行動あるのみです!

文字の大きさ
41 / 81

ミエーレの誘惑3

しおりを挟む

 呆れて物が言えない、とはこのこと。
 でも、巫山戯ているようにも見えない。長年の付き合いから、他人では分かり難いミエーレの真剣な時は不敵な笑みを浮かべる。ミエーレなりにレーヴを助けようとしているのがシェリに伝わる。
 
 
「そうね……でも、わたしと殿下の婚約解消を誰も知らないから、逆にわたしもミエーレと浮気してるって思われないかしら?」
「元々おれとシェリは小さい頃から付き合いがあるんだ。狭い貴族社会でそれを知らないのは、噂に疎い奴か引き篭もりくらいだよ」
「それもそうね」
 
 
 度を越した仲の良さを見せ付けるのは駄目だが、昔馴染みらしい許容範囲でなら周囲も下手な勘繰りはしないだろう。
 
 話し合いはこれで終わり、ミエーレとシェリ、ヴェルデとミルティーで分かれた。
 ちらっとシェリはヴェルデとミルティーの後ろ姿を見た。あの2人には適切な距離感しかないが、ミルティーが積極的にヴェルデに話し掛ける光景を見てもしやと抱く。
 自分の勘違いのせいで振り回してしまった2人に罪悪感を抱かない日はきっとない。今度、ヴェルデにもミルティーと同様の話をしなければ。
 
 
「シェリ」
 
 
 後ろばかりを気にしていたのでミエーレの声に驚いた。
 
 
「どうしたの」
「いえ。ヴェルデ様とミルティー様を見てただけよ」
「気になる?」
「そうでもないわ」

 
 図書室で話し合いを始めて時間が経過しており、残っている生徒は殆どいない。眩しい夕焼けが学院の廊下に注がれる。
 
 
「ミエーレは“転換の魔法”を使えるの?」
「使えるよ」
「使えない魔法があるのか疑問だけれど」
「おれにだってあるよ」
 
 
 高等魔法を使えるアデリッサの従者は、彼女が取り巻きから奪った。ヴェルデが後日令嬢に接触し、結果を聞く段取りとなっている。
 校舎を出て、校門へ向かう。シェリは馬車を遠慮したので歩いて帰る。ミエーレはそれを聞き、自分も歩いて帰ると言い出した。
 
 
「馬車が待っているでしょう」
「偶には自分の足で帰るのも悪くないかなって」

 
 シェリもそう思っている。これからは月に1度か2度は歩いて帰ることにした。
 校門に近付くと誰かいた。夕焼けに照らされ光る青銀の髪を見間違えない。
 ――レーヴとアデリッサがいた。
 
 
「殿下! 今日は失礼しますね!」
「ああ。気を付けてお帰り」
「はい! ……あ」
 
 
 心の痛みはまだまだ消えてくれない。恋してると一目瞭然の光景なレーヴとアデリッサ。アデリッサがシェリとミエーレに気付くとレーヴも倣った。2人一緒にいるところなど、例え彼が魔法にかけられている被害者だと知りながらも心は悲鳴を上げる。表情は恐怖に怯えながらも、口元はシェリへの嘲笑を忘れないアデリッサに吹き出したのがミエーレだ。
 
 
「器用だねナイジェル嬢。口が面白い」
「!」
「口?」
 
 
 慌てて口元を変えたアデリッサ。レーヴは何のことだと言わんばかりの顔。そして、殿下ぁと声を上げて胸に飛び込んだ。
 
 
「ミエーレ様が意地悪をしますっ、それにシェリ様も……怖い顔で……」
 
 
 怖い顔はしてない。普通と同じ。怖く見えるのは生まれ持ってのもの。ミエーレは真実意地悪である。
 本当ならレーヴの隣にいられたのは自分なのに、安心させるように慰められるのは自分だった筈なのに。どす黒い感情が胸に渦巻く。
 公爵令嬢として、第2王子の婚約者だった意地がシェリを冷静にと諭す。深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると先を行こうとミエーレに促した。
 2人の横を過ぎ去る辺りで「殿下。失礼しますわ」とこうべを垂れた。
「待て」とレーヴに鋭い声で呼び止められた。
 
 
「アデリッサもいるのだぞ。お前は昔から僕のアデリッサを敵視しているが挨拶くらいしたらどうなのだ」
「……」
 
 
 “転換の魔法”は認識すら転換されるみたいで。レーヴの言うそれは逆。アデリッサが常にシェリを敵視していた。隠れて馬鹿にする笑みを向けるアデリッサを無視し、堂々とレーヴに言い返した。
 
 
 
「そうだとしても殿下には関係ありませんわ。わたしとアデリッサの問題ですので。それに、です。関わるだけ時間の無駄になる相手に割く時間がある程、わたし、暇じゃありませんので」
「なっ!」
 
 
 直球で相手をする価値がないと言われ、絶句するアデリッサだが見る見る内に顔を赤く染めていく。折角レーヴの心を手に入れて有頂天になっているところだろうが、シェリに容赦をするつもりは一切ない。
 レーヴの顔色が険しくなった。
 
 
「アデリッサに謝るんだっ」
「嫌ですわ。何でしたら、第2王子殿下が慰められては?」
「っ」
 
 
 まただ。
 殿下、第2王子殿下と他人行儀に呼ぶだけでレーヴは苦しそうに顔を歪める。冷たい態度を取るシェリも辛い。早く立ち去るにはどうするか……すると、ミエーレが「殿下」と前に出た。
 
 
「おれとシェリは急いでいるので今日はこの辺で」
「あ、ああ」
「帰ろう。シェリ」
「……ええ」
 
 
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...