世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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バスラン男爵領

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エイントリア伯爵家に宿泊すること4日、その内の1日を使って旅の準備を終えた俺達は王都を離れてバスラン男爵領へと向かった。
伯爵家に泊まっている間は色んな意味で騒がしかった。
セレンはパーラを猫可愛がりして離れようとしないし、サティウは何かにつけて俺に構ってくるので、ギルドの依頼を受けることを口実に出かけるのが何よりの安らぎだった。

おまけに風呂に入ると必ずサティウが途中から乱入してくるので、落ち着いて湯に浸かる事も出来なかった。
パーラはセレンと一緒に風呂を楽しんでいるようで、風呂上りにお互いの髪を拭き合っている姿を見かけたのだが、ホッコリとした気持ちと俺だけに降りかかる災難への理不尽さの両方を覚えたもんだ。
王都を出る日には玄関前でパーラとセレンが抱き合って別れを惜しむ姿があったが、その横で何故か両腕を開いて俺をじっと見つめて抱擁を待つサティウの姿があったのだが、見えていない風を装ってその場を後にした。

大まかな目的地への道のりが書かれた地図を頼りに進み、道中の村でグエンに関する情報を探ってみるが、どうも速度重視で進んだようで目撃情報は少ないが、時折休息や補給で立ち寄った場所ではグエン以外が動いていたらしく、騎馬の怪しい3人組の話はいくつか聞くことが出来た。
数少ない目撃情報を照らし合わせて進行方向を特定すると、やはりバスラン男爵領を目指しているのは間違いない。

逃げ込む先としてはやはり庇護を受けやすい男爵のいる町が妥当だろうと判断し、バスラン男爵の住むガレタートの町へと全速力で向かう。
恐らく俺達は面が割れているので万が一にもグエンに目撃されないようにと考えてなるべく顔を露出しないようにフードを目深にして町へと入る。
幸いにして冬の寒い季節となれば俺達のような格好も珍しいものではなく、門でのチェックの際にも普通に通された。
ガレタートの町並みはレンガ造りの家と木造の家が大体同じ比率で建っており、どの家もかなりの年代を経ているが丁寧に修繕されている跡が見え、古都のような雰囲気が感じられる景色だ。

規模としてはさほど大きい町ではないが、時折すれ違う住民の顔には笑顔が浮かんでおり、圧政の気配は微塵も無い。
善政を布いているのはわかるのだが、それはあくまでも男爵の資質の問題のため、グエンに対する印象は微塵も変わらない。
とりあえず目についた宿を借りることにして、荷物を置いて情報収集に向かう。
時間的には昼を大分回っているため、昼食時を外しているし暇をしているだろうと思われる酒場に入ってみる。

やはり中には客は一人もおらず、店の奥にある横長のカウンター席の向こう側で何かの作業をしていた店主と思しき人物と目が合う。
「半端な時間に客かと思ったら子供じゃねーか。どうした、飯でも食いっぱぐれたか?」
カウンター席に着きながらそんなことを言われたので、俺も被っていたフードを下ろして世間話から入る。
一緒に来ていたパーラも俺のそんな行動に倣ってフードを下ろす。
「実はそうなんですよ、簡単な物でもいいので何かあります?」
変な時間帯に来たが一応客なのでぞんざいにも扱われずに、肉と豆の煮込みとパンが出されたので黙々と食べ始めた。
かなりのボリュームなので味にはあまり期待していなかったが、しっかりとハーブ類が適量に使われたそれは見た目に反してあっさりしているために食が進む。
パーラも気に入ったようで笑顔で口に運んでいた。

「この町は随分雰囲気がいいですね。さぞ、領主様の統治が上手くいってるんでしょう」
「まあな、先々代の領主様から領民を大事にする姿勢を崩さないおかげで治安もあまり乱れないし、辺鄙な場所のおかげで他の領地からのちょっかいもまずないからな」
どことなく自慢げな店主の雰囲気はそれだけバスラン男爵の統治に満足している証拠だろう。

貴族の領地というのは属する派閥が違うと、街道の治安維持に河川に関わる治水等で隣接する地同士でトラブルになるケースがままある。
バスラン男爵領はフィバンティー子爵領に囲まれるようにして存在しており、フィバンティー子爵家と属家の関係にあるおかげでバスラン男爵家は他の貴族家とは違い、穏やかな統治が送れているのだろう。

こちらから聞かずとも店主自ら領内の情報を教えてくれるため、聞き込みとしては楽なのだがこのままでは欲しい情報は聞き出せないと思い、こちらから話を誘導する。
「それほど素晴らしい領主様なら、ご子息も相当に優秀なのではないですか?」
「ああ、少し前に今の当主様から跡継ぎに正式に指名されたそうだ。長男のダレオス様が次代の領主様になるらしい」
上手く話の方向を操作できたようで、男爵家の内情が少し明かされた。
だがグエンではなく、ダレオスとな?

元々フィバンティー子爵に仕えていた騎士の家系であるバスラン家だが、現当主のアレイトスの祖父がこの地で新種であるカロ芋の栽培に成功し、その功績で男爵の地位を与えられてこの領地の運営を始めたそうだ。
本来カロ芋の育つ土壌はここよりも大分南の暖かい地方が適しているのだが、当時のバスラン家の当主は寒さに強い種芋を何年にもわたって育て上げて寒冷地での生育を成功させたという、まさに辛抱の人といえるだろう。
作物の品種改良という功績で今の身分を手に入れただけに、収穫祭には他の領に比べて相当な力の入れようで、その名残で今も大事な発表は収穫祭で行うのがこの地での慣例となっていった。

そんなバスラン男爵家の現当主であるアレイトスから、収穫祭の折に長男のダレオスに家督を譲ることが発表され、王都の中央府に届け出ていたのだが、つい先日正式に認可を受けたため正式にダレオスが跡継ぎと決まったのだそうだ。
ダレオスを知る町の人からは人格的にも領地の運営能力でも十分な評価をされており、彼が跡を継ぐのならバスラン男爵領は安泰だと言われているらしい。

「それはめでたい事ですね。優秀な人物が領の未来を担うというのは安心できますから。…ところで、話は変わりますが、男爵様縁の人物にグエンという名前に心当たりはありませんか?」
少々強引だとは思ったが、店主の気分がいい内に本命の情報を得るべきだと判断し、グエンという名前を出してみた。
すると店主が突然顔を顰めて、機嫌の悪そうな空気を出し始めた。
質問のタイミングを誤ったかと思ったが、どうやら気分を害した理由はグエンの方にあるらしく、苦々しげに語ってくれた。
「ああグエンか、心当たりなら有り余るね。正直口にすることすらしたくないんだが、お前さんあのクズ野郎のことを聞きたいのか?」
本当に気分が悪いといった風の店主を宥めながらなんとかグエンのことを聞き出すことが出来た。

グエンはアレイトスの次男でダレオスの弟にあたる。
ダレオスとは違って男爵家を継ぐのがまず無理だとわかっていたグエンは幼い頃から剣の稽古に力を注ぎ、優秀な指南役によって実力をつけ始めると徐々に横柄な態度が目立ちだし、町中では腕っぷしに物を言わせて乱暴を働いたり、無銭飲食などもざらだったのだそうだ。
息子の悪行に頭を痛めたアレイトスは、性根を叩き直すために男爵家の剣術指南役のディランに監督させて、グエンを警備隊に放り込んで更生を図った。
その甲斐あって一時はなりを潜めたグエンの悪行だが、街道警備の名目で領内の悪ガキどもを集めて騎士団の真似事を始めると本性を現した。

最初は治安維持の一端として街道を行く商隊の護衛や盗賊の捕縛などを行っていたのだが、その行動の裏で領内の村を周り、巡回警備という名目で金を巻き上げていたという所業がアレイトスにバレると、激怒したアレイトスによって家を追い出されてしまった。
それでもやはりアレイトスも親であることに変わりはなく、年に一度、収穫祭の時だけはグエンの一時の帰郷を認めたのだそうだ。

ここまで聞いて今回の事件はバスラン男爵家の関与は薄く思え、グエンの単独犯的な物に見えてくる。
しかしそれでは男爵家の指南役のディランが今回一緒に行動していたのは何故なのかがわからない。
色々考えても答えは出ず、こうなったら俺から仕掛けてみるしかないか。
「ご馳走様でした。料理、おいしかったです。あぁそうそう、この辺りで武器を売るのにいい店って知りませんか?」
「それなら店を出て町の広場に向かって行けば左手側に武器屋がある。警備隊の装備も扱ってるところだから足元見られることも無いだろ」
おすすめを聞き出すことが出来たので支払いを済ませて店を出て武器屋を目指す。

歩いてすぐに武器屋が見つかったのだが、今は場所を確認するだけにとどめ、一旦宿に戻る。
パーラは武器屋に入らないことに首を傾げていたが、宿への道を歩きながら俺の目的を話すと理解してくれたようで、この後は宿で留守番をしてくれることになった。

荷物を持って再び武器屋を訪ね、店内に入ると店主らしき男がカウンターで暇そうにしているのが目に入った。
50代ほどに見える皺の目立ち始めた顔は糸の様に細い目も相まって柔和な雰囲気がにじみ出ており、白髪をオールバックにしている髪形はかなり薄くなっているように思える。
俺は買い取りを頼みたいので飾られてる武器には目もくれずにカウンターまで直行した。
その行動で店主も買い取り希望だと気付いたようで、姿勢を正して俺と正対する。
「いらっしゃいませ。買い取りですね?」
「ええ、そうです。これとこれをお願いします」
店主の目の前にグエン達から鹵獲した物の中で比較的高く売れそうな装飾の激しい兜とディランの使っていたシウテスの槍を並べて置く。

槍の鑑定を待つ間、俺はカウンター横に飾られている剣を物色する風を装い、鑑定に移った店主を横目で見ながら反応を窺う。
シウテスの槍は恐らくバスラン男爵家の所蔵する魔道具のはずで、男爵家お抱えと言っていい武器屋なら、それを売りに来た俺という存在を男爵家に伝えないわけがない。
それを見越して今回槍を売りに来たのだが、どうやら俺の考えは図に当たったようで、鑑定している店主の顔はどんどん険しくなっていった。

「お客様、失礼ですがこの槍はどちらで手に入れましたか?」
「旅の途中で襲われて、その時に倒した賊が持っていたものです」
俺の発した賊という単語にピクリと反応したが、それ以上に表情を変えることは無く、再び鑑定に戻った。

暫く経ってから鑑定していた手を止めると、金額を出すというよりは何か別のことを考えているといった様子の店主から次の言葉を予想するが、やはり店主が言った言葉は予想とそう違わない物だった。
「この槍ですが、査定を出すには少々時間がかかりそうです。よろしければ一晩預からせて頂ければ明日にでも結果をお伝えできますが」
「そうですか、ではそのようにして下さい。兜の金もその時に一緒に受け取るという形で」
そう言って俺の名前と滞在している宿の名前を伝えて武器屋を後にする。

これで種は蒔かれた。
あとは向こうからの接触を待つだけ。
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