70 / 79
ビアンコではなく、ベルティーナが➅
しおりを挟む全く話の通じない相手とは入院する前はまだ完全に思っていなかった。公爵家を継ぐ条件を突き付けて来る自体予想外だった。家令の言う通り兄に婚約者がいなくて正解だ。いたら相手の令嬢だけではなく、相手の生家にも向ける顔がない。
過去の初恋を引き摺り、クラリッサと結婚するには今しかないとビアンコが考えているのは丸分かりで。ただ、開口一番発言をするとは……と失望と呆れが同時に押し寄せる。性格や兄妹仲はどうであれ、次期公爵としては確かだと思っていた自分が馬鹿だったようだ。
どうせ、此処に母はいない。父がいても昔のように兄を泣かせたという理由で叱られも殴られもしない。自分の意思を取り戻した父が妹に泣かされて親に言い付ける兄を見たらどんな対応をするのか見てみたいという意地の悪い考えもあり。
ベルティーナは得意げに胸を張るビアンコにとある旨を訊ねた。
「ところでお兄様とクラリッサはどうして護衛もつけず湖へ? 今の状況で二人湖へ行くのは百歩譲って何も言いません。ですが護衛も無しとなると話は別です。理由をお聞きしても?」
「そ、それは」
ビアンコの顔色が明らかに変わった。
「誰も来てくれないからですよ!」
口を噤むビアンコの代わりとばかりにクラリッサが説明をした。
「わたしとビアンコお兄様が湖へ行くから護衛として同行をと言っても、屋敷の護衛の方達は誰一人来てくれなかったのです!」
「私が説明します。あの時は奥様も旦那様も倒れられ、邸内は混乱しておりました。そんな時に長男であるビアンコ様をクラリッサ様と湖へ行っている場合ではないと私が止めたのです。無論、護衛達にも二人を外へお連れしてはならないという意味で護衛を断らせていたのです」
護衛無しで遠出はしないと思っていた家令の予想は見事に外れ、二人は馭者に無理矢理馬車を出させ出発してしまった。矛先を家令に変えた二人の言いたい放題の有様に今度は父が「ビアンコ」と低い声を発した。
「さっきのクラリッサと結婚したい件についてだが許そう」
「え!? 本当ですか父上!」
「ああ」
「ありがとうございます! ベルティーナ! 後はお前がその従者を置いて出て行けば事は全て丸く収まる! 分かったらさっさと従者を置いて出て行け!」
「出て行くのはお前とクラリッサだ」
「は?」
前日、父と話した通りになってしまったと額に手を当てたくなるも今は耐える時だと動かなかった。クラリッサとの結婚を認められて有頂天になったビアンコは突然の宣言に唖然となった。クラリッサも然り。結婚を認めてもらえばアルジェントも漏れなく付いて来ると本気で思っていたのだ。
「ち、父上?」
「婚姻届をだし次第、お前達を先代夫妻のいる領地へ送る。二度と王都に戻るな」
「何故ですか! クラリッサと結婚を許すなら、父上の跡を僕が継ぐのが……!」
「アンナローロ家はベルティーナに継がせる。ベルティーナとも話は済んでいる」
「は……?」
今度はベルティーナに唖然とするビアンコ。
はあ、と溜め息を吐いたベルティーナはビアンコ達が戻った最初の対応次第で公爵家を継がせるか、領地へ追い出すか、どちらかが決まると語った。開口一番、誠心誠意謝罪していればクラリッサとの結婚は無理でも公爵家は継げた。だが戻って早々にクラリッサとの結婚を条件に公爵家を継ぐとビアンコが言い出した時点で決まってしまった。
「な……何故、何故お前がっ、今まで跡取り教育を受けてこなかったお前が公爵になるんだ!」
「お兄様達が入院している間、お父様の手伝いをしていました。学ぶ量も記憶する量も王妃教育と大差ありませんでした。今から学んでも必ずやりとげる自信はあります」
「次期公爵は僕だ!」
「その未来を自ら潰したのは貴方です」
アルジェントの言う通りになったと内心苦笑した。初めは馬鹿な話だと考えもしなかったのに。
「父上考え直してください。ベルティーナが公爵になれる訳がないっ。こんな可愛いげのない女が公爵になったら……!」
「爵位を継ぐ者に可愛さは要らん。必要なのはその素質と資格があるかどうかだけ。ベルティーナには十分ある。これからも家令と共に私のサポートをして覚えてもらうつもりだ」
「な……なら……僕は……」
「クラリッサと結婚後、領地へ行ってもらう。大聖堂で誓いを立てるといい。それくらいの費用は出す。希望するなら花嫁花婿衣装も用意する。他に必要なのは結婚指輪か」
聞く耳を持たない父を今度は呆然と見るビアンコ。クラリッサも固まったまま。
「ねえ、アルジェント」小声で話し掛けるベルティーナ。
「貴方は呆れてない?」
「何の話?」
「家を出て行くと言った私が家を継ぐことに」
「いいや? ベルティーナらしいよ。本来の理性を取り戻した公爵と君を見ていると多分こうなるかなとは思ったよ」
「意志がぐらぐらする人間でしょう?」
自嘲気味に笑うベルティーナに「そんなことないさ」と笑んだ。
「人間臭くて俺は好きだよ。一つの事を最後まで貫き通せる人間はそうはいない。ましてやベルティーナの場合は状況が状況だ。このまま家を出て行ってずっと気にし続けるくらいなら、いっそ当主になって君らしい采配をしたらいいさ」
495
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
私のこと好きだったの?
棗
恋愛
夕飯を食べる前にちょっとだけ寝ようと布団に入っただけなのに、次に目を覚ますと生まれたての赤ちゃんになってしまっていた私。そんな私を抱いていたのは子育てをしてみたいという理由で人間の子供を創った男性ルチアーノ。
ルチアーノの娘マルティーナとして育てられた私は、何不自由がなく深い愛情を注がれて育てられる。
立場上政治に関わる気も私を政略結婚させる気のない父とこれからものんびりとした生活を送りたい。
……が、周りは放っておいてくれないみたいで……。
※なろうさんにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる