世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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ヒリガシニ

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 治療を終えた後、忙しそうにしていたエメラに少し無理を言う形で頼み込み、なんとか娼館の一部屋をパーラのために借りることが出来た。
 ガリーのことも、看護師という形で雇ったと伝えたため、当分はあの部屋を臨時の病室として扱うという形で話はついている。

 一応、例の暗殺者がパーラに止めを刺しに来る可能性もふまえ、専任の護衛もギルドで依頼を出すのも考えている。
 ここの用心棒は腕はいいが、暗殺者の侵入を防ぐのに慣れているとは思えないので、探知系の技術を持つ獣人なんかを雇いたい。

 ただ、パーラ達が上手く逃げて撒いたか、あるいは暗殺者にとって追跡の必要がないと判断したかは分からないが、今のところ暗殺者が襲撃してくる気配はないので、直接的な戦力というよりはいざという時にパーラを担いで逃げれる人材が望ましいだろう。

 パーラの薬代に、賃料に迷惑料にとかなりの大金をエメラに払ったが、これに加えて護衛を雇うのにも安くない金がかかる。
 金にはまだ余裕はあるが、無制限に使い続けるのは性分ではないので、なるべく早くパーラをやった人間をぶち殺してこの件を片付けたいところだ。

 そんなわけで、娼館での怒涛の一夜を明けた今日、俺はチコニアに会うため彼女が宿泊している宿へとやってきていた。
 流石黄一級の冒険者だけあって金回りもいいらしく、随分とお高い宿を使っている。

 高級ホテルに相応しい、ちゃんとしたフロントに俺の名前を告げて繋ぎを頼むと、あっさりと俺はチコニアの泊まっている部屋へと通された。
 もしも俺が名前を騙っている偽物だったらと仮定すれば不用心に思える対応だが、よく考えたらチコニアなら下手な賊程度は平気で返り討ちに出来るので、自分の懐に招き入れるのも気にはしないのかもしれない。

 まぁ俺は本物だし、チコニアにはちゃんと用事があってきているのでこの心配は今はしなくてもいいのだが。




「そう、パーラが…。もう怪我の方は大丈夫なのよね?」

「はい、昨夜の内に治療は済ませましたから。まだ意識は戻ってませんが、危険な状態は脱しています」

 チコニアに部屋へと招き入れられ、まずは報告にパーラのことを話すとかなり動揺を見せたが、死んではいないことを知って安堵の表情を見せた。
 どうも俺とパーラのぎくしゃくした関係をどうにかしようと画策していたようだったが、まさかパーラが昨夜帰ってこなかったのは俺との仲に進展があったのではなく大怪我のせいだったとは思いもせず、俺の口から知らされてかなりショックを受けたらしい。

 別にパーラの怪我にチコニアは全く責任はないのだが、どこかけしかけたという思いからか悔やむような顔を見せる。
 俺は本人ではないのではっきりとは言えないが、パーラだったらチコニアに責任を求めることはしないだろう。
 正面から戦って負った傷を人のせいにするほど、俺もパーラも腐っちゃいない。

「実はチコニアさんに会いに来たのは、パーラと戦った暗殺者について聞きたいことがありまして」

「私に?そう言われても、私もその手の人間には詳しいわけじゃないんだけど」

「いえ、俺が聞きたいのは、その暗殺者の雇い主についてです。率直に聞きますけど、天地会が暗殺者を呼び寄せたというのはあり得ますか?」

 そう尋ねると、チコニアは一瞬怪訝そうな顔をしながら腕を組み、考え込む仕草を見せた。
 その様子は伝えるべきことを吟味しているようでもあり、つまり何かの迷いを抱いているといった具合だ。

 そもそも俺が彼女に尋ねたのは、どうもチコニアは天地会についてかなり深い所にまで食い込める立場にいるのではないかと推測したからだ。
 俺とパーラにちょっとした仕事を任せるという程度なら、天地会と多少誼があれば普通にあり得る話だろう。

 しかし、娼館ならともかく港湾設備の仕事にパーラをねじ込むというのは、多少の誼でどうにかできるとは思えない。
 ファルダイフの港はこれまで見てきたどこよりも規模が大きく、港湾設備の管理もしっかりとしたものだ。

 普通なら、いきなり新入りが入港の処理に携わるなどまずないことなのだが、パーラはあっさりとそのあり得ない立場へと放り込まれていた。
 勿論、風魔術の腕を見込まれてというのもあるだろうが、チコニアの口利きだからという信用もあってのことだったはず。

 このあたりから、チコニアと天地会の関係はちょっとした知り合いというよりは、商会かそのトップと独自の繋がりがあるというのが俺の見立てだ。

「…天地会が暗殺者を雇うなんてのは、まずないわね」

 しばらく悩むようだったチコニアが、その口から飛び出させたのは否定の言葉だった。
 ハッキリとそう言い放つということは、やはり俺の想像通り、チコニアは天地会と深いつながりがあるのだろう。

「そう断言する理由は?チコニアさんも、天地会を余さず全て知ってるわけではないんでしょう?」

 天地会も決して小さな商会ではないので、末端が勝手に動いたという可能性もなくはない。
 なにより、天地会のトップの心情をチコニアが全て把握しているとは思えず、彼女の知らないところで暗殺という手段を商会長が欲したという筋書きを否定する材料を俺は持ちあわせていない。

「分かるわよ。天地会の会頭は絶対にそういう手合いを認めない。孫の私が言うんだから間違いないわ」

「……孫?誰が?」

 ハッキリと断言するチコニアの言葉に、聞き逃せないキーワードが含まれており、予想していなかったそれを何も考えずに尋ね返してしまう。

「私が。…聞かれなかったから言わなかったけど、天地会の会頭は私の祖父なの。だから、どういう人間でどんな信念があるかなんて分かってるつもりよ」

 チコニアもファルダイフでは妙に馴染んでいるとは思っていたが、まさか血縁があったとは。
 こいつはまた随分と特大のコネだ。
 できればその辺りをもう少し詳しく聞きたいところだが、今はそれは置いておく。

 なるほど、商会のトップが肉親となれば、他人よりはその言動を知ることはでき、チコニアの言葉には一定の説得力がある。
 少なくとも、何も知らない俺よりは天地会の動きは見えていると言っていい。

「俺はその天地会の会頭をよく知りませんが、チコニアさんは信用してます。だから、例の暗殺者と天地会に繋がりがないというチコニアさんの言葉も、まず一旦信じましょう。しかしそうなると、何処が雇ったかということになりますが…」

「そう言うってことは、大体見当はついてるんでしょ?今この街で暗殺者を呼び寄せるとすれば、裏の人間に決まってる。行政側の人間が、安定しているこの街をかき回すわけもなし。そして天地会の意向を汲む連中が暗殺者を使うのも…まぁなくはないけど、まず考えられない。となると、その件はヒリガシニの連中がしでかしてるってことよ」

「ヒリガシニ?」

 俺もチコニアとほぼ同じ考えだったが、その中に聞き馴染みのないものがあったため、またしてもアホのように尋ねてしまった。
 とはいえ、今の話の流れからして、天地会と敵対しているという半グレ集団のことだとは予想がつくが。

「あぁ、そう言えばアンディ達は知らなかったのね。天地会の店にちょっかい出してるって前に言ってた奴らいたでしょ?あいつらの集団の名前がヒリガシニっていうのよ。少し前に名前が分かったわけ」

「へぇ、何だか変わった呼び名ですね。なにか意味とかが?」

「意味って言うか、連中の信奉する神の名前がそうだから、自分達がその使徒として名乗ってるって感じね」

「…ちょっと待ってください。神の使途?連中、ただの破落戸じゃないんですか?」

 おいおいおいおい、なんだかきな臭くなってきたぞ。
 どっかから流れてきたチンピラが天地会にちょっかいを出してるというのが、今のファルダイフの裏社会で起きている問題だと思っていたが、そこに宗教が絡んでくるとなれば話は違ってくる。

「それが違うらしいのよ。何人か捕まえて話を聞いてみれば、自分達はヒリガシニだーって、神のためにここにいるーなんて言いだしたらしいの。そこでようやく、ヒリガシニっていう名前と連中の目的も見えてきたってわけ」

 きっと丁寧に聞き出したというのも、血生臭い手が使われたと想像は着く。
 宗教に被れたチンピラの口を割らせるなら、それぐらいはしなくてはならなかったのだろう。

 天地会も表向きは商会なんぞやってるが、実態はヤクザ同然だというのは分かっている。
 勿論、商会としてはギルドにも所属しているし商売もちゃんとしているが、同時に裏の連中との繋がりもあることから、完全な堅気とは言い難い。
 とはいえ、一応地域に根差した任侠者とも言えるし、辛うじて話の通じるグレーな組織だと思っていい。

 この時点で、俺の中ではファルダイフの裏で縄張りを持つマフィアと天地会がズブズブの関係という認識となっているわけだが、話を聞いている限りではそれもあながち間違いではないはずだ。
 表の顔としてまともな商会として天地会は名を売り、裏ではマフィアと蜜月関係にあるわけだ。
 日本でも大企業がヤクザと手を結んでいる状態が普通にあるし、こういう形態はなんらおかしくない。

「でもヒリガシニなんて初めて聞く名前でしょ?どこかの誰かが新しく作った宗教ってのは確かみたいだし、そんなのだから、ファルダイフの裏の稼ぎを牛耳って活動資金を得ようって狙いはあったらしいのよ」

 新興宗教か。
 正直、あまりいいイメージがある言葉ではないな。
 全てがそうだとは断定できないが、元の世界でも新興宗教といえば、頭のイカれたペテン師がトップに立ったインチキ宗教が大半だった。
 ヒリガシニが天地会へちょっかいを出しているのも、地球の新興宗教の活動とよく似ている。

 金と兵隊を手に入れるために一般市民を食い物にして、ヤクザにも噛みつく狂犬っぷりは人間社会から逸脱していると言っても過言ではない。
 新興宗教と半グレ集団はほぼイコールだと俺は思っている。

「それでファルダイフの裏とつながりがあり、嫌がらせがしやすい相手として、天地会にちょっかいをかけてたと。宗教組織ってのはやっぱり生臭なんですかね」

 大抵の宗教組織というのは腐っている。
 成り立ちの大元は崇高な意思があったとしても、時間と人の手垢が増えるにつれて腐敗から免れることなどできない。
 ましてや新興宗教など、明らかにインチキ集団の金稼ぎにしか使われないと分かっているため、最初から腐っていると言っても過言ではないだろう。

「この手の連中ってのは、どいつも預言者気取りの詐欺師に傾倒してる頭の悪いのばっかりよ。そんな連中が金を集めようとするなら、真っ当な手段はまず使わないわよ」

 自制心に乏しい暴力的な人間がトップに立つ集団というのは、末端まで同じ傾向の空気が作られやすい。
 きっとヒリガシニも、宗教という名を掲げた悪徳団体だと言える。

「真っ当な手段を使わない…ということは、暗殺者を使うというのも?」

「…無いとは言えないわね。今この街の裏で起きてる抗争は、地力の差でヒリガシニが抑え込められている状態よ。現状、連中がやれてるのが、天地会系列の店への嫌がらせがせいぜいってのがその証拠ね。普通なら、ここらでファルダイフでの勢力拡大を諦めて去るのが妥当なんだけど…」

「まともな考えが出来る人間なら、そもそも大手の商会へ半端にちょっかいはかけないでしょう」

「そうね」

 新興宗教というのは鮫のようなもので、動き出してしまったら止まることが出来ない。
 何も生み出さず奪うだけしかできない集団は、他者を餌にせずには自らを保てないからだ。
 勢力拡大のために天地会へ噛みついたのも、連中にとっては唯一の方法としか見えていなかったからだろう。

 これで少しでも理性があれば、相手との力の差を自覚して手を引く選択肢も見えるはずだが、狂信者には敵とみなした全てを喰らい尽くすことしか考えられないのかもしれない。

「しかしそうなると、暗殺で狙うのはやはり頭目ですかね?」

「今の状況をどうにかしようって考えるなら普通はそうね。けど、元々ここらを仕切ってたのはかなりの大所帯よ。そこの頭ともなれば、身の回りだってちゃんとしてるわ。どんな手練れの暗殺者だろうと、簡単には害せないね」

 地盤をしっかりと築いたマフィアだけあって、トップの周辺を固めるボディーガードに関しては多少知られはいるのか、断定するようなその口調は自信あり気だ。
 暗殺への備えに絶対はないとはいえ、よほどの腕利きが周りを守っているのだろう。

「では仮に頭以外を狙うとしたら、他に暗殺の対象となり得るのは誰かいますかね?」

 抗争中の組織のトップが、護衛付きで普段から過ごしていることは誰だって想像できる。
 ヒリガシニも、頭はおかしくともそれぐらいは分かるはずだ。
 となれば、トップ以外を狙って組織にダメージを与えようとするぐらいはしそうなものだ。

 組織というのは頭を潰せば一気に弱体化するのはどこも同じだが、それだけによく守られるのもトップの扱いでもある。
 暗殺にしろ直接にしろ、まず害することができないところよりもソフトなターゲットを選ぶのは常道と言える。

「うーん、いなくもないけど、でもわざわざ暗殺する程でもないって気も…強いて言えば、天地会の会頭とかが狙い安いかもね」

 マフィアと裏で繋がりがあるとはいえ、表立っては白い側に立つ大商会だ。
 そこのトップなら身の回りに護衛がいてもおかしくはないが、あからさまにガチガチに守りを固めた商人というのは、取引上でも印象はあまりよくない。
 聞いた話だと、チコニアの祖父に当たる天地会の会頭は、頻度はそう多くないが現場には今でも顔を出すタイプの商人らしく、暗殺者からすれば狙いやすいターゲットだ。

「比べると、他を狙うよりも会頭をやる方が手っ取り早く、商会への打撃も大きいですか?」

「私はそう思うけどね」

 あまりいい気はしないが、暗殺者の立場に立って考えてみれば、効率と確実性では天地会の会頭を狙うのがいいと俺達は同じ答えが出ている。
 となると、件の暗殺者と遭遇するには会頭の周りを張るのがいいと思うが、いつ暗殺者が動くか分からないをただ待つつもりはない。

「チコニアさん、一つお願いがあります。ヒリガシニの連中がよく表れる場所、もしくは塒などといったものは分かりませんか?」

「そんな塒なんて、私程度が知ってるならとっくに血気にはやった誰かが襲撃してるはずよ。でもその手の話は聞かないから、分からないって答えさせてもらうわ。ただ、連中のよく表れる場所ってのなら心当たりはなくもない」

「それはどこですか?」

「…教えてもいいけど、どうする気?」

「連中を捕まえて、暗殺者の情報を聞き出します」

 俺が今欲しいのは、暗殺者の所在に関する情報だ。
 天地会の会頭を襲撃するタイミングを待つのもいいが、腹の内に渦巻く怒りはさっさと見つけて一発かましてやれと囁く。

「私の心当たりに現れる奴なんて、下っ端もいいところよ?暗殺者のことなんて大して知ってるとは限らないんじゃない?」

「別にそれでも構いませんよ。片っ端から構成員を尋問していけば、いつかはよく知る誰かに辿り着けますから」

 ヒリガシニの状況を一発逆転できる暗殺者の情報となれば、秘匿性を狙って下っ端の構成員には知らされていない可能性は大きい。
 だが俺にしてみれば、構成員が知っていようがいまいが関係ない。

 暗殺者を探して動いているという情報がヒリガシニの上層部の人間に伝わりさえすれば、何らかのアクションが期待できるのだ。
 数珠つなぎに構成員を手繰って上層部へ辿り着くのが順当なやり方ではあるが、むしろ連中は嗅ぎまわっている目障りな人間を消そうと、本仕事の前に暗殺者を差し向けてくるという展開も十分あり得る。
 そうなれば、パーラの仇も取れるチャンスだと言えるため、俺としてはむしろ望むところだ。

「…なんともまぁ、地道なやり方ね。アンディはこういう手はあんまり好まない質だと思ってたんだけど?」

「そんなことはありません。今回みたいに、標的をあぶりだすのに必要だってんなら、こういうのもやりますよ。まぁ確かに、普段の俺ならもっといい方法を絞りだしますけど、今はそれをしている時間も惜しいので」

 叶うことなら、ヒリガシニのトップが揃っている場に乗り込んで、パーラに怪我を負わせた奴を呼び出させて諸共に殺すというのが一番いい。
 だが、新興宗教のくせに上層部の人間の秘匿は一端に出来ているため、足元から辿っていくのが今は最善と言える。

「わかったわ。じゃあ教えてもいいけど、条件を付けさせてちょうだい」

「条件?」

「ええ、条件はヒリガシニの連中から聞き取った情報は、天地会の人間にも共有すること。天地会だって連中をどうにかしようって動いてるから、そっちにも情報提供って形で協力して欲しいの。どう?」

 チコニアは天地会のトップが身内ということもあって、冒険者としての立場と共に天地会寄りの言動が出てしまうのは仕方のないことだ。
 俺への情報提供の見返りとして、天地会にも同じく情報という形で協力して欲しいというのもわからんでもない。

 天地会もヒリガシニから受けた被害は決して小さくなく、抗争を早期に畳む一助になればというチコニアの願いは言わずとも伝わってくる。

「それぐらいなら構いませんよ。ただ、天地会が得た情報も俺に共有して欲しいもんですね」

「そうね、商売絡みの方は無理っぽいけど、暗殺者に関してなら大丈夫だと思うわ。私の方から言っとく」

「助かります」

 口約束ではあるが、ここにチコニアを通して天地会と情報面での協力関係が築けたのは大いにありがたい。
 商会を営む天地会には、独自の情報ネットワークが存在しているはずだ。
 そこに頼って暗殺者の動向が分かれば御の字、無理でもヒリガシニの下っ端構成員を狩るのに必要な情報が手に入ればそれでいい。




 早速チコニアから聞き出したヒリガシニの連中がよく姿を見せるという場所、街の裏通りを基点としたいくつかの内の一つを目指して俺は動き出す。
 今はまだ明るい時間だが、連中が目撃される時間帯には特に決まりもないため、まずは行ってみて遭遇できればよし、そうでなくとも周辺で情報収集ぐらいはできる。

 チコニアの話だと、今まで遭遇した末端の構成員はどいつも強さとしては大したものではないため、たとえ大人数とかち合ったとしても魔術師の俺の敵にはなりえない。
 できれば向かった先ですぐに見つけてたいところではあるが、こればかりは運に任せるのみだ。

 チコニアの部屋のバルコニーから飛び出すと、身に着けていた噴射装置を一気に吹かす。
 向かう先にはパーラの仇に繋がる何かがあると思えば、体には力がみなぎると共に昏い興奮のようなものが湧き上がってくる。

 敵に報いを受けさせる、ただその一事で動く俺を見たら、パーラはどう思うのやら。
 かつて兄の仇を前にして命を奪わずに済ませたパーラが、今度は自分の身に起きたことで復讐に動くのを果たして喜ぶのかというと疑問はある。

 だが、これは俺がやるべきと決めたことであり、一種の我が儘みたいなものだ。
 これが赤の他人だったらまだしも、大事な相棒を傷つけられて黙っていられるほど俺は聖人君子でもない。
 だからこそ、これから向かう先では闘争を巻き起こすことに何のためらいもないし、何だったら無抵抗な命を奪うことも多分平気でやれてしまう。

 もっとも、俺の狙いはあくまでもパーラをやった暗殺者の方なので、無駄な殺生は発生しないに越したことはない。
 本当に殺すのはただ一人、件の暗殺者だけでいい。
 願わくは、ヒリガシニの構成員の口が滑らかであってほしいものだ。

 時折建物の壁を蹴りながら裏通りを疾走していくと、目当ての場所が見えてきた。
 外出も億劫になるほどの暑さ、なおかつ裏通りという人通りの少なさゆえに、そこに屯する人影がハッキリと分かる。
 遠目にでも佇まいからして堅気の存在ではないと分かるそいつらは、どうやらヒリガシニの構成員で間違いないようだ。

 あと十秒もしないうちに連中と接触できる。
 人数は六…いや、七人か。
 剣こそ帯びているようだが警戒している様子はなく、中心に飛び込めば制圧は容易だろう。

 出向いた先で早速出会えるとは、幸先がいいな。
 さっさとノして情報を得るとしよう。
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