机へと乗せる。
サプライズを演出するため、布を被せているが、全体の大きさぐらいは分かる。

「…思ったよりも大きいものですわね」

「予定ではこの半分ほどの大きさだったんですが、色々とあってこの大きさに落ち着きました」

高さは大体40センチほどになるそれは、執務室に飾るにしては結構大きい部類に入る。
本当はもう少し小さくなる予定だったのだが、製作途中に細かく手を入れていった結果、この大きさとなってしまった。

やや困り気味な表情をするレジルとアイリーンは、この大きさのものをどこに置こうかを今から悩んでいるのだろうか。
ざっと室内を見渡した限りでは、他の調度品の配置を調整すれば、スペースの問題はないと思っている。

「じゃあ布を取りますよ。はいっと」

「あらまぁ」

布の下から姿を見せたのは、光を透過してピンク色が淡く発色したグロリオサの花が六輪。
背の高い一本を中心にして、残りが放射状に伸びたそれは、日本における生け花を参考にして俺がレイアウトを決めた逸品だ。

窓から差し込む光を受けて、上を向いて波を打つ花弁自身が輝いているようなそれは、こうして改めて見ても会心の出来だと自負できる。
もしいらないと言われたら、俺が引き取る気でいるぐらいだ。
アイリーンも見た瞬間、熱っぽいため息を吐いたことから、気に入ってもらえたと見える。

「ほう、グロリオサの花ですか。大したものですね」

また、レジルも感心したような声を出しているのは、選んだモチーフが彼女のお眼鏡にかなった証拠だと言える。

「マルステル家を象徴するグロリオサは、分家とはいえアイリーン様に極めて相応しく、マルステル公爵家の縁戚にも愛用する方もいるくらいです。それに岩塩の色、これもグロリオサの花弁を模しているようで、脇に小さいものを添えて見栄えもいい」

急にどうした?

「それにしても、短期間でこれだけのものを用意するのは、超人的な芸術感覚というほかはありません」

まるで解説者のように語り出したレジルは、どこかから何かの電波を受け取っているのかというぐらいに長々とした台詞を言いきり、最後にこちらを見て大きく頷く。
いや、これはどうリアクションをしたらいいんだ?

「レジルはこういった芸術品の評価が好きでしたわね。アンディ、これは素晴らしい品だと言っているんですのよ」

「あ、あぁ、そうでしたか。ありがとうございます…でいいんですかね?」

「ええ。大変結構なものです。十分に誇られるとよろしいでしょう」

アイリーンが補足を入れてくれなければ、俺は引いたままになっていたが、褒められていると分かったら礼を言うべきだろう。
しかしレジルがここまで様子が変わるのを見ると、よっぽど好きなのかと思わされる。
そう言えば昔は貴族の家庭教師をしていたというし、貴族の家にお邪魔した時に芸術品を見て目を養ったのかもしれない。

果たして芸術品を見てきたから好きになったのか、芸術品を見たいから貴族の家に呼ばれる家庭教師を志したのかは分からないが、聞いても特に意味はないのでこの謎は俺の胸の中に収めることにした。

「ねぇねぇ、レジルさんは特にどの辺がいいと思ってるの?」

「そうですね…。こちらの花弁が特に出来がいいようです。恐らくですが、これとこれ、これとここの一部は同じ人が作ったのでしょうね」

「流石~。そこ作ったの私」

審美眼のあるレジルが優れていると指摘したのは、どれもパーラが手掛けた箇所ばかりで、それを聞いてドヤ顔をするパーラがうざい。
そりゃあ俺から見てもパーラのは出来がいいとは思うが、俺のもそう悪いものではないと思っている。
もっと他に褒めるところはあるだろう?
ほら、茎の部分なんか見えない箇所に独自の工夫が散りばめられているんだし。

「まぁ。パーラさんは芸術にも造詣が深いようですね。こちらの花弁の波うちはどのように?」

「あ、それはねー」

そんな俺の内心などは当然伝わることはなく、彫刻談義に熱を上げているパーラ達から距離を置き、俺と同じくやや冷めた顔をしているアイリーンに声を掛ける。

「それでどうでしょう?あれでご満足いただけましたか?」

「ええ、最初に見た時から気に入ってましてよ。それにレジルがああも熱くなったのであれば、執務室に飾るのに十分品格はあると見てよいでしょう」

大丈夫だろうとは思っていたが、それでもこうして本人の口から言われてようやく胸の奥に会った不安の一欠けらが消え去った。
三日かけて作った作品を、ただの塩として処分することが無くなったことに、まずは一安心。

作ったからといって報酬が出るものではなかったが、こうして人に認めてもらえる作品を作るというのはやはりいいものだ。

「ここの広場にさ、アイリーンさんの像を作っちゃえば領主としても箔がつくよ!」

「それは素晴らしいですね。すぐに予算を計上しましょう。その際はパーラさんに制作の方をお願いします」

「任せて!とびっきりのを作って見せるよ!」

いつの間にそんなことになったのか、レジルとパーラは村にアイリーンの像を立てることで盛り上がっている。
目を離していたほんの少しの時間でそこまで話がいっているとは、この手の話で二人をセットにしておくのはよくないな。

「…あんなこと言ってますけど、いいんですか?」

「いいわけがないでしょう。二人共、そこまでです」

よく権力者は自分の銅像を作りがちだが、ああいうのは成り上がりの自己満足野郎が考えつくていどのものだ。
優れた為政者は、銅像を建てての張りぼての権威を示したりはしない。
アイリーンの性格からしたら到底認められるものではないのだろう。

どこまでもヒートアップしていきそうだった二人にそう声を掛けると、それで少しだけ冷静になったのか、どこかバツの悪そうな顔を浮かべるレジルとパーラに、まずは一安心だ。

パーラのお土産から始まった岩塩の調度品化は見事に成功し、この日からアイリーンの執務室の一角を飾ることになる。
岩塩を使った珍しいインテリアということで、アイリーンの下を尋ねてくる客はそれを見て感嘆の息を吐いて帰っていくというのが、アイリーンの密かな自慢となっていった。

後にアイリーンのところにやってきた父親であるジャンジールがこの岩塩で出来たグロリオサの花の彫刻に惚れ込み、俺とパーラに同じものを作るように恫か…依頼してくるのだが、それが語られるかどうか神の味噌汁というやつだ。
…神のみぞ知るだったか?まぁ同じようなもんだな。



岩塩で作ったグロリオサの置物をアイリーンに納品してから四日後、アイリーンが上機嫌の内に強請り取った休暇を消費して、俺は朝から飛空艇の貨物室で床に座り込んで唸っていた。

目の前に置かれたメカメカしい物体、高さと幅が共に一メートルほどのそれは、皇都を出発する際にダリアから受け取った例の低出力動力だ。
いつまでも箱にしまっておくのも勿体ないので、この際これでなんか面白いものを作ってしまおうと考え、昨夜から色々と考えながら今日の朝を迎えてしまった。

これを使って何を作るかと言えば、やはり乗り物しか思いつかないのだが、どんな乗り物にするかを悩みっぱなしでそろそろ頭が茹ってきている。

飛空艇のパーツとして製造されたのだからこれで飛空艇を作るのがいいのは分かるのだが、動力部だけあっても飛空艇というのは完成しない。
かといってこれを俺の飛空艇に強化パーツとして取り付けるには、性能が低すぎて効果は期待できない。

となると飛空艇以外で別の乗り物として候補にあるのは、モーターボートだろう。
ちょうどここは海辺の村だし、動力付きの船があれば色々と動かしがいもある。

一応手元には同梱されていた説明書もあり、ざっと読んだ感じで大体の完成イメージは出来ている。
作るのは船外機を取りつけた小舟程度のものでいい。
あんまり複雑なものを作るには手元の材料が少なすぎるので、まずはこの動力部を加工して船外機に作り変えるところからだな。

「アンディ?レジルさんが朝食が片付かないから早く来いって」

早速作業に取り掛かろうとしたところ、背後からロニが声を掛けてきた。
そう言えば朝食もまだだったか。

「ああ、すまん。今行くよ」

「あれ、何か作ってるの?わ、なにこれ!」

立ち上がった俺の脇をすり抜け、床に置かれた動力部に駆け寄っていくロニは、やはり男の子だけあってこういうメカメカしいものには目を輝かせていた。

「そいつは動力部っていって、まぁ飛空艇を動かしている大本みたいなもんだ」

「へぇー…こんな小さいのに?」

「いや、それは特に小さいやつだ。ここの飛空艇に積んであるのはもっとでかくて複雑なもんだから、それに比べたら大分力も小さい」

好奇心に鼻息を荒くしながら、恐々とした手つきで動力に触るロニに、これがどういうものかを簡単に説明してやる。
子供のなぜなにに応えてやるのは大人の大事な仕事だ。
知りたいと意欲を見せているのなら、教えられるだけ教えてやるべきだろう。

「もしかしてこれで空は飛べない?」

「浮かぶだけならできるさ。けど、そこから移動したりとかはこれ一つじゃ難しいな」

元々この低出力動力器というのは、用途を絞って製造することで、手間やコストを抑えて量産できるようになっているため、単品で出来ることというのはあまり多くない。
ただ、俺のように何かしらの用途で欲しい人間というのはもしかしたらいるかもしれないので、可能であれば民生化へ向かうようになってほしいとは思っている。

「じゃあこれは何になるの?」

「まぁ空を飛ばない乗り物になる予定だな、今のところは。…そうだ、ロニ。お前暇なら一緒にやってみないか?俺とお前で、こいつを使った新しい乗り物を作るんだよ」

そう切り出したのはただの思い付きだ。
よくアメリカの映画なんかだと父親と子供が一緒に車を組み立てるなんてシチュエーションがあるのだが、ふとロニともそういう時間を過ごしてみようと思って言いだしたに過ぎない。
断られたらそれでも構わない。
どうせ一人でやるつもりだったのだし。

「…面白そう!僕、やってみたい!」

だが予想に反して、ロニの食いつきはすこぶるいい。
子供特有の未知への好奇心が勝ったのか、飛空艇の動力を使って作る新しいものに対してのワクワクが込められたいい笑顔だ。

「よし、なら…午後だな。午後になったらまたここに来い。それまでは村の子達と遊んでろ」

「午後?これからやるのはだめなの?」

「色々と準備があるんだよ。材料も集めなきゃならんし、午後からの方が都合もいい」

とりあえず必要なのは船としての形を作る船体だ。
これは村の方で使わなくなった船なんかを手に入れられればいいが、なければないでどこかから調達するか、自分で一から作るかを考えている。

更には船体に動力を固定するためのブラケットやなんかも用意しなくてはならない。
まぁこれはバイクの補修パーツなんかに余剰があるので、それを使うつもりだが、出来ればこの村で手に入る素材で固めたいと思っている。
特に深い意味はないが、メイドイン・マルステル男爵領というブランドがなんとなくカッコいい気がしてのことだ。

「わかった!じゃあ午後にまた来るよ」

「おう」

友達と遊ぶ約束を既にしていたのか、貨物室のハッチを開けて元気いっぱいで出ていくロニを見送sと同時に、

―グルォロローン…

盛大な雄たけびが辺りに響き渡った。
集中していたせいで忘れていた空腹感が今になって騒ぎ出し、それに後押しされた足をそのまま食堂へと向ける。

さて、今日の朝食はなんだろうか。
昨日の朝は貝と雑穀を使ったリゾットがうまかったが、またあれだと嬉しいな。

―ギュルゥ

「そうかそうか、お前もそう思うか」

俺の考えに同意するように鳴いた腹の虫を宥めつつ、今日のメニューへと思いを巡らせる。
この頃思うようになったが、自分以外の人が作った飯を食えるというのは、実は相当な贅沢だ。
俺とパーラだとまず料理をするのは俺なので、これまで気にしていなかったのだが、朝起きて朝食が用意されていることのなんと幸福なことよ。

最早叶わないことではあるが、今は遠いどこかにいる母親に感謝を捧げたい。

―グゥグゥグー

…わかったよ、今行くから。

それとこれも最近思ったのだが、どうやら俺の腹の虫は意思を持っているのではないかと疑っている。
問いかけるとかなりの高確率で返事が返ってくるし、今も急かしてくるため、妖精の一種だと言われたら納得してしまいそうだ。

異世界では腹の虫まで異なっているのだな。
まだまだ不思議が多い世界だ。
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