世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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窓?あぁ、別の入り口のことね

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尋問の夜から開けて翌日、俺達はウルカルムがいると思われるティシュルド邸へと向かう。
町の人に少し聞くだけで場所が分かったのだが、現在のティシュルド邸の管理者がテスカド、つまりウルカルムとなっており、その点からもウルカルムが手に入れようとしている物がその邸内にあると確信できた。

ヒュプリオスの町を出て、事前に聞いていた通りに進んでいくと、雪原の上にポツポツと民家が見え始め、それが何軒か集まっているのが俺達の目的地であるティシュルド邸が建っている場所だった。
農地が周囲にあるらしいのだが、微かに地面の段差が異なっている所がそうなのだろうというぐらいにしかわからないのは、今の時期の雪の積もった一面白一色の光景が遠近感を狂わせているからか。

周りの民家に比べて一際大きく見えている年代を感じさせる屋敷がティシュルド邸だと思うが、集落を囲んでいる柵よりも丈夫そうなレンガの壁に囲まれた屋敷の門の前にはテントと焚火の煙が見える。
恐らくウルカルムに同行して来た人員が門の前で見張りとして待機しているのだろう。

「正面からは無理そうか」
「3人くらいなら大丈夫だと思うけど」
俺達は屋敷から少し離れた場所にある物置小屋から門の様子を覗き見ているが、常に3人の人間が見張りに立ち、1時間ごとに交代をしているようだった。
「いやだめだ。万が一にも逃げられるのは避けたい。バレないように潜入する方向で考えよう」

パーラの言う様に3人程度なら気絶させるのは簡単だが、全体の人数は分からない上に、もしも襲撃がウルカルムに察知されたら取り逃がしてしまうかもしれない。
騒ぎを起こさず邸内に侵入し、ウルカルムを探し出す。
パーラからの同意を得ることが出来たので早速侵入経路を探る。
門を大きく迂回して屋敷の右手側の外壁に近付くと、念の為に左右を見て人が来ないことを確認した。

今いる場所の雪はかなり深いもので、誰かが巡回するというわけではないのは足跡や雪をかき分けた形跡がないことから明らかなのだが、潜入には細心の中止を払うというのが大事なので、警戒してし過ぎることは無い。
「さて、どうやって壁の向こうに行こうか」
見上げる壁は高く、頂点が徐々にこちらにせり出すような構造になっているため、ロープをかけて上るのは中々難しそうだが、そうなると地面にトンネルと掘って壁の向こう側と繋げるのが妥当に思えてくる。

早速準備に取り掛かろうとして壁に手を付けた時、妙な違和感が手に伝わって来た。
「アンディ?どうしたの?」
突然壁を凝視して動きを止めた俺の様子に、心配そうな声をかけてくるパーラだったがそれに応えずジッと壁を見つめていると、違和感の正体がようやくわかる。
「この壁、中に金属が入ってるな。間隔は…意外と狭いな」
「強度を上げるのに鉄の棒を入れるって聞いたことある。大きい町だと結構よくあるらしいけど」
パーラからの捕捉でどうやらこの壁には鉄骨が入っているらしいというのが確定した。

これならと壁に足の裏を付けて電磁石の要領で強度の磁力を手足に発生させると、しっかりと壁に吸い付くことが出来た。
そのまま右足左足と壁に垂直に付け、手も使って壁を登っていく様はアメコミヒーローの蜘蛛男のような気分だ。
チラリとパーラの方を確認すると、何とも言えない妙なものを見る目をしている。
壁を四つん這いでカサカサと上る姿は人間らしさからは程遠いものだろう。

壁を歩くことが出来るおかげでオーバーハング気味の頂点も難なく乗り越え、壁の向こうに降り立つ。
降りた先は丁度建物の陰になっている場所で、窓も開いていないおかげで屋敷内から姿を見られる心配も無い。
足元の雪は踏み荒らされた後は無く、どうやら今いる場所は人が来ることは無いようで、壁の向こうにロープを飛ばし、パーラを引き上げる。

ロープを引きながらハング部分をどうやってパーラが越えてくるのかという疑問が湧いたのだが、壁を蹴る音が聞こえたので、どうやら問題はなさそうだった。
壁の向こうから飛び降りてきたパーラが着地するのを見届け、そのまま建物の内部への侵入を試す。
馬鹿正直に正面玄関から乗り込む必要はないので、今目の前にある木製の窓から入ればいいだけだ。
窓に手を掛けて力を入れるが案の定鍵がかかっており、このままでは開かないのだが、何事にも裏ワザというのはある。

この世界の窓は裕福な家でない限りは基本的には木製の窓であることが多い。
ティシュルド邸も建屋の大きさこそ貴族並みだが、窓や門扉といったものは質実剛健といったものが多く、木製の窓を使っているのも亡きティシュルドのこだわりだろうか

この窓は外からの侵入を防ぐために内開きであるのだが、鍵がかかっている状態でも少し力を入れて押すと扉の下に隙間が出来る。
そこにナイフを差し込み、てこの原理で持ち上げるとあら不思議、窓枠自体が浮いて外せるようになる。
これは以前王都に滞在していた際にギルドの依頼で内装職人の手伝いをした時に教えてもらったものだ。
家の窓が開かないのを直す際に窓枠ごと外しての交換作業でやり方を説明された。
比較的新しい窓では使えない手だが、古い家屋ではこの方法が通用するらしい。

外れた窓枠を慎重に建物内に下ろし、そこから入っていく。
「なんかアンディ、暗殺者っぽい。何人殺ったの?」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は卑怯な真似はしない…ことはないが、人の家に忍び込むのはこれが初めてだ」
ニヤニヤしながら尋ねてくるパーラに一応弁解をしておく。
盗賊の塒で暗躍したことはあるがな。

窓を元通りに戻して、現在地を確認する。
暗い廊下に俺達は立っているのだが、建物全体が石造りだったのもあって廊下もやはり全面石に囲まれていて、この季節だと少し寒さが身に染みる。
まともに掃除がされていないようで、手で触れた壁には薄らと土混じりの塵が付着していた。
ウルカルムが管理をしているとは言っても住んでいるわけではないので、埃や汚れが溜まってもそれほど気にしないのだろう。

足音を立てないように気を付けながら移動していくと、玄関ホールのような場所に出るのだが、屋敷内にもウルカルムの手の者と思われる人間は当然いるもので、ホールの中央奥にある2階へと続く階段の脇にある扉からは話声が漏れてきている。
声の調子からは昼から酒を飲んでいるのがわかるが、これは恐らく酒で暖を取るために飲んでいたのがいつの間にか深酒になっていったパターンだろう。

「丁度いいな。これなら2階のウルカルムの所に簡単に行ける」
「なんで2階にいるってわかるの?」
「大抵偉い人は高い所にいるもんだ」
偏見に近い根拠だが、2階に居なかったらまた戻って来て1階を探せばいい話なので、人の目が無いうちに2階を探してしまいたい。

静かに階段を上って2階に行くと、屋敷の左右に延びる廊下にはいくつかの扉が並んでおり、このどれかの部屋にウルカルムがいるかもしれないので順番に調べていく。
いきなり扉を開けるわけにもいかないので、まずは扉に耳を当てて内部の音を探り、呼吸や衣擦れといった細かな音を拾うのだが、これに関しては俺よりもパーラの方が役に立った。
風魔術を使って人の呼吸や動きによって起きる空気の流れを聞き分けることがパーラには可能らしいので、部屋を検めるのは一任する。

いくつかの部屋は空振りに終わったが、廊下の突き当りにある一際大きな両開きのドアの向こうにウルカルムがいるようで、パーラからの目配せを受けて音が出ないように注意してソッとドアを開ける。

開いた隙間から覗いた室内はいかにも執務室といった様相で、この部屋だけはガラス窓が使われており、差し込む光のおかげで室内は明るい。
部屋の奥にある執務机に座っている男性が一人おり、痩せぎすの体格に額が後退気味の総白髪は聞いていたウルカルムの特徴と一致しているので彼がそうなのだろう。
実年齢よりもかなり老いて見える外見と、深く刻まれた眉間の皺が今まで歩んできた人生の険しさを表しているようだ。

机の上には大量の紙と羊皮紙が載せられており、しきりに紙をめくる音だけが室内に響いている。
何かを探しているのか時折首を振ったりする仕草は、紙に書かれていた内容が期待していたものではなかったという風に感じられた。

暫く観察していたが、このまま見ているのも時間の無駄だと判断し、素早く扉を開けて室内に飛び込み、一気にウルカルムのいる机の上に飛び乗り、腰から抜いたナイフをその首元に添える。
一瞬の出来事に何が起こったのかまだ理解できていないといった顔を浮かべたウルカルムだったが、首に当たる刃の冷たさから自分の現在の状況が思考に染み渡ったようで、眉間にさらに深い皺が刻まれる。
「…賊か?まさか見張りが全く役に立たないほどの手練れとはな。…それで?私を殺すかね?」
表情こそ険しいが声に怯えや恐れのような感情は籠っておらず、冷静な目が俺達へと向けられる。

「それもあり得る、と言っておきましょう。まずは大声を上げない、暴れない、こちらの言うことに従う、この3点を守っていただきたい」
何かを思案しているのか、僅かな時間見つめ合うと、ウルカルムは頷いて了承した。
それを確認しナイフをしまって机から降りる。
パーラが扉を閉めて閂代わりに近くにあったステッキを取っ手に差し込んだのを見てから、かぶっていたフードを下ろす。
一応顔バレを警戒してフードだけはかぶっていたのだが、この時始めて俺達の顔を見たウルカルムは驚きと感嘆が混じった声を漏らした。

「小柄だとは思っていたが、まさか子供だったとは…」
「まあそうですね。この通り普通の子供ですよ」
「普通…?アンディが…?」
ボソリとつぶやくパーラの声は俺にしか聞き取れないほどのものだったが、実に心外だ。
どこからどう見ても普通の子供だろう。
ちょっと魔術が使えて中身が元大人なだけで…まあ、よく考えたら普通じゃねーや。

なんだか居心地の悪さを感じたので、やや強めに咳払いをして話の軌道を修正する。
「今回俺達が来たのはウルカルムさん、あなたに命を狙われたことへの復讐ですよ」

「…さて、話が見えないな。私は君たちのような子供の命を狙ったことは無いし、そもそも私の名前はテスカドだ。ウルカルムとやらではない。人違いではないかね?」
おっと流石は商人として成功した人間だけあってすっとぼけ方は中々堂に入った物がある。
何のことやら感の出し方が非常に巧妙で、何も知らなければ人違いの言葉も鵜呑みにしてしまいそうだが、残念ながらどうしようもない証拠がある。

「いやいや、人違いではありませんよ。だって、グエンから手に入れた指輪を今あなたがしているじゃないですか」
俺の言葉に一応平静を保とうとはしたのだろうが、微かに指輪のはまっている右手がピクリと動いたのを見逃しておらず、それによって今ウルカルムがしている指輪がヘクターから強奪したものだろうと確信した。

目に入ったのは銀製のシンプルな指輪だが、向き合う蛇が刻まれたそれは話に聞いていた特徴と一致してるのを確認できた。
「ちなみに、命を狙われたのは私ではなく、そこにいるパーラと兄のヘクターです。名前に覚えはありますね?」
立て続けに飛び出してくるグエン、ヘクター、パーラという名前を聞かされては言い逃れは無理だと悟ったのだろう。
深い溜息を吐いて椅子に背を預ける姿勢を取って口を開く。
「隠し通せるものではないか…。確かに私の本当の名前はウルカルムだ。…そして、兄妹の抹殺を命じたのも私だ」
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