私のこと好きだったの?

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圧力をかけられた

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 私はホットミルクを飲み、お父様は小難しい本を読んでいるまったりとした時間。後一時間程で魔導研究所へ行く予定となっているが……。


「ふわあ……ううん……」


 耐えきれない欠伸が出てしまい、少々涙目になると頭に手が乗った。お父様の手だ。


「随分眠そうだな。寝るか?」
「うーん……魔導研究所に行くんでしょう? 行きたいなあ……」


 以前お父様やスレイさんに聞いていた託児所の見学に行くのが今回の目的。何でもモーティマー公爵のご子息を連れて来るから私にも来てほしいと頼まれたのだとか。公爵の息子がどんな子か気になっていた私としては、行ってみたかったのだが、急な睡魔に襲われてしまい起きているのが困難な状態に。前世で飲んでいたエナジードリンクとかあれば一発で目が覚めていたのに、こっちの世界じゃないもんね。


「急に眠くなるこの体質、時々恨めしくなる……」
「こればかりは仕方ない。おいで、マルティーナ」
「うん……」


 マグカップをマリンに渡し、両手を広げたお父様に抱き付きに行くと優しく抱き締められた。こうやって抱き締められると安心する。赤ちゃんの時から私を一番に抱っこして、抱き締めているのは断トツでお父様だ。


「寝てろ。魔導研究所へはそのまま行くがお前が寝ていても問題はない」
「公爵の息子がどんな子か興味あったのに……」
「ラナルドの息子ね……ラナルドが何を企んでいるか、正直一番分からん」


 国王陛下のように私と自身の子を婚約させたいと警戒していたけど、先日の公爵の言葉を思い出すと違う気がする。仲良くなるのが一番で息子が私を好きになっても、私が息子を好きになることはないかもしれない的な発言をされた。難ありな性格? でも、お父様に聞いた印象だとあの第二王子より全然普通に思える。

 考えたいのに睡魔に抗えず、重たい瞼を閉じ身体をお父様に委ねた。

  

 ——次に目覚めると。


「起きたか?」


 最初に目に入ったのは毎日見ているお父様の服。身体に巻かれたブランケットの心地良さとお父様の温もりを感じ、起きてすぐに寝そうになってしまうのを堪え、顔を上げて小さな欠伸を漏らした。


「二時間近く寝ていたな」
「ふぁ……ふう。そんなに寝ていたの?」
「ああ」


 道理で熟睡している感覚があったわけだわ。段々意識が覚醒してくると今いる場所が屋敷ではないと解り、さっと見回せば以前訪れた魔導研究所の管理長室と知る。
 身体を起こし、お父様の隣に座り直した私は身体に巻かれていたブランケットを畳んだ。


「何時来たの?」
「二、三十分前くらい前だな」
「お父様は今日お昼寝は?」
「したよ」


 私を抱き締めながらお昼寝したらしく、子供体温は温かくてよく眠れるのだとか。


「お前が起きるまで誰も来るなと言っておいたんだ。一人でもいるとうるさいだろうからな」
「ありがとう。今日はモーティマー公爵とご子息が託児所に来る日だっけ。来てるの?」
「一寸前に来たな」


 ご子息がどんな子か気になるのもあり、うーんっと身体を伸ばして見に行こうよって誘おうとしたら、扉が控え目にノックされた。外から「管理長……マルティーナちゃん起きましたか?」とスレイさんの小声が届く。
 私が返事をすると勢いよく扉が開かれた。


「良かったー! 管理長まずいことになってますよ!」
「何がだよ」
「ぼくから説明をしますよ」


 スレイさんの後に続いてモーティマー公爵が登場。

 先日、私が第二王子殿下に頬を叩かれた際にお父様が十倍返しをし、事態を重く見た国王陛下が一カ月の謹慎他罰を与えたと聞いた。殿下にだけ罰が重すぎると憤る王妃殿下が公爵を呼び出し、魔導研究所の職員に圧力を掛けろと指示をした。お父様との関係悪化を避けたい公爵はサクッとお断りし、且つ、王妃様に釘を刺して一旦は諦めたかに見えた。しかし、蓋を開けたらなんとやら。魔導研究所で主に使われる上質な水はエレメンディール、お祖母様の時代より支援をしている男爵家の領地で採取されており、その男爵家に王妃様の実家が圧力を掛けたことで提供が出来なくされた。

 話の途中でも王妃様の勝手な判断に怒っている私に対し、最後まで無言で聞いていたお父様は公爵の説明が終わると深い溜め息を吐いた。


「男爵はなんて言ってる」
「王妃殿下の実家、ロビンソン侯爵家の要求はマルティーナ嬢をヴィクター殿下の婚約者にすることと魔導研究所の運営者に王妃殿下やロビンソン侯爵家に加えろと。それとルチアーノ様のヴィクター殿下への謝罪も要求していると」


 う……うわあ……。スレイさんがドン引きする気持ちよく分かる。話をしている公爵も淡々と話しているけどかなり呆れ果ててる。お父様に至っては蟀谷がピクピク動き、挙句額に青筋が立ってる。
「あ、あの、これって国王陛下も知っててやってるって認識でいいですか?」とスレイさん。


「いえ、陛下もここまで馬鹿ではありません。王妃殿下は、幼少期の陛下に瓜二つなヴィクター殿下を溺愛していると有名です。その殿下があんな目に遭わされたことに最も納得していないお方です。恐らく、陛下には内密で進めたはず」


 恋愛脳という酷い言われようだけれど、まだ国王陛下の方はまともな理性が働いているんだ。困り果てているスレイさんが助けを求める視線でお父様を見やった。


「管理長、どうしますか」
「どうもこうもねえ。魔導研究所うちとの取引が停止すれば、男爵家むこうだって困る。二百年以上も続いた安定した貴重な収入源なんだからな」
「ですよね、かなり困ってましたが相手は王妃殿下の実家なもので手も足も出せない状態です。管理長が出張るのはロビンソン侯爵家の思う壺なんでしょうが……」
「仕方ねえだろ。はあ。政治に関わる気は更々ないっていうのに」


 頑なに王族籍に入るのを拒んでいるのは政に関わりたくないっていう理由もあると以前聞かされた。両親譲りの魔力や魔法の才を持つお父様一人で一つの国をどうにかしてしまえる。強大過ぎる力は時に人の心を惑わせ、良くない方向へと誘ってしまう。敢えて政治には口出さず、中立の立場を貫くと決めたのだ。
 かなり、相当に、面倒くさげに溜め息を吐いたお父様に降ろされた。


「マルティーナ。少しの間出掛けて来る。おれが戻るまで託児所にいてくれ」
「うん」


 目線を合わせたお父様にいってらっしゃいのキスを頬にしてあげたら、お返しに私の頬にキスをした。頭を数度撫で、スレイさんを連れてお父様は行ってしまった。

 残ったのは私と公爵の二人。


「マルティーナ様」


 私は公爵を見上げた。


「ルチアーノ様が戻るまで私がお側にいましょう」
「えっと、託児所にいろと言われたのでそっちに行きます。どこにありますか?」
「案内します」


 建物内の地理を理解していない私では場所が分からず、差し出された公爵の手を取るとひんやりと冷たかった。私の歩幅に合わせて歩く公爵をチラリと見た。イケメンより美人の部類に入るねやっぱり。


「マルティーナ様は温かいです。子供体温というやつですか」
「公爵のご子息だって子供体温ですよ」
「あの子に触れたことは一度たりともありません」


 え? あ、でも二年前で病気に罹っていたって話だよね……? そのせいなのなら……。と考えた直後、人の心の声を読んだかのようなタイミングで公爵は否定した。


「ジョーリィが生まれて一度も触れたことも抱いたこともありません」
「触るのが怖かったとか……?」
「いいえ。多分——」

「父上?」


 多分。
 その先の言葉は紡がれなかった。

 子供達の賑やかな声が近付くと一人の男の子が出て来た。公爵にそっくりな男の子は公爵を父上と呼んだ。ということは、彼が……。


「待ってよ! ジョーリィ」
「ジュリエット」


 彼を追い掛けて来たのだろう、真っ赤な髪の女の子まで登場。

 誰だろうと眺めていると二人の瞳が私に向いた。


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