私のこと好きだったの?

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ルチアーノとて理解してやれる。が。

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 時は遡って今朝のこと。
 西の洞窟に棲み付いた危険な魔物の討伐を一人で実行すると決めたルチアーノは、朝食を終えるとマルティーナと数分触れ合った後王城へと飛んだ。予め時間の指定をしていたのが幸いし、執務室に突然現れたルチアーノに対しクロウリーは驚かなかった。


「待っていたぞ、ルチアーノ」
「ああ。予定通り、おれ一人で行く」
「それが……」


 ルチアーノが一人で行くのはクロウリーとて承知済み。当日になって歯切れの悪い返事になった理由を聞けば呆れ果てた。現在魔物を討伐するまでは西の洞窟の使用を厳禁とした。洞窟には数か所の出入り口があり、全てに騎士を配置して利用を防いでいた。王都と港町への道を繋ぐ近道として日々多くの利用者がいるものの、身の安全には変えられない。利用者にはその都度説明を行い、騎士の誘導で違う道へ通していた。
 今朝早くクロウリーに一報が届けられた。港町から王都へとやって来た家族が騎士の制止を聞かず強行突破をしてしまったと。


「使えない奴等を配置したのか」
「そんなことは決して。見張りに配置した騎士の事情を聞くに、病気の子供を早く王都の医者に診せたいと迫られたのを止めたようなんだ」
「ふむ」


 早く医者に診せないと命の危険があると港町の医者に言われ、急ぎ王都へと駆け付けた。後一歩のところで足止めを食らった家族は危険な魔物が棲み付いて規制されていると聞いても耳を傾けず、無理矢理洞窟へ行ってしまったのだ。現在見張りをしていた騎士の一人が追い掛けて行き、残った一人が連絡を寄越したのだ。


「その後の連絡は?」
「ない。時折、洞窟の中から人間の悲鳴が聞こえると見張りの一人が話している。ルチアーノ、魔物の討伐とその家族達の救助も頼めないか」
「やれやれ」


 事情が事情だけに見張りも強く出られなかったのだろうが、最も危険な場所に入らせれば全滅の可能性だってある。後を追い掛けた騎士の一人も無事でいるか不明な現状、執務室で話している暇はなく、仕方ないとルチアーノは引き受けた。


「クロウリー。おれは転移魔法でそのまま行く。後で医療部隊を派遣してくれ」
「分かった。すぐに手配をする」


 有事の時は判断が早く、時に此方が驚く時があるだけに、マルティーナに拘るクロウリーが残念でならないと内心嘆息したルチアーノが転移魔法を使おうとした直後、突然扉が開いた。
「お待ちください! 陛下!」と突然現れたのは第三部隊に所属する騎士。ルチアーノは顔と名前を知っているが相手をする気はなく、無礼者と厳しい言葉を放つクロウリーに「おれは先に行くぜ」と告げ、彼が頷いたのを合図に転移魔法を使った。

 自分が去った後の執務室でのやり取りが気になってちゃっかりと盗聴用の魔法を置いて行った。



 ●○●○●○


 今日も青空が綺麗で木漏れ日がより綺麗に映し出されている。周りは木々に覆われた西の洞窟の前に到着したルチアーノは見張りをしている騎士に声を掛けた。


「異変はないか?」
「ルチアーノ卿!」


 ルチアーノに気付いた騎士は敬礼をした。


「現在はありません」
「此処の出入り口が港町の家族が強行突破したっていう場所で合ってるな?」
「はい。後を追い掛けて行った同僚も家族もまだどの出口からも出て来ておりません」
「悲鳴は?」
「彼等が洞窟に入った直後は聞こえていましたが……今は……」
「そうか」


 聞こえないのは洞窟の奥へ行ったか、それとも……。


「陛下の命令で医療部隊が後で派遣される。連中が来たら説明をしておいてくれ」
「了解しました! ルチアーノ卿、お気を付けて!」
「ああ。お前もな」


 見張りと別れ、外の光景と一転した暗い世界に足を踏み入れたルチアーノは一旦黒眼鏡を外し懐に仕舞った。
 光の点が青の瞳の表面に複雑な術式を描くと瞳は輝きを増した。ルチアーノの視界は暗闇の世界でも周囲の光景が見えるようになった。


「さて、と」


 視界はこれで十分。次は聴覚を研ぎ澄ませ音を拾う。


「ふむ」


 微かに届く悲鳴。女の声が二人、男の声が一人、それと魔物の叫び声と同時に剣をぶつける音。
 ルチアーノのいる場所から恐らくかなり離れてしまっている為、明確な言葉は聞き取れないが危険が迫っていることだけは確かだ。
 転移魔法は位置を正確に把握するか、対象の魔力を感知しないと使用ができない。家族は平民、彼等を追い掛けて行った見張りの魔力は弱い。転移魔法での移動は使えないとなると自力で向かうしかなく、一つ溜め息を吐いてルチアーノは駆け出した。

 魔力が高いと魔法に頼り切って身体を鍛えない傾向にあるのがエルフの特徴。父はそんな怠慢な性を嫌い、常に肉体の鍛錬も怠らなかった。息子の自分にも肉体の鍛錬を課せた。マルティーナが生まれる前も後も定期的に動かしているお陰で走るのは嫌いじゃない。
 魔法によって見える視界には、異常は映らない。石ころが転がり、小さな雑草が生えているだけ。魔物が食い散らかした形跡はなし。
 走り続けるルチアーノの耳に人間の声が届く。足を止め周囲を見回すルチアーノは岩の後ろからはみ出ているスカートの裾を見つけた。


「そこに誰がいる」


 近付きながら声を掛ければ、女性が飛び出した。ルチアーノは見えていても女性は暗い洞窟の中で恐らく何も見えていない。現に声がした方を不安げにキョロキョロと視線を動かしている。基本洞窟を抜ける時は灯りを持つのだが、魔物が棲み付いている現状自分の居場所を報せるような代物は持たない。
 灯りを灯して視界が明るくなり、姿を明確にしたルチアーノを見た女性は安堵によって腰が抜けたのか座り込んでしまう。


「おい、大丈夫か」
「は、はい」
「外にいる見張りに状況は聞いている。危険な目に遭っているのは自業自得だと解ってるな?」
「はい……」


 危険な魔物が棲み付いた洞窟の使用を禁じる代わりに遠回りになるが別の道への誘導を騎士達にされたのを女性は認めた。病気の娘を一刻も早く王都の医者に診せたい一心で強行突破をかましたことに深い後悔を抱いていた。急いでいる時程、慎重に、冷静に、判断しないとならない。両手で顔を覆って泣き出した女性に呆れつつ、外の見張りのところへ飛ばすと告げるとすぐに転移魔法で女性を飛ばした。服は汚れ、髪もボサボサな状態を見るに魔物から逃げ回っていたのだろう。残る二人と騎士も早急に見つけなければとルチアーノは灯りを消すとまた駆け出した。

 徐々に人間と魔物の声が近付いてきた頃、広い空間に入ったルチアーノは灯りを出現させ、全体を明るくするよう高い位置に置いた。薄暗くても見えないよりマシだと思ったのも束の間、悲鳴を上げながら男が何かを抱えてルチアーノのところへ走って来た。よく見ると抱えているのは女の子。口を手で抑え咳き込んでいるのを見ると早く医者に診せたいという両親の気持ちは察してやれた。

 が。


「た、助けてください!」


 ルチアーノの足下に滑り込んだ父親は娘を抱えたまま泣きながら頭を下げた。大きな溜め息を吐いて父親に自業自得だと言い捨てた。


「自分の子を救いたい気持ちはおれにも分かる。が、お前等親の判断で我が子に危険が及んでいるだろうが」


 洞窟への出入り口を封鎖しても別の道へ誘導されていれば、今頃王都に着いて医者に診せてやれただろうと言うルチアーノの言葉に父親は反論できず、何度も謝った。大事に抱かれている娘を見ているとマルティーナが頭に浮かんだ。留守をラナルドに任せた為、不安はないが王家の馬鹿がまた馬鹿をしでかさないとも限らない。
 父親に頭を上げさせ、女の子の容態を確認したルチアーノは額に手を置いた。医療に特化した魔法は使えないが神聖力なら多少マシにすることは可能だ。神聖力を注がれた娘の顔色は幾分かマシになり、娘とルチアーノを交互に見る父親を立たせた。


「今から母親のところへ飛ばす。そこでジッと待ってろ」
「あ、貴方は」
「無駄口を叩くな。さっさと飛ばすぜ」


 有無を言わさず父親を娘と共に母親と同じ場所に転移魔法へ飛ばすとすぐさまルチアーノは奥で魔物を相手にしている騎士の許へ駆け付けた。
 岩の後ろに隠れていた騎士に声を掛けると声を出されそうになり「しー」と静かにさせた。


「状況は陛下や外にいる騎士に聞いた。強行突破した家族は無事だ」
「よ、良かった!」
「魔物の力は?」


 ルチアーノに問われた騎士はしっかりとした口調で魔物の説明を始め、大聖堂やクロウリーから得た情報と同じだとルチアーノは納得する。


「魔物と対峙して一つ分かったことが」
「なんだ」
「あの魔物が振り向いた直後に此方が動こうとすると身体が動かなくなると聞いて私も動きを止めました。しかし」


 微動だにでもすれば身体は動かなくなり、迫る魔物を前に自身の死を覚悟した騎士だったが、何故か魔物が目前まで迫ったにも関わらず身体が動けるようになり、間一髪助かったのだ。それも二度。説明を聞いたルチアーノは少しの間無言を続け、軈て騎士の肩に手を置いた。


「でかした。有益な情報感謝するぜ」
「はい!」
「お前をあの家族を飛ばした所へ今から飛ばす。外の見張りと一緒に王都への道案内をしてやれ」
「ルチアーノ卿、子供の方はかなり咳が酷く容態が悪く見えましたが……」
「少しだけ緩和させた。後は、子供の体力次第だな」


 神聖力を使った為多少の時間稼ぎにはなった筈。騎士を転移魔法で飛ばしたルチアーノは雄たけびをあげる魔物のいる場所目指して再び駆け出したのだった。


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