世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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パーラ来襲

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 SIDE:アイリーン


 今日も朝から机に向かって書類を捌く日々。
 父の仕事を見て分かっていたとはいえ、領主の仕事というのは想像以上に書類を片付ける能力を必要としているようです。

 私は人よりもこの手の書類仕事を苦手としない質だと自負していましたが、それもここに来てからは返上したほうがよさそうだと思いだしています。

 ソーマルガ皇国の貴族としては下位に属する男爵、それも成り上がりに等しい新人領主の手元には使える人材もほとんどありません。
 実家から借りていた人材もほとんどが帰ってしまった今、領内の細々としたものにも自ら裁可を下さなくてはならず、必然的に机から離れられない生活を強いられてしまっていました。

 レジルが来てからは書類仕事での私の負担も減ったとはいえ、まだまだ机に拘束される時間は長いと言わざるを得ません。

「失礼します、アイリーン様」

 自分で死んだ目と自覚できる程度の無表情で書類を眺めていると、レジルが執務室へやってきました。

「あら、レジル?今日は早いですわね」

 レジルがこちらの手伝いに来るのはもう少し後だと思いましたけど。
 使用人の監督仕事が早く切り上げられたのでしょうか。
 最近は使用人を怒るレジルの声もめっきり聴かなくなりましたし、使用人も順調に育っていますのね。

「いえ、私はまたすぐに戻らなければなりませんので。それより、パーラさんがお越しです」

「パーラが?では遺跡探索から帰ってきましたの?」

 そういえば、アンディ達が遺跡探索にと出かけてもう随分経ちましたわね。
 最初は南の方に遺跡があるとか、一体どこで聞いてきたのかと眉をひそめてしまいましたけど、今では自由に動けない私と違って、身軽に飛び回れるその時の二人を羨んだものです。

 まあ戦力として当てにしているアンディにいなくなられるのは困る、という思いもありましたけど。

 遺跡の探索と調査にふた月はかかるとアンディは言っていましたし、何度かは補給に戻ってくるかもとは聞いていました。
 今回パーラは補給で戻って来たのかもしれませんわね。

 すぐにパーラを執務室へと招き入れ、まず無事な姿を見て安堵の息が漏れました。
 二人ならば早々怪我などしないとは思っていましたけど、それでも陸地の存在しないと思われる海のど真ん中へ赴いて、何もないとは限りません。

「お久しぶり、アイリーンさん。元気だった?」

「それはこちらの台詞ですわよ。怪我の心配はしていませんでしたけど、病気なども患ってませんわよね?」

「まあね。私もアンディも怪我どころか病気にもかかってないよ」

 ソファへと場所を変え、向かい合って座りながらお互いの健康などを確かめあうと、明るい調子のパーラに、探索も順調に進んでいるのだろうと推測できました。

 使用人を呼び、お茶の用意をさせながら、パーラがここにきた理由をまずは尋ねてみることに。

「それで今日はどうしましたの?というか、あなた一人?アンディは一緒ではありませんの?」

「アンディとはちょっと別行動。私だけ飛空艇で先行してきたんだ」

「そうでしたか。となると補給に?」

 アンディは魔術で海水から真水を作り出せるそうですが、食料の方は飛空艇に積んでいくものです。
 一応、魚を獲って食料にすることはできるでしょうが、それだけではあのアンディが満足するはずがありません。
 あの子、食事にはうるさいですし。

「いや、とりあえず今は補給はいらないよ」

「いらない?もうここを離れてかなり経ちますけど、まだ余裕がありますの?」

 多少の誤差はあれど、アンディ達がジンナ村で買い集めた量を考えると、まだしばらくは持ちそうですが、それでも余裕があるとは言えないはずですわね。

「そうだねぇ、余裕はまだある方かな?私達、結構魚ばっか食べてたし。まあそれはともかくとして、今日来たのはアイリーンさんにお願いがあったからなんだよ」

「お願い?」

「そう。ここの領主であるマルステル男爵様に、お願いがね」

 わざわざ爵位で呼ぶということは、貴族である私でなくては叶えられない願いということでしょう。
 なんだかこういう頼まれ方をされて、面倒事が起きなかったことがないような…。
 特にアンディが絡むと、何かと事態も大きくなりますし、果たして聞き届けていいものやら。

「…内容にもよりますわね。先に言っておきますけど、私の領に危険が及ぶようなことであれば、到底聞けませんわよ」

 アンディとパーラは私の大事な友人ではありますが、今の私は大勢の領民と国より与った土地を抱える身。
 それらが危険に晒されるようであれば、たとえ友人の願いであろうとつっぱねるつもりです。
 …まぁ、それなりに付き合いも長いですし、多少は無理を聞いてもいいとは思っていますけど。

「だいじょぶだいじょぶ。危ないことはないから……(多分)」

「多分というのはちゃんと聞こえてましてよ」

「…いや正直、完全に危険がないとは言えないんだよね。私は大丈夫だとは思うよ?けど古代文明の遺物ってなにがあるか分からないしさぁ」

「遺物…ということは、見つけましたのね?」

 遺物という言葉を口にしたのなら、遺跡を見つけてそこで収穫があったということでしょう。
 本当に遺跡があったということに内心で驚愕しつつ、手に入れた遺物がどういった物か気になりますわね。

「ばっちり。それでね、その遺物をこっちに持ってくるから場所を貸して欲しいんだよ」

「あら、その言いようからして、遺物は相当な大きさのようですわね。それとも量があるのかしら?まぁ場所を貸すぐらいは構いませんけど、どれほどの広さが必要でして?」

 恐らく飛空艇に積んでくるとして、わざわざ土地を貸して欲しいという以上、少し物を置く場所というわけでもないでしょう。
 それなりの広さを手配する必要がありますわね。

「広さって言うか…海岸線をちょっと間借りするって形になるのかな?私達が手に入れた遺物って、船なんだよ。それも結構大きいやつ」

「船…ですの?海の真ん中にある遺跡ですから、船があってもおかしくはないでしょうけど。でも大きい船ですか…。どれほどの大きさかはわかりませんけど、ジンナ村は遠浅の地形ですから、あまり大きい船は停泊できませんわよ?むしろ、二の村の方が大きい船は停泊に向いていますから、そちらにしてはいかが?」

 大きな船と言われ、頭に浮かぶのはやはり風紋船でしょう。
 風紋船も遺跡から発掘されたものが元になっていることから、同じ遺跡から見つかった船となれば、あの大きさを想像するのもおかしくはありません。

 スワラッド商国がよく使う帆船も大体風紋船に近い大きさであることから、ジンナ村よりも二の村の方が停泊には向いているはずです。

「あー…うん、それはダメ。アンディがさ、二の村にはいい思い出がないから、もしそっちを勧められたら断れって」

 そう言えば、アンディはあそこの村長の息子、イーライと揉めてましたわね。
 とっくに気にしないようになっていたと思っていましたが、こういう時に出してくるぐらいにはまだしこりを抱えているのかもしれません。

「はぁ~…わかりましたわ。それで船の大きさはどれぐらいになりますの?風紋船ぐらい?」

「んー、風紋船よりはもうちょっと大きいね。大体長さが100メートルはあるし」

「ひゃくめっ!?……ず、随分大きいですわね」

 サラッとパーラの口から飛び出てきた数字に、一瞬大声になりそうだったものを堪え、なんとか冷静に言葉を返せたと思います。

「あはは…やっぱ驚くよね。私達もあの船の大きさには驚いたもん。あ、でもソーマルガ号はもっと大きいから、それに比べたらそうでもない?」

「いえ、比べる対象が間違っていますわ。ソーマルガ号は大きさも性能も別格の存在でしょう。…まさか、その見つけた船も飛べますの?」

 パーラがソーマルガ号を突然引き合いに出してきたのは、もしかしてその船にも飛行能力があるからでしょうか。
 だとすれば、ソーマルガ号ほどではないにしろ、巨大な空飛ぶ船がアンディ達の物になりますわね。
 個人で高性能な飛空艇を保有しているのでさえ破格だというのに、そこに巨大飛空艇がさらに加わるとなれば…。

「ううん、見つけたのは本当に普通の船。…まあ古代文明の遺物の時点で普通とは言えないけど、でも船と聞いて想像するとおりの、水の上を浮かんで移動するあれだよ」

 それを聞いて、思わず安堵の息が漏れました。
 ただの水に浮かぶだけの船ということであれば、アンディ達が保有することで騒ぐ貴族もそう多くはないはず。

「しかし長さ100メートルということは、幅と高さも相応にあるのでしょう?」

「幅は20メートルぐらいだね。高さは…30メートルいくかな?」

「ふむ、では湾内へは進入できませんわね」

 遠浅の地形が広がる湾内は、特に深いところでも10メートルはないはずですから、それだけの巨体だと海底のどこかに船体が引っかかりかねません。
 やはり二の村にまわってもらった方がいいとは思うのですが、アンディがそれをいやがっているのなら仕方ありません。

「分かりました。湾の外に繋がる浮き桟橋を手配しましょう。こちらに到着する日付などは分かってますの?」

「あ、うん。早ければ七日ぐらいでこれるそうだけど、念のために十日ぐらいでみておいて欲しいってさ」

 船に乗ってやってくる以上、海流や風の影響からは免れ得ないものです。
 どれだけ遠くにいるのかは分かりませんが、三日のズレは十分あり得るでしょう。

「そうですか。それぐらいであれば浮き桟橋の準備も余裕をもって行えますわね」

 ジンナ村にも、喫水の深い船がやってきた時のための浮桟橋はありますが、活用の機会があまり多くないため、普段は陸に揚げて倉庫に保管していたと記憶しています。
 アンディがこちらに到着するまでは日にちも余裕がありますし、点検をしてから海に浮かべましょうか。
 大型船とはいえ、なら浮桟橋も一つでいいでしょう。

 パーラから私に伝えることは以上となり、あとはアンディの到着を持つだけとなります。
 この後はパーラもジンナ村に滞在するそうで、もし十日が過ぎてもアンディが村に来ない場合は、飛空艇で探しに行く手はずとなっているそうです。

「ところでパーラ、今日はこの後はゆっくりできますの?」

 話を終えて一息つくと、沸き上がる好奇心を抑えるのにも我慢の限界を覚え、そろそろパーラにあのことを聞くべく語り掛けます。

「特に何か用事はないね。あぁ、でもロニの様子は見たいかな。それ以外は暇っちゃあ暇」

「この時間だと、ロニは村の子供達と遊んでいる頃でしょう。昼には帰ってきますから、その時に話をなさい。それよりも、あなた達が見つけた遺跡のことを私に話して下さらない?実は先程からそのことを聞きたくて、うずうずしてましたのよ」

 私もソーマルガの人間です。
 遺跡の話には特に興味は持っていますし、領主としての仕事で色々と溜まっているものもあります。
 今は流石に軽々しく遺跡調査に出向ける立場ではないので、せめてこうして遺跡発掘の話を聞くことでたまったものを発散させたいものです。

「それぐらい、お安い御用だよ。じゃあ何から話したら……んーと、今回私達が見つけた遺跡ってさ、実は大昔に海中に沈んだ軍の基地だったんだけど、なんとそこで巨大な―」

 テーブルの上に上らんばかりに身振りを激しくして説明を始めるパーラに、私もその場にいるかのような想像をしながら話を聞いていきます。
 本当ならこの後は書類仕事をしなければならないのですが、パーラの話を聞くために私は執務机から目を逸らしましょう。
 後でレジルに小言を貰うとしても、明日に忙しさが上乗せされるとしても、今はパーラが語る遺跡の浪漫を感じていたいのです。







「―でね、そのヘイムダルが言うには、小さな足場…って言ってもそれ一個も十分大きいんだけど、そういう足場を何百何千って繋げて浮かべて、人工の島にしてたんだって」

「凄いですわねぇ。流石は古代文明、今の私達に出来ないことを平然とやってのけるなんて」

 そこに痺れ、憧れますわ。

 人の手で島を作って海に浮かべるというのにも驚きましたが、意思を持つ船という存在もまた驚きです。
 そう言えば、飛空艇には操縦者を補佐する機能があるそうですが、その発展した先がその人工知能とも考えられますわね。

「失礼します。アイリーン様、昼食のご用意ができました」

 まだまだ聞きたいことは山とありましたが、使用人の言葉にそれまで興奮で忘れていた空腹が首をもたげ始めました。
 対面を見ると、昼食という言葉に目を輝かせているパーラがの姿もあり、思わず笑みがこぼれました。
 昼食を抜いて話を続けるのはパーラには酷でしょうね。

「わかりました。あぁ、パーラの分も用意していますわよね?」

「はい。侍従長からそのように指示されていましたので」

「結構」

 流石はレジルですわね。
 何も言わなくてもパーラの分もちゃんと手配してくれていたようです。

「パーラ、話しは一旦終わりにして昼食としましょう。ロニも帰ってきますし、午後はあなた達でゆっくりお過ごしなさい」

「あぁうん、そうさせてもらうよ。いやぁ、それにしても長い時間話すだけでお腹は減るもんだねぇ」

 お腹をさすりながらトロンとした目をするパーラは、ここにいた時はいつもよく見ていた姿です。
 しみじみと言ってはいますが、別に長時間の話に関わらず、パーラのお腹は食事には敏感でしょうに。

 食堂へと移動すると、そこには既にロニの姿があり、今日の昼食を静かに口へ運んでいます。
 扉を潜って姿を見せた私達に、ロニは食事の手を止めて立ち上がりました。

「あ、パーラ!おかえり!」

「ただいま、ロニ。いい子にしてた?」

 サーっとパーラへと駆け寄って抱き着く姿は、まるで姉弟のようで微笑ましさを覚えます。

 アンディ達がいない間、私もロニとはよく話はしていましたが、それでも男爵という身分が間にあったせいで、あまり距離を縮められたとは言えません。
 歳の割には敏い子ですし、境遇もあってどこか遠慮がちでもありました。
 使用人達とは交流もあったらしいのですが、それでもやはりアンディ達と同じようにとはならなかったそうです。

 こうしてパーラと笑顔で抱き合う姿を見ると、アンディ達との絆がよく分かります。
 村の子供達と遊んでいる姿を見た時も歳相応の無邪気さは感じましたが、今のロニが浮かべる表情には肉親に向ける親愛に近いものが感じられます。

 二人が抱擁を解き、揃ってテーブルに着くのを見届け、私も自分の席へ。
 それを見計らって運ばれてくる食事は、いつも食べているものと同じものです。

「パーラ、遺跡の調査は終わったの?」

「うん、終わったよ」

 食べながらパーラに話しかけるロニは、口にものを入れたままで少々行儀はよろしくありません。
 ですが、普段なら行儀が悪いと怒るレジルも、今日ばかりはそれを咎めず黙って控えていました。
 レジルも久しぶりの再会に喜ぶ子供を叱って、場の空気を悪くするような無粋な人間ではないのです。

「じゃあアンディはどこ?僕、アンディに聞きたいことがあるんだけど」

「アンディはちょっと別で動いてるんだ。今こっちに戻ってきてるところだから、もうしばらくしたら会えるよ。聞きたいことって何?ほら、お姉さんに言ってみなよ」

「うーん、パーラでもいいのかな。アンディと一緒に作ったあの魔道具の舟のことなんだけど―」

「アンディに聞こう」

 お姉さんぶってロニに頼ってもらおうとした矢先、すぐに視線を逸らして誤魔化す姿に、私は思わず吹き出しそうになります。

 ロニもジトリとした目を向けている辺り、パーラのこの反応は十分予想できていたのでしょう。
 暫くパーラを見つめてから、食事を再開させていました。

 パーラもバツの悪そうな顔をしていましたが、殊更明るい声で食事を美味しいと話す姿は可愛らしいものですわ。
 普段と同じ食事のはずなのですが、いつもよりも味が鮮明に分かるのは、きっとパーラが加わったからなのでしょうね。

「あ、そうだ。ロニは午後からは何をするつもりなの?」

「んー、午後は舟の具合を見てこようかと思ってたけど…。でもパーラが帰ってきたなら遺跡の話を聞きたいな」

「遺跡のことならいくらでも話してあげるけど、舟の様子を見るってあの魔道具のやつ?なに、壊れたの?」

 パーラがロニではなく、私に視線を向けてきたのは、借りている立場にある私達がアンディ達の財産を壊したことについての疑いからでしょう。
 まあ後ろ暗いことは何もないので、普通に答えすけど。

「壊してません。あの舟は暫く村の管理で扱うことが決まりましたけど、乗っている最中に不具合などがあっては困るでしょう?ですから、今いる人間であれを一番理解しているロニには、何も問題が起きていなくても、時々船の調子を見てもらうことにしてますの」

 実際、ここ何日かで船に発生した不具合には、ロニが少し手を加えて解消されたものも多く、その働きは決して小さいものではありません。
 あくまでもロニには暇なときでいいということで頼んでいますが、律儀にも二日おきには舟の様子を見に行く姿に、村の大人達は感心しているようでした。

「へぇ~、いい仕事してるんだ。ロニ、やるねぇ」

「えへへ」

 グリグリとロニの頭を撫でるパーラの顔は、誇らしさが混じった笑みが浮かんでいます。
 ロニもくすぐったそうにされるがままにしている様子は、本当に仲のいい姉弟ですわね。

「んじゃ午後はロニにお話をしてあげるよ。アイリーンさんも一緒にどう?」

「是非、と言いたいところですが、仕事がありますから私は夜にでもお願いしますわ」

 パーラから聞かせてもらった話は非常に面白く、切り上げ処を無くして午前の仕事を丸々放置してしまっています。
 話の続きを夜にでも聞くために、午後だけで一日の仕事を終わらせなければなりません。

 それに、ロニに話すのは恐らく私にしたのと同じ内容になるはずなので、もう一度聞く必要はあまりないでしょう。
 それに、夜に楽しみがあるというのも、仕事へ臨む気概を育んでくれるというものです。

「そっかー、午後は私達だけか。…そうだ。ロニ、友達で遺跡の話に興味ある子っている?いたら連れてきなよ。その子にも聞かせてあげる」

「いいの?きっといると思うから連れてくるよ」

「うん。ジャンジャン連れてきなさい」

 パーラもアンディも、この村の子供達には人気がありますし、きっと大勢駆け付けますわね。

「それなら庭を使ったらいかが?日よけの布を用意しておきますから、そこで話を聞かせておあげなさいな」

 村の子供も決して少ない数ではありませんし、それなりに広い場所を用意してあげたほうがいいでしょう。
 今日は気温もそれほど高くなく涼しい方ですし、庭の日よけで作った日陰でも十分過ごしやすいはずです。
 それに屋敷の庭なら、アンディがよく子供達にマンドリンを聞かせていましたし、集まるのに迷うこともありません。

「助かるよ、アイリーンさん。ロニ、昼を食べ終わったら村の子達に声かけてきてね」

「わかった」

 顔を見合わせて、大きく頷いたパーラとロニは、そこから急いで昼食を食べ終え、食堂を飛び出していきました。
 ロニは分かりますが、パーラは何を急いでいるのやら…。

「レジル、庭に日よけの用意を」

「畏まりました」

 まだ残る私の分の昼食を突きながら、傍に控えるレジルに手配を頼みます。
 パーラなら日よけの布を手渡してしまえば、勝手に自分でやるのでしょうが、言いだしたのが私である以上、用意してあげるのが筋というものです。

 それにしても…と、食事の手を止めて考えるのは、アンディが持ってくるという船についてです。
 かなりの大きさだということに加え、現存するどの船とも異なる高い技術が詰まっているそれは、まず間違いなく飛空艇に次ぐ近年稀にみる大発見でしょう。

 パーラは停泊場所の提供だけしか口にしてませんでしたが、これは船を調べる研究者を要請するべきですわね。
 それに、新しい遺物の出現は臨時収入になる気がします。

 なにせ100メートルを超える船です。
 ソーマルガ号ほどではないにしろ、見たことも無い巨大船というのはいい観光資源になります。
 折角停泊場所を提供するのだし、三の村に人をやって観光客を呼び寄せるようにしましょう。

 そうとなれば、書類仕事を早々に片付けて、各所への伝達を始めなくては。
 はしたないとは思いつつ、目の前にある皿を煽るようにして一気に食べて、私は執務室へと急ぎ足で向かいました。






 書類仕事が一段落し、追加で増えた仕事もある程度消化した頃、私は庭へ顔を出してみることにしました。
 少し前から人の気配が多く感じられ、どうやらパーラの話を聞きに多くの子供達が来たようです。

 玄関口を抜け、庭の方へと向かうと、そこには少々予想とは違う光景が広がっていました。
 布を張って日陰を作っている中、パーラを半円に囲むようにいる大勢の人間は、どうも子供だけではなく大人も混じっています。

 確かパーラはロニに子供達を呼ばせたと思っていましたが、大人も集まっていますわね。
 まあ今ぐらいになると手が空く大人もいますから、恐らくそういう人達が子供を追ってやってきたのでしょう。
 そう思っていると、パーラが目の前に置かれた木箱をバンバンと小気味よく叩いて大声を張り上げます。

「さあ現れましたるは巨大なウツボ!その口は飛空艇を飲み込まんとするまでに巨大だ!太く長く、しかし力強い巨体はおぞましくも脅威!睨まれた飛空艇は哀れ、海の藻屑に……ところがそうはならない!」

 興奮した口調からしんみりと、しかしすぐにまた熱い調子に戻りながらバンバンと木箱を叩くパーラ。

 …一体あの子は何をしてますの?

 おかしな語り口ですが、妙に惹きつけられるものを感じますわね。
 居合わせる大人も子供も、固唾を飲んで聞き入っている様子から、どうやら大分夢中にさせているようです。
 人が多いからああいうやり方を採ったのかもしれません。

 それにしても、午前の私との時はやらなかったあの話し方、多分アンディの仕業でしょうね。
 ああいうおかしなことをパーラがやる時、必ずと言っていいほどアンディが仕込んでいます。

 それなりに付き合いもある二人ですが、よく騒動を起こすのがパーラのように思えますけど、あくまでもパーラは行動力の化身であって、元を辿るとアンディが吹き込んだ何かしらが原因となっています。
 今回も恐らくアンディから聞いていたやり方を、パーラなりに実践しているのでしょう。

 まあ奇妙なことをしてはいますが、別に悪いことをしているわけではないので咎めることはしませんが、とにかくうるさくてかないません。
 多分、後でレジルから小言をもらうかもしれません。
 仕事に戻ろうと、踵を返した私の背中にパーラの声がぶつけられます。

「飛空艇に噛みついた巨大ウツボ!しかしその時!素早く飛空艇を翻しビューン、バッ!くるりと回りながら目指すは遠く広がる青空へ!」

 バンバンとまたしても木箱を叩く音が聞こえて、一瞬振り向きそうになりますが、音が聞こえるたびに足を止めていてはキリがないので、無視してそのまま屋敷へと入ります。

 …まさか夜に話の続きをするときもあれをやるわけではありませんわよね?

 そんな不安が一瞬過りましたが、まさか無いだろうと自分を説得し、執務室で待つ仕事へと頭を切り替えましょう。



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