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見せ付けられる口付け1

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 ライトカラー男爵からの要請を受けたナイジェル公爵が魔法の才能に優れたマティアスを魔法研究所に連れて行きたいとアデリッサに告げたものの、既にシェリとミエーレに企みがバレているところに彼を1人行動させるのは危険だと判断し、お得意の我儘で拒否した。
 ……と、今朝、迎えに現れたミエーレに聞かされたシェリは予想通りだと驚きもなかった。馬車の中、食べそびれた朝食を楽しむミエーレにフィッシュチップスを差し出された。


「食べる? 美味しいよ」
「ええ、いただくわ」


 シェリは朝食は済ませてきたがフィッシュチップス1枚ならどうということはない。ヴァンシュタイン家お抱えの料理人が作る品はどれも一品だ。オーンジュ家の料理人も負けていないが、偶には他家の料理を食べるのも悪くない。
 貰ったフィッシュチップスを食すとナプキンを渡され、汚れた指を拭いた。


「アデリッサは次に何を仕掛けると思う?」とミエーレに問われ、人差し指を顎にとんとん当て、ある予想を紡いだ。


「“魅了の魔法”をわたしに使いそうだわ」
「シェリに?」
「ええ。といっても、魅了されるのはわたし。わたしがレーヴ殿下に魅了されるように設定して、足蹴りにされるのを期待してそう」
「はは。中々に悪趣味だな」


 だが、可能性が高い。
 マティアスが再びアデリッサの命令を聞くか定かじゃない。間接的にマリーベルを人質にされている彼なら、もっと別の方法で実行する方法もある。それが今問題の“転換の魔法”である。
 “魅了の魔法”は使うだけで重罪となる。


「仮にマティアスが“魅了の魔法”を使ってきたらどうするの?」
「事実が公になっても、減刑してもらうようお父様にお願いするつもりよ。彼も立派な被害者よ」
「優しいね、シェリ」
「優しくないわ。自分が嫌だからするだけ」
「はいはい。あ、もう着くよ」


 会話をしている間にも馬車はクロレンス王立学院に到着した。朝食道具は横に置かれた。御者が扉を開くと先にミエーレが降りて、外からシェリに手を差し出した。


「偶には紳士らしいことしてもいいだろう?」
「ミエーレが紳士ねえ……顔はいいのに」
「ほっといて」


 本人も隈は気にしているらしく、努力して寝ようとするが中々寝付けず、苛ついて魔法研究に没頭してしまうのだ。ミエーレに降ろされたシェリは御者に今日は馬車で帰ると伝え、校舎内に入った。玄関ロビーに来ると待っていましたと言わんばかりのレーヴとアデリッサがいた。
 朝から時間がかかる……。
 険しい表情なのに、複雑に揺れるレーヴの青い宝石眼。“転換の魔法”に揺さぶられ、自分の本当の気持ちをコントロール出来ないでいた。
 シェリは複雑な思いを抱え、レーヴに朝の挨拶をした。


「おはようございます、第2王子殿下」
「……ああ」
「おはよう殿下。朝からイチャイチャしてるのをシェリに見せ付けて……これ、婚約解消した後だからいいけど、していなかったら立派な浮気だよ」
「っ」
「酷いです! ミエーレ様! わたくしと殿下は愛し合っているのに……!」


 レーヴの腕に引っ付き、涙をたっぷりと溜めてミエーレを睨み上げる姿は小動物が肉食獣に必死の抵抗をする光景と似ている。
 ……が、シェリは呆れたように口を挟んだ。



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