まあ、いいか

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こっちもだった

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 ジューリアの誕生日まで後五日。四日前、ジューリアが話したのは前世小菊が好んでプレイしていたゲームシリーズの内容。ゲームとは言わず、小説の内容という体にして語った内容を話し終えるとネルヴァが一番乗り気になった。ヴィルの方は成功する確率が低そうだと低姿勢、ヨハネスに関しては考えもしなかったと目から鱗状態。しかしすぐに思考が冷静になるとヴィルに同意した。


「おはようジューリア」
「おはようヴィル」


 昨夜は元の姿に戻ったヴィルと一緒に寝れず、与えられた客室で一人眠ったジューリアだが、翌朝目を覚ませばヴィルに抱っこをされている体勢になっていた。眠たい目を擦り、小さく欠伸をするとヴィルに抱き付いた。元の姿に戻った日の夜からヴィルに一緒に寝るのはどうしようと相談した際、どうしてと言いたげに首を傾げられた。どう理由を言おうか悩んだジューリアは深く考えず、元の姿に戻ったヴィルとそのまま寝続けた。一応周りには気を遣っており、ケイティが起こしに来る時間になればヴィルが先に部屋を出て行く。


「大人のヴィルだ~。良かったね元に戻れて」
「後は神力が完全に戻ってくれたら尚良いのだけどね」
「ヴィル自身が解除しないといけないんだよね」
「残りの封印については俺自身が解除しないとならない。かなり厄介だから、これはこれで時間が掛かるんだ」


 今までは重りを付けた状態で深海を歩いているような状態から、目視困難な落とし物を見つけないとならない状態へと変わった。ヴィル自身の力で元の姿に戻れても同じだったと語る。


「ヴィルって良い匂いがする。香水?」
「さあ」


 鼻腔を擽る甘い香りはきっと香水だ。なんの香水か訊ねてもはぐらかされるのみ。


「そろそろ起きて。君の侍女が部屋に来るよ」
「うん」
「侍女は連れて行くの?」
「行かないよ」


 ケイティはジューリアの我儘で大教会まで付いて来てくれた。帝国を出て行くなら彼女は置いて行く。大教会にいる間は同じ帝都にいるというわけで、給金がしっかりとフローラリア家から支払われる。しかし、帝国を出て行けばケイティに給金は支払われない。


「細かい気配りが上手だからフローラリア家に戻ってもらうよ。ケイティにだって生活があるからね」


 仮にケイティから付いて行きたいと頼まれても断るつもりだ。

 ヴィルから離れ、また後でと頭を撫でてからヴィルが出て行ってすぐにケイティがお湯の入った器をカートに載せて部屋に入った。


「おはようございます、お嬢様」
「おはようケイティ」


 ケイティが来れば朝の支度の開始だ。
 顔を洗い、寝間着から普段着に着替え、鏡台の前に座るとケイティに髪を梳いてもらう。セレーネと違って丁寧で優しく、嫌味を一切言ってこない。無言でジューリアの髪を梳いてくれるケイティにある事を訊ねてみた。


「前にも聞いたけど、ケイティは屋敷を解雇されたセレーネを見た?」


 以前は見ていないと返され、もうジューリアは気にするべきではないと心配をされた。魔族に体を乗っ取られ、街を破壊したミリアムの裁判はまだ続いており、魔族に体を乗っ取られた点を考慮され、重い罪を犯した者が送られる北の鉱山送りが妥当と話が纏まりかけていると以前神官のセネカがこっそりと教えてくれた。
 今回も分からないと言われると思っていたジューリアだが、ケイティから聞かされたのは予想外な台詞だった。


「お嬢様には黙っているつもりでしたが……」
「見たの?」
「はい。二日前、大教会に突然姿を現しました」
「え」


 大教会に? 吃驚して思わずケイティに振り向いてしまったジューリアは理由が知りたいと見上げた。
 ケイティによると此処にジューリアが天使様と滞在していると何処からか聞き付けジューリアに会わせてほしいと神官に泣き付いていたのだとか。


「私も現場を見た訳ではありませんので、詳細は不明ですがその場に居合わせた神官様曰く、かなり追い詰められた状態だったと」


 伯爵令嬢のミリアムと違ってセレーネは平民出身。帝国の名家フローラリア家の長女をいびり続けたセレーネを実家が受け入れる訳もなく、必死で見つけた仕事も結局はすぐに辞めてしまったのだ。


「私の侍女をしていたなら、それなりにお給金だって貰えたんじゃないの?」


 ジューリアはフローラリア家の無能なのに我儘で勉強嫌いな問題が沢山の娘扱いをされ、常日頃からジューリアに虐められていたと公爵夫妻に訴えていたセレーネは多目に給金を貰っていた筈。金遣いが荒かったのかと聞けば、ケイティに前を向かされ、再び髪を梳かれながら肯定された。


「フローラリア家の方々の専属は他の使用人達より給金が上がるのは事実です。セレーネは見栄っ張りなところがあったので平民では手が出し辛い服やアクセサリーを好んで購入していました」
「借金まではしていなかった?」
「そこまではしていないかと。大教会に現れたセレーネは貧民街の住民よりも酷かったと聞きましたので、何か良くない事に手を出した可能性は否めません」


 髪を梳き終え、ハーフアップにしてもらうと朝の支度は完了。鏡台の前から退き、ケイティの手を引いて部屋を出た。


「ケイティが私の侍女をしているってセレーネは知ってると思う?」
「分かりません。お嬢様が大教会に滞在していると知って此処を張り込んでいるとすれば、もしかしたら私の姿を見ているかもしれません」
「そうだよね。暫くケイティにお使いを頼むのは止めとく。何かあったら大変だもん」
「ありがとうございます。多少魔法を使えますから心配には及びません。何なりとお申し付けください」
「そう?」
「はい」


 なら、いいか。と納得したジューリアは食堂に到着。四日前から神官達が利用している食堂で食事を摂らせてもらっている。理由は広い所で食べたいとヨハネスが我儘を発動させただけである。
 既にヨハネスとヴィルがいて、二人の前には香ばしい香りが漂うベーコンエッグとカリカリに焼けたバゲット、野菜たっぷりのスープにサラダ。唯一違うのは量。ヴィルは普通、ヨハネスは大盛といったところ。ジューリアはヴィルの横に座った。


「来たねジューリア」
「うん。おはようございます甥っ子さん」
「うん」


 食べるのに夢中で朝の挨拶を生返事で頂くもジューリアは気にしない。

 薄い白い膜にフォークを刺すと半熟の黄身が流れ、ベーコンに絡め食べているヨハネスの銀瞳はその美味しさに輝いたまま。前世の朝食でもよく食べたなと思い出す。熱したフライパンに油を引き、厚切りベーコンを置く。油がベーコンを焼く音を聞くのが好きで、特に全世界で愛される映画でベーコンエッグを作るシーンを見るのが大好きだった。動画配信サイトの例のシーンを再現した動画を見るのも好きだった。思い出していると増々食欲が増し、続けてベーコンエッグに手を伸ばし続けた。

「ジューリアもこれが好きなの?」とヴィル。


「好きだよ。特に、ベーコンを焼いている時の音が好き」


 ヨハネスではないがお代わりをしたいくらいだ。バゲットに余ったソースを付けていると神官のセティカが慌てた様子で「ジューリアお嬢様!」とやって来ると先程フローラリア家の使者から届けられたらしい手紙を手渡された。


「これを急ぎお嬢様にお見せするようにと」


 本当は四日前に告げた通り、翌日に見せてもらう筈だったがカマエルの件があり誕生日当日に変えた。誕生日当日には屋敷に戻ると改めて約束してあるのに、一体何の用があると言うのか。ペーパーナイフを借り、渋々封を切って手紙を読んだ。途中で青緑の瞳を瞠目させたジューリアはヴィルやヨハネスにも見えるようテーブルに手紙を広げた。
 ここを読んでとジューリアが示した先に書いてあるのは、ジューリアの誕生日当日天使様に見せる“浄化の輝石”から祝福が消えているという旨だった。


「これって……」
「ああ、間違いない」


 犯人は言わずもがな——。


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