世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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帰還とは元いた場所へと戻っていくことである

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探索で得た物の分配が終わり、今日一日ここで泊まって、明日の朝に町へと帰るという案で全員一致となった。
増えた荷物の置き場としてもう一棟建物を建てて倉庫として使う。
こちらは居住性を考える必要が無いので、かまくら型のものにした。
オーゼルは早速家の中へと入り、見つけた服を試着したりするらしく、しばらく俺はシペアの魔術を見てやることになった。

「それじゃあどこまでやれるようになったか見せてもらおうか」
そうは言ったが、正直半日も経っていないうちに練習の成果を見せろと言うのも中々乱暴なことだと思うが、俺の教えたのは感覚的な物が多いため、短時間でシペアがどれだけモノに出来ているのか気になるのだ。
「おう、んじゃやるぜ。ムぅ…ンン」
右手をこちらに突き出し目を閉じて力を込め始めたのと同時に、シペアの掌に水が集まるのが確認できた。
魔力からの変換生成ではなく、空気中から水分を集めるやり方はもうすっかり出来ているようで、すぐに野球ボール大の水球が現れる。

ユックリと目を開けて水球の形を確認して安堵するシペアだが、すぐに顔を引き締めて次に圧縮を行い、見事に野球ボールからピンポン玉ぐらいにまで圧縮させることに成功していた。
圧縮状態を維持するのにまだ慣れていないようで、険しい顔のまま集中するシペアの姿に俺は驚きを隠せないでいる。
水を圧縮するという日常生活ではありえないことを感覚で理解し、半日ほどの練習でここまで出来るようなるものだろうか。
純粋にシペアの才能だとしたら、ひょっとしたらこいつは凄い奴なのではないかと思えてくる。

そんなことを考えている内にシペアが圧縮状態を安定させた水球を的と定めた5メートル先にある岩に向けて飛ばす。
まだまだ速度は出せないようで、自転車ぐらいの速度で飛んでいったそれが岩にぶつかると、パンという本来水が立てるとは思えない音と共に弾け、水にぬれた岩だけが残された。
「はぁ~…、こんな感じだ。これ以上水球を大きくすると圧縮が難しいからこの大きさが今の俺の限界」
精神的な疲れからか、地面にへたり込んでしまったシペアから聞かされたのはそんな言葉だった。
「上出来だ。あとは何度も練習してけばいい」

どうにもシペアは俺が見せた立ち木を折った水魔術を基準に考えているようだが、このペースで成長していけばすぐに強力な魔術を使えるようになるだろう。
元々水魔術は戦闘にはあまり向かない物なので、補助や日常生活で使うことを目指すべきなのだろうが、俺が教えるとどうしても効率と威力が優先されてしまうため、こうなるのも仕方ないか。

その後は水魔術のちょっとした便利な使い方として、水球内に流れを作った洗濯魔術や霧状の水で周囲の温度を下げるミストシャワー等といったものを実演し、シペアに水魔術の可能性を教えていく。
洗濯魔術はさほど感動されなかったが、ミストシャワーには驚くほど食い付き、原理とやり方を教えた所、早速練習をしだした。

この辺り一帯の安定した気候のおかげで寒さはそれほど酷くならないのだが、夏には気温がかなり高くなることがある。
それを想定してシペアはこのミストシャワーに価値を見出したようだった。
水の圧縮に比べて霧状にするのは比較的難しいものではないので、ここまで習熟が進んだシペアならそれほど時間がかからずモノに出来るかもしれない。
2、3助言を与えた後はシペア自身が試行錯誤で身に着ける技術なので、ただ大人しく見守るしかない。

俺達が魔術の練習をしているのに気付いたオーゼルが途中から見ていたのだが、シペアが一人練習に入ったのを確認してから、俺の方に指南をお願いしてきたので少し相談に乗ることにした。
まずは今の段階でどれだけの火が生み出せるのかを見せてもらおうか。

「では、いきますわよ」
オーゼルの差し出した右手の人差し指に火が生み出される。
ちょっと強めのライターの火といった感じだが、ここからどう進歩させるのかを考えることが必要だ。
とりあえず既に話してある可燃性の気体のことはオーゼルも理解できているようで、その辺りを意識して火の勢いをコントロールさせてみた。
「空気中にある可燃性の気体を選別しながら火に送り込んで、その勢いに魔力を混ぜ込む感じで…いい感じですね。そのまま火を大きくするのを考えて下さい」

酸素の供給が増大し始めたようで、火の勢いがどんどん大きくなっていき、人差し指から始まった火の位置は今では掌に載せる形になっている。。
もう先程のライターからキャンプファイアーに使えそうなぐらいに巨大化した火は、まだオーゼルのコントロール下にあるため、オーゼル本人に害が及ぶことは無い。
「これが限界ですわね。感覚的に、これ以上大きく出来そうにはありませんわ」
「なら消してください。大まかな火魔術の規模は分かりましたから」
オーゼルが右手に載っている火をかき消すように腕を振るうと一瞬で溶けるように火が消えたのは面白い光景だった。

「今度は爆発する気体を利用しましょう。非常に危険なので、絶対に自分の近くでは使わないこと、いいですね?」
次にオーゼルに覚えさせるのは水素を使った爆発を起こすことだ。
少量ではあるが大気中に存在する水素を利用するのは簡単なことだとは思えず、事実オーゼルも爆発する気体という物を理解出来そうにない。

そこで再び理科の実験を行う。
水を雷魔術で電気分解して酸素と水素に分けてストロー程度の穴をあけた革を張ったカップを逆さにした所へ集める。
水酸化ナトリウムなどという気の利いたものを持っていないので、今回は使う電気の出力を上げることで何とかした。
この状態は酸素の方が多いのだが、今回は爆発する気体の存在をオーゼルに信じさせることが出来ればそれでいいのでこんなもんで構わない。

カップの口を覆っている革が張り始めたのを確認したらすぐに穴を塞いで少し離れた所に置く。
「それじゃあカップの口の所をめがけて火を飛ばしてみて下さい。思いっきりやっていいですよ」
「分かりましたわ。…本当に爆発なんてするのかしら?」
ボソリとオーゼルから漏れた疑いの気持ちはすぐに晴れることになる。

指先に灯した火をカップに向けて勢いよく発射する。
オーゼルなりに考えたようで、射出された火は矢じりのような形になっており、速度もそこそこ出ていたため、あっさりと革を破りカップの中に飛び込んだ。
次の瞬間、ボンという少しばかり腹に響く重さの爆発音が起こり、まったく予想していなかったシペアと、疑念を持っていたオーゼルはその音の大きさに驚き腰を抜かしたように地面に尻もちをついてしまった。

爆発は当然水素と酸素の混合気体に引火したための物だが、思いの外爆発力は無かったようで、密閉状態であったカップは粉々にはならず、数えることが出来る程度の木片になっただけだった。
ただまあこれでオーゼルに爆発する気体の存在を信じさせることは出来たようで、この後は水素を火に取り込むことを意識した練習で一日は終わっていった。



次の日には撤収作業に入り、家は土魔術で作っただけなので壊すのもあっという間だ。
増えた荷物でジェクトに積み切れない分は俺のバイクに取り付けた折り畳み式のリヤカーに載せた。
「では出発しましょう。シペア、今度はゆっくりだけどそれでも手は離さないように」
「あいよー」
来た時よりも大分速度を抑えた俺のバイクを先頭に、後続のジェクトを引き連れて放牧地を後にする。
なお、俺が掘った跡まで続くトンネルは入り口を簡単に塞いだだけで放置してきたので、後から来る調査員が少し掘るだけで遺跡までたどり着けるようにしてある。
なんやかんやで遺跡での収穫に気をよくした俺達は、少しぐらいの親切をするぐらいに気が大きくなっていたのだ。

町に戻ったら一応町長に説明をするぐらいはした方がいいのだが、正直面倒だったので全部オーゼルに丸投げすることにした。
「ちょっなんで私だけで!あそこはシペアの土地でしょう?それに遺跡まで続く坑道を掘ったのはアンディでしょうに。あなた達も行くのです」
走るバイクの右隣に並走してきて、そういうオーゼルの言葉にシペアが嫌そうな声を上げる。
「え~面倒くせー。俺は遺跡のこととかどうでもいいから2人で行ってきなよ。どうせ俺がいてもなんも変わんねーって」
こやつ、俺を生贄にして自分だけ助かろうとしておる。
「いやいや、何を言う。シペアこそあの遺跡「お黙りなさい…2人とも来るのです…」…ハイ、了解です…」
シペアだけを逃してなるものかと何とか巻き込む方向で話を進めようとするが、その醜いやりとりがオーゼルの怒りを買ったようで酷く冷たい声で言い捨てられた。

オーゼル からは にげられない
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